再会?
目が覚めて、近くに人の気配があることに気が付いた。
「あ、起きましたか」
ピントを合わすように、ぼやけた視界を調整し、その眼に写った人物の顔は――
「え、絵利奈っ!?」
――自分のよく知る幼馴染みの顔だった。
「はい? 私の名前はエリーナですが……、何処かでお会いした事が有りましたか?」
真っ直ぐに肩まで伸ばした髪に、その人懐っこい顔を僕が見間違える事はない。
しかし、彼女の着ているその服装は僕の良く知るようなものでは無く……。
ぶっちゃけ、コスプレの様だ。
「絵利奈、だよな? ていうか、何?その格好……」
「はっ……! 分かりました。分かってしまいました……。ビビッと来てしまいました」
こちらの問いに答えずに、彼女は驚愕の表情を浮かべる。
「ここで説明している暇はありません。何時ヤツが戻ってくるか……。立てますか?」
辺りを伺いながら彼女が尋ねる。
自分もつられて見回すと、今自分達は何処かの茂みにいるらしい。
「そういえば、さっきの犬モドキは?」
「……私の睡眠魔術で貴方と一緒に眠らせました」
人差し指を口に当てて、警戒しながら彼女は答える。
そんなのあるんだ……。ってか、ホントにゲームみたいな世界って事なのか?
「とにかく、ここを離れて安全な場所に移動しましょう。さ、手を」
そう言って、彼女は立ち上がり僕に手を差しのべて来る。
僕は、その手を握って立ち上がった。
訳の判らぬままに、彼女の後ろに着いて歩く。
彼女は、周りを警戒しながらしっかりとした足取りで歩を進めていた。
「えっと、何処に向かってるんだ?」
僕の問いに、彼女は振り向かずに答える。
「街ですよ。後十分くらいで着きます」
「……他にも、色々と聞きたい事があるんだけど」
「それは、後で全てお答えします。今はとにかく、街へ帰る事が優先です。……魔力の残りも心許ないですし……」
キョロキョロと見回しながら彼女は言う。
鬱蒼とした場所は、既に抜けて少し広い道を歩いている。
途中、何度かモンスター? や、人と遭遇しそうになったがその度に彼女と茂みに隠れてやりすごした。
そんなこんなで、僕らは街の入口の前へと辿り着いた。
まさに、城門というか、なんというか……。
「でっか……」
目の前にとてつもなく広く、高い壁と扉が聳えたっていた。
「こっちですよ、早く」
彼女に呼ばれて顔を向けると、城門の横の、小さな通用口の扉を開けて僕を手招きしていた。
「本来なら、街へ入る前に通行許可の申請が必要なのですが……」
「やっぱそういうのがあるんだ。そりゃそうだよね、不審者を街に入れる訳にはいかないし……」
「いえ、大丈夫です。今の時間なら門番の方は居眠りをしてらっしゃいますから」
「警備ザルじゃねぇか!」
何一つ大丈夫じゃねぇよ。
彼女が僕に親指を立ててこちらへと向けた。
「御歳九十歳のおじいちゃんですから。最近では寝ても覚めても夢現ですよ?」
ですよ、じゃねぇよ。
そんなおじいちゃんに門番させんなよ。
どんな警備体制してんだよホントに。
居眠りした老人の脇を抜けて、僕らは街中へと踏み出した。
雑踏から離れていく彼女の後ろを僕は追いかける。
薄暗く、人気の少ない裏路地を歩いていた。
「……この街は、魔物に支配されてしまっているんです……」
歩きながら、彼女が口を開いた。
「支配……って」
少し離れた場所から、賑やかな声が聞こえている。
「人々は洗脳され、日々の生活を脅かされています」
彼女が足を止め、路地の先を指差す。
「覗いてみて下さい。魔物達が我が物顔で往来を歩く姿を」
促され、建物の影から路地の先に続く大通りを覗く。
「最近ウチの子が言うこと聞かなくて……」
「ウチのもそうよ。それよりも貴方、最近毛並に艶が出てきたんじゃない?」
「あら、やっぱり分かる? 実は……」
「親父の店のは鮮度がいいな」
「そりゃあ、そうさ。取れたてが仕入れられるのはウチだけ、ここらの店じゃ負ける気がしねぇよ」
めっちゃ和気あいあいしとる。
なんか、普通の主婦と魔物のおばさん? と食料品を扱ってる店の主人と魔物の客との会話……。
ホントに支配なんてされてるのだろうか?
「なぁ、これって――」
「私にもっと力があれば……」
歯痒そうな顔を浮かべ、彼女が呟く。
「私の家が直ぐそこにあります。一先ずそこに身を隠しましょう」
そう言って、再び歩き始めた彼女の背を追った。