私と放課後
結局、今日の授業は殆ど集中出来ずに終わってしまった。
机に視線を落とすと、自然と顔も下を向いた。
「凛ちゃんっ
一緒にかえろー?」
上から降ってきた声の主はほのかだった。
私の苦悩を知らずに、いつも通りのふわふわした笑みを浮かべていた。
ほのか愛用のリュックを背中に背負って、もう帰る準備は万端というかんじだ。
「うん」
と、答えてから気づいた。
「あ、今日、掃除当番だった・・・」
「ええ~」
教室内の掃除を毎週交替でするのだが、今週は私は当番の秀だった。
ほのかは「仕方ないかぁ」と残念そうに呟いて、私に手を振って教室を出て行った。
もう教室に残る人はまばらだった。
掃除当番の人とこれから部活がある人、10人ちょっとしか生徒はいない。
用事のない子達はみんなさっさと帰って行く。
(めんどくさいなぁ)
ふと、周りを見渡してみる。
一番最初に目に入ったのは、机に突っ伏して眠る祐兎くんだった。
(え、あ、祐兎くんも今週掃除当番なんだ・・・)
先生が適当に組み合わせてくる当番表。
毎週同じメンバーということはないから、こんな嬉しい組み合わせもあるのだ。
私の心は一瞬で舞い上がった。
さっきまで心を支配していた、めんどくさいという感情は消えていた。
それどころか、今週一週間は放課後に祐兎くんを見ていられる時間が増えることに喜びさえ覚えた。
(先生、ありがとう!)
いつもは決してしないが、今回だけはあの担任の先生に感謝しなければならない。
組んだ腕に顔を埋めているから寝顔さえ拝めないものの、私は幸せだった。
ワイシャツの襟に当たって反り返る髪の襟足を見るだけでも幸せだったのだ。