私と祐兎くんと放課後
2人でほうきをかけたら、教室の半分があっという間に終わり。
横井くんと祐兎くんに机を元の位置に戻してもらって、私はひたすらほうきを動かした。
途中、先生が来たが特に何も言わずに去っていった。
教室の後ろに溜まったゴミをちりとりに集めて捨てた。
(よし、終わった)
私がロッカーに掃除用具を戻すと、横井くんは荷物を持ってさっさと教室から出て行ってしまった。
彼は確か部活に入っていないから、帰ったのだろう。
(私も帰らなきゃ)
特に用事がある訳でもない。
でも、学校に居続けるのもなんだか嫌だ。
教室にはもう、私と祐兎くんしかいない。
幸せだけど、ずっと此処にいる訳にもいかない。
「春川さん」
声を聴いただけで分かる。
今日何度目だろう。
名前を呼ばれたのは。
「なに?」
振り返れば、やっぱりそこにいたのは祐兎くん。
「帰るの?」
「うん、今帰ろうかな~と思ってたところ」
「そっか。
ねえ、もしこの後時間あるなら、一緒にちょっと勉強していかない?
テスト近いしさ」
「うん!!
する!!」
「ほんと?よかったぁ」
祐兎くんは安心したように笑った。
まさか、祐兎くんに勉強しようって誘われるなんて・・・。
今日はなんて幸せな日なんだろう。
神様は私の初恋を応援してくれているのだろうか。
「こっちおいでよ」
祐兎くんは自分の机と、その前の机を向かい合わせにしてくれていた。
なんて優しいんだろう。
用意してもらった席にリュックをかけて、席に着く。
祐兎くんと向かい合わせだと思うと、顔も上げられない。
顔が熱い。
顔が赤くなっていないか心配になる。
「大丈夫?」
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「いや、なんかずっと俯いてたからさ
用事とかあったかなぁと思って」
「あ、ううん
全然そんなことないから、大丈夫」
祐兎くんが優しすぎる。
緊張している場合じゃない。
こんな幸せな時間、もう一生訪れないかもしれない。
今は楽しもう。
「何の勉強する?」
彼はリュックを膝に置いて、中から勉強道具を机に並べていく。
「ど、どうしよっか
って、祐兎くんってかなり成績よくない?」
確か、前のテストの成績上位者の張り紙に名前があったような。
それもかなり上の方に。
私なんか、下から数えた方が早いのに。
「そんなことないよ
それに、僕が頭よくても勉強しなかったら結局成績落ちちゃうしね
努力は力なり、だよ」
へらっと笑う彼。
純粋すぎる・・・。
すごく尊敬する。
「そっか、すごいね
あ、じゃあ、英語にしない?
私ちょっと苦手でさ」
苦手な英語を彼に教えてもらったら絶対上達する。
だって、好きな人の言葉なら頭に入ると思うから。
先生のことは嫌いだから話聞きたくないけど、祐兎くんは先生じゃない。
私の初恋の人だ。
「うん、いいよ」
勉強を始めて数十分。
思った通りだった。
分からないところを彼に聞くと、すごく分かり易く教えてくれた。
出来なかったところが出来ると、優しく褒めてくれた。
勉強が楽しくて仕方なかった。
問題を解く途中、ちらっと視線を上げてみる。
シャーペンを走らせる、彼の真剣な顔。
休み時間の彼とはまるで違う顔だ。
ドキドキが止まらなかった。
(ずっとこの時間が続けばいいのにな)
「ふう
疲れたね」
「そうだね~」
私たちが勉強を始めて1時間ちょっと。
さすがに疲れた。
「そろそろやめよっか」
祐兎くんがほほえみかけてくれる。
「うん」
私も笑ってみる。
ちゃんと笑えてるかな。
この1時間で、私の恋心は一気に大きくなってしまった。
入学式の時から溜め込んでいた想いがあ溢れてしまいそうだ。
彼に私の「好き」を伝えたくてたまらない。
リュックに道具をしまい始めている祐兎くん。
「春川さんもやればできるじゃん」って言って笑顔を向けてくれる。
もう、だめだ。
「あの!」