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並行世界ですか?  いいえ、幻想世界です。

 ゆっくりと、いや、実際ゆっくりしていられる状況ではないのだけれど……。

 今は少し落ち着いて現状を把握してみるべきだろう。

 辺りを包み込むような目映い光に堪えきれずに僕が目を塞ぎ、もう一度瞼を開いた時には既に周りの景色は一変してしまっていた。

 閑静な住宅街の道路を歩いていた筈の僕の周りには、鬱蒼と生い茂る木々、見渡す限りの緑が広がっていたのだった。


「フギャフグルル……」


 大丈夫、君の事も忘れてないさ。

 むしろ、忘れたかったさ。


 そんな、自然溢れる中に、一際存在感を放つ物体があった。

 ……というか、異質過ぎた。

 背丈は小学校低学年ぐらいだろうか。

 そして、二本の後ろ足で立ち、前足には大根程の太さの棒を掴み、顔は犬にそっくりで全身が毛で覆われていた。


 ……いや、何これ?

 改めて見た所で、一向に分かる気配がしない。

 というよりも、何処だよここ。

 何なんだよこの状況。


 気が付けばこの犬モドキが目の前にいて、そいつと睨み合ったままの硬直状態が繰り広げられていたのだった。

 もう、どれだけの時間が過ぎただろうか。

 何十分にも感じるし、まだ一分も経ってはいないようにも感じる。

 汗が、頬を伝っていくのが分かった。



 頭の中には戦闘中のBGMが鳴り響いている。

 僕がとれる選択肢を考えてみよう。



『たたかう』

 目の前にいる、この犬モドキと戦って勝目はあるか?

 現状を確認してみる。

 向こうの戦力は、武器として持っている棍棒、そして、唸りを上げながらこちらへと威嚇して見せている鋭い牙、さらには毛に覆われた手からチラリと見える爪――。

 ――もしも、見た目通りに犬と同程度の筋力を兼ね備えているとすれば、その運動能力は計り知れない。

 それに対してこちらの戦力はというと、武器として使えそうなのは手に握られている学生鞄……中には教科書とノート、文房具だけであまり重量があるとは言えない……。

 くそっ、こんな時に置き勉(教科書等の用具を学校に置きっぱなしにする事)派の弊害が現れるなんて……っ!

 そして、中学の頃から文化部で筋力としても平均以下しかない僕が出来る攻撃などたかがしれている……。

 

『どうぐ』

 今持っている物のなかで何か使えるものはないか?

 食べ物でもあれば、桃太郎宜しく穏便に平和的な解決が出来るのではないだろうか?

 だって、ほら、手で道具を扱えるだけの知能はある訳で、もしかしたら言葉だって……


「ウガァァァァァァ!」


 ……無理だ。

 メッチャ吠えてる。

 絶対通じないよこれ。

 多分和訳すると「オレ、オマエマルカジリ」だよ、絶対そうだよ。


 鞄の中には先程言ったものだけ、ポケットに関しても携帯に財布と有利な状況に持ち込めそうなものはない……。

 『たたかう』も『どうぐ』も無理となると、今取れる選択肢として一番有力なのは『にげる』これ一択になってしまう。

 なんとか、隙を見つけて逃げ出さなければ……。


 しかし、そうやって様子を伺っている間に時間は刻々と過ぎていく。

 犬モドキも痺れを切らし、今にも飛びかかってきそうな気配だ。



 しかし、その時、僕に電撃が走るっ……!


「あ、あれはなんだー!(棒)」


 犬モドキの後方を僕が指差す。


 

 ……まさに悪手っ!追い詰められたっ、その先に待つ悪手っ……!

 焦りから出た失態……っ!

 たった一度のチャンスを棒にふってしまう凡愚の一手っ……!


 あまりの緊張感と動揺で、鼻とアゴが尖り周りの景色がぐにゃってしまいそうな行動をとってしまった。

 これで、もう終わってしま……


「……?」


 効いたぁぁぁぁっ!

 犬モドキが後ろへと顔を向けた! その一瞬を逃さないっ!

 

 僕は鞄を抱え一目散に走り出す。

 勿論、犬モドキのいる方向とは逆へと。

 唯ひたすらに足を動かす。全力で。

 しかし、元々が文化部で、現帰宅部である僕の体力などたかがしれている。

 直ぐに、息も絶え絶えになる。

 急激な運動のせいか、段々と意識が朦朧としてきた。



 ここで問題です。

 歩く時は二本足。

 走る時は四本足で、

 飛びかかってきた時は牙を剥く生き物ってなーんだ?



「――知らねぇよっっっ!!」


 足を縺れさせ、地面へと転がった僕に向かって犬モドキが飛び掛かってくる。


「うへぁぁっ!?」 


 間一髪、抱き抱えていた鞄を盾にして難を逃れたが、犬モドキは鞄に喰らい着いて離れず、棍棒を振り上げる……。

 この体制から逃れる術は無く、もう、絶対絶命かと思われた……その時、


睡眠魔術(スリープ)っ!」


 どこからかそんな声が耳に届いた。

 一瞬、霧に包まれた後、僕の意識は遠くなっていった。


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