お子様の手はしっかり握って下さい。
『うぅ…お…ま……さま』
誰かが泣いている。
『まお……まぁぁ』
泣かないで。
『いかな……まおうさま』
大丈夫。俺はここにいるよ。
『行かないで、お父様!』
嫌な夢だ…。
いつから見るようになったのかもう覚えていない。
頬が冷たい、俺もまた泣いていたのか。
魂が凍える、心が燃える。相反する二つの根源は怒りと悲しみ。
頭が割れる、体が裂ける。そうか思い出した。
俺が、ダレガ、私が、ヤリヤガッタ、守ってやる、コロシテヤル、邪魔をするな、ワカラセテヤル、そうだ、ワタシガ、俺が。
『サイゴの魔王だ』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ムギュ」
我ながら変な声が出た。
目の前が真っ暗だ、目は空いているのに真っ暗で何も見えないこれいかに?
いや、理由はわかっている。踏まれているのだ。
そして、痛みと快感の境界を弄ぶような絶妙な力加減、重心を変えることによっと飽きさせない遊び心。まさにプロの手腕!足技なのに手腕!
よろしい、そちらがその気ならこちらにも考えがある!かつて偉人ははこう言った『その足……
ドスッ
「ぐげぇ」
「うるさい、そして長い。あと私はプロじゃない」
「ごごろのごえが、ぐぢにででまじだ?」
「あぁ、これでもかって程にね。君の心はずいぶんと開放的なようだね」
「じょうじきものがうりでじで」
『はぁ、立ちなさい』ため息混じりにそう言って足をどけ、亀さんは再び手を差し伸べてくれた。
「ありがとう。……ん!?うおぉぉぉ」
「ねぇ、私の手を握っていつまで遊んでいるの?また踏まれたいの?それともまた気絶する?」
「踏まれるのは吝かでは…。ち、違う、遊んでる訳じゃなくて。体が動かない。いや動くんだが立ち上がれない。せーの、うおぉぉぉ」
「本気で言っているの?赤子じゃあるまいし…?」
そう言って握っていた手が解かれ、亀さんは顎に手をあて『まさか…そんなことが?』と呟やきながらなにやら考え口を開いた。
「ちょっとあなた、ステータスカード出してみなさい」
「うおぉぉぉ…両手ならいけるはずぅぅぅ、そりゃぁぁぁ…。えっ何!?ステータスカード?」
「そう。地球には存在しないけど日本の文化で知識としては広く知られてるんでしょ?『オープン』って言えば開くから」
「確かに一部の文化の知識として広まっている。だがなぜか素直に納得したくない。まぁいいや『オープン』」
そう唱えた途端まばゆい光と共ににゅるんと半透明のカードに色々書かれたものが出てきた。額から。
「額から出てくるんだな…。なんかこう掌とかもっとこうあるだろう、あと目を痛い…」
「デフォルトだからしょうがないわ。後で設定を変えれば掌からも出せるし、無駄に光ったりもしないから」
「ねぇ。デフォルトだの設定だの、俺のファンタジーを壊さないで頂けないでしょうか?こうね、もっと融通が効かないからこそ趣があるというか………ブツブツ」
なんて叫びは誰にも届いておらず、亀さんは俺のステータスカードを拾い上げ内容を確認し目を見開いた。
「あなた、今までどうやって生きてきたの?この世界に限らず向こうの世界でもこのステータスでは日常生活すらままならないわよ」
先程まで冷静に淡々と話を進めていた亀さんが驚く内容。
自分の事だが猛烈に知りたくない。だがそうも言ってられないと目の前につき出されたカードに目を通した。
ーステータスー
名前:トール シラモイ
種族:人族(100%)
性別:男w
職業:未登録
LV:1
HP:4
MP:4
ATK:4
DEF:4
INT:4
SPD:4
LUC:4000
スキル:異世界語(共通語のみ解放) 上級謝罪
称号:謝罪の王(土下座交渉に補正大)、ヌレリスト(雨に濡れれば濡れるほどステータス増加大、但し雨具装備時ステータス激減大)、忘れ物(@%*○¥$@)
加護:なし
よし、OKだ。俺は冷静でCOOLだ。素数だって数えられる、1、2、3、4、5…しまった、そもそも素数がよくわからない。
さて、言いたいことが沢山ある。まず名前間違えてるよね。『トール』ってあんた、外国の人には発音しにくいからこっちでいきますねって感じですか?『シラモイ』に至っては意味がわからないし悪意を感じる。ハンマーでぶち壊すべきか?
あと俺の種族は変動するのか!?これからの日々が不安だよ!朝起きて尻尾生えてきてたら……ありだな。違う違う!そうじゃない!それで次に性別、草生やしてんじゃねぇよ!へたれだからか!?喧嘩売ってんのか!?よし!作ったやつかかってこい!
レベルが低くいのは納得できる。ゲームのように生き物の命を奪い経験値を得てレベルを高めていくなら、現代日本の高校生には難しい。
あとの数値は高いのか低いのかわからん。ただLUCに極振りなのはわかる。今までそんなに運がいいと感じたことがないけども…。
スキルの異世界語はあの水風船だな。なんかアナウンスでもそんなこと言ってたし。
ただ部分解放みたいだ。この先も会話で困ることがあるのかな…。
上級土下座、俺知らないうちに最低でも2階級はマスターシテタンデスネ。
称号については触れたくない。王じゃないもん!平民だもん!土下座交渉ってなに?明らかにスタートから対等な交渉のテーブルについてないよね?
そしてヌレリスト。マジで称号だった!しかもわりとすごい。しかし、毎回濡れないといけないのか。
忘れ物は称号なの?文字化けして内容わかんないし。
「ねぇ、さっきからすごい顔になってるよ?気持ちはわからなくもないけど。それで君…トール君でいいかな?立ち上がれない原因わかったよ」
「トオルなんですけどね。あと呼び捨てでいいですよ、俺の方が年下っぽいですし。それで原因っていうのは?」
「あぁ…見てわかる通りトールのステータスね、…異常なんだ」
「なんとなく予想はできてました、改めて言われるとくるものがありますけどね」
「具体的に言うとねLUCの数値も異常だけど、その他の数値の4って言うのはね、この世界の子供がつかまり立ち出来るようになる数値なんだ…」
「えっ!?…つかま…えっ!?」
「ま、まぁあれだよ!頑張ろう!うん!レベルが上がればステータス値も上がるし!そしたら大丈夫だから。ほらお姉さんも手伝っちゃおうかなぁ?あはは……」
「つかまり立ちで?」
「……ハイハイなら出来るんじゃないかな?」
「武器もなしに?」
「……枝でも拾ってこようか?」
この日俺は声も出さずに泣いた。
話が進まない。テンポのよく展開させるのって難しいですね。