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第七話

 ……眩しい光が徐々に収まっていく。

 手足の感覚もあるし、痛みも無い。どうやら消し炭にされるのは免れたようだ。

 辺りを見回すと、そこは一面が可憐な花と生命力あふれる緑で囲まれた不思議な場所だった。

 そして、そこには学園の広場にあった像と全く同じ姿をした女性が、現実感を持って存在していた。

 ゆるく曲線を描く鮮やかな金髪と、太陽の煌きを写したかのような瞳が印象的なその女性は、見る者を魅了する優しい笑顔を湛えており、愛おしいものを見るような自愛で満ちた眼差しをこちらに向ける。

 その女性の手首には不思議な光を放つバングルがはめられており、指にも同じ様に輝く指輪がはめられていた。

 俺が事態を飲み込めずボーっとしていると、凛が(おもむろ)に俺の肩から降り、そこにいる女性に頭を垂れた。

「お初にお目にかかります、女神イーリス。私はこことは別の世界の、縁を結ぶ神に仕えております凛と申します。こちらはその神を祀る社に仕える者の末裔である川上幸太。故あってこの世界で旅をしております。どうか以後お見知りおきを」

 俺はどうしていいか分からず、とりあえず頭を下げて礼をする。しかし、凛は意外としっかりしてるんだな、見直したぞ!


「あらあら~、そんなに畏まらなくていいのよ~。状況はある程度把握してるわ~。珍しいお客様だからちょっとお呼び立てしちゃった♪」

 軽いな、おい……。そんな、会いたくなったから家まで来ちゃったっ! てへっ♪ みたいに言われても反応に困るな。というかうちの神様含め、神様はみんな変なやつばかりなのだろうか……。

「それで~、あなた達を呼んだのには一応訳があるの~。あなた、え~と幸太君だっけ~? あなた私の祝福が欲しいのよね~?」

「ひゃ、ひゃい」

 緊張で噛んだ……。

「うふふ、新鮮な反応でかわいいわね~。だけど、残念ながらあなたには魔力が無いから私の祝福で魔法を使うことはできないの~」

 ……な、なんてこった!

 俺の異世界での希望の扉が今、閉ざされた!

「まあまあ、そんなに落ち込まないの~。私のお願いを聞いてくれるのならいい物をあげるわ~。もちろん、そこの凛ちゃんにもね。しかもお願いを成功させたら私のできる範囲で、一つあなたの願いも叶えてあげちゃう! 魅力的でしょ~。でも今はどんな願いが叶えられるかは秘密よ~。もし自分の願いが叶えられないって分かっちゃうと、私のお願いを聞いてもらえないかも知れないでしょ~」

 おぉ……、それは確かに魅力的だ! しかし、おいしい話には裏がある。間違いない!

 それにしてもえらく緩いしゃべり方をする神様だな……。


「い、いや、でも、俺に神様の依頼がこなせるとは思えませんし……。昔うっかり灼熱のマグマに落とした髪飾りを素手で取ってこい! とかだとちょっと……」

「あら、よく髪飾りの事知ってたわね? あれ、惜しい事したと思ってたのよー。そのお願いもいいわね♪ 何事も気合いって言うしね~」

「そうそう、熱々のマグマに素手を突っ込んでジュッとなっても、気合があれば平気平気~♪ ……ってできるか! あっ……」

 しまった……つい、ノリ突っ込みを……。凛が可哀想なものを見る目でこちらを見つめる。

 いや、今のは仕方がないだろ……。うん、仕方がない。

「女神様、ご無礼をお許しください。……やっぱりコータはとり頭。残念な頭をしている。大体この間だってそう。少し可愛い女の子がいるとあっちにデレデレ、こっちにデレデレ……。とにかく見境がない。まるで盛りのついた犬の様」

 リーザ達といる時はずっと喋れなかったから鬱憤が溜まっていたのだろうか? 凛は堰を切ったように話し出した。

 というか途中から話が変わってるんだけど!

「いやいや、そんなことないだろ! 凛が穿った見方をしてるだけだって!」

「ほら、やっぱりコータはとり頭。あれだけデレデレしていたのにもう忘れている。コータはもっと周りを見たほうが良い。きっと、もっと近くに良い女の子がいる。……大体コータを……っと……てきたのは私なのに……」

「もっと近くの女の子ってなんだよ? 後、最後が聞こえ辛かったけどなんて言ったんだ?」

 俺は凛に聞き返す。

「もういい。コータなんてリーザに魔法で粉々にされればいい」

 何故か凛は怒っているようだった。

 何度も言うが、粉々は勘弁して欲しい……。

「あらあら、仲良しさんなのね~。それに気にしなくていいのよ~。今のはおちゃめな冗談だし~。それで幸太君、緊張は解けたかしら?」

 さっきのやり取りのどこを見れば仲が良さそうに見えるのだろう? 

 険悪の間違いではないのだろうか……。

 マグマの件は女神様なりの冗談だったようだ。

「あ、はい」

「それは良かったわ~。……それで本題に入るんだけど~、お願いと言うのは私の妹のことなの~」

「妹さん……ですか?」

 女神様の妹ということはやはりその妹さんも女神様なのだろうか?

「そう~、アルミナって言うの~。昔はこの神殿で一緒に祀られていたんだけど、ある時私達を信仰する人達の間で諍いがあって、袂を分かってしまったの~。それで、今はそれぞれ別々の場所で祀られてしまっているの~」

 そうやって昔の話をする女神様は笑顔のままだったが、どこか寂しそうな顔をしていた。


「そうなんですか……それは寂しいですね」

「そうなの?。人間達の間では、私達が姉妹だっていうことを知っている人がもういなくなってしまったみたいで困っていたの~。この街は私の信仰者が多いのは良いんだけど、そのせいで妹が邪神扱いされているみたいなの?。とっても良い子なのに……」

「妹さんはなんでイーリス様と姉妹だって言わないんですか?」

「それは聞いてみないとわからないけど~、昔から遠慮がちで優しい子だったから、私に気を使ってるんじゃないかしら? 邪神扱いされている自分がそんなこと言ったら私に迷惑なんじゃないかって~」

 ふむ……。その妹さんというのは奥ゆかしい人なんだな……。


「じゃあイーリス様の方が姉妹だと宣言すると言うのはダメなんですか?」

「ん~、それなんだけど~、ただ私に遠慮しているだけならそれでいいんだけど~、もし他の理由で黙っているなら~、逆に私が迷惑かけちゃうかもしれないでしょ~。黙ってる理由が分からないし~」

 なるほど。そういう考え方もあるか……。

 どちらにせよ、女神様は妹さん想いなんだな。

「だから~、幸太君には妹の所に行って真実を確かめてきて欲しいの~。それで~、妹に私が昔みたいに一緒にいたいって言ってたって~、伝えてきて欲しいの~。お願いできないかしら~?」

 女神様はそういって少し不安そうにこちらを見つめる。

 成功報酬の願い事で元の世界に戻れるかもしれない、もし駄目でもうちの神様のお嫁に来て欲しいと頼めるんじゃないか、という打算はもちろんあった。

 しかし、それよりも、ずっと馬鹿にされてきた、俺みたいなどうしようもない人間を、頼ってくれたということが素直に嬉しかった。このお願いを受けたいという気持ちが俺のなかで大きくなっていく。

「……なんで、俺なんかにお願いするんですか?」

 率直な疑問を口にする。このお願いを受けたい気持ちはあるが、正直、リーザみたいな優秀な人間に頼んだ方が確実な気がする。

「そうね~、まず一つは幸太君が中立的な立場で客観的に状況を見られる場所にいるからかしら~。私の信仰者が今の話を聞いても素直に聞くのは難しいと思うわ~。邪神と言われている妹のところに行くのにも抵抗があるだろうし~。二つ目はあなたがこの世界で困ってる状況にあると考えたからよ~。幸太君が今の状況をどうにかしたいと考えているなら、このお願いに乗ってくれると思ったの~。三つ目は優秀なサポートがいるからかしらね~♪」

 そういって凛にウインクする女神様。凛も私のことを忘れるなと、軽く羽ばたいて俺の肩に乗ってくる。

「そうですか……、わかりました。どこまで期待に答えられるかは分かりませんが、受けさせてもらいます。」

「そう~! よかったわ~。妹はこの街の東のはずれの建物に祀られているみたいだからよろしくね~。さっき一緒にいたかわいい女の子二人に聞けばもっと詳しい場所を教えてくれると思うわ~。後~、これを受け取って~」


 女神様は自分の手首と指にはめていた装飾品を外すと、俺には手首にはめていたバングルを、凛には指にはめていた指輪を渡す。といっても凛は今鳥の姿なので、足にはめてもらったようだ。

「凛ちゃんに渡した指輪は、使用者の能力を増幅してくれるものよ~。凛ちゃんには元々私の様な存在に近い力があるみたいだけど、こちらの世界だとそれが押さえられるみたいだったから、そういう物が助けになるんじゃないかと思って~」

「ありがとうございます。これでコータの監視も捗ります」

 そういうと鴉である凛の姿が輝きだし、神社でみた黒髪の女の子の姿になる。

 おぉ、久しぶりにその姿をみたな。

 いや、それよりも監視ってなんだよ……。お前は俺をサポートしにきたんじゃなかったのか!?

 後、足にはめた指輪が今は凛の指に収まっていたが、これについてはもう深く考えるのはよそう……。


「あらあら~、それは良かったわ~。でもその指輪の力も無限ではないから気をつけてね~。その指輪は自然界からエネルギーを自動で充電してくれるんだけど、空っぽになると一杯になるまでしばらくかかるから~」

「はい。気をつける様にします」

 凛に説明を終えると、女神様はこちらに向き直る。

「それで幸太君にはそのバングル、チャネルリンクをプレゼント~。そのバングルはこの世界と位相の異なる世界と交信できるアイテムなの~。その交信では使用者と魂の在り方が近しい存在が共鳴するの。その共鳴の力が強ければその存在の力を借りられるわ~。……たぶん~」

 たぶんかよっ!? なんだかすごく不安なんだが……。

 女神様はそんな俺の不安はつゆ知らず、のんきに続ける。

「普通の人間には使うのは難しいかもだけど~、幸太君は縁を結ぶ神様に仕える者の末裔だもの~、きっとそのアイテムが役に立つと思うわ~」

 彼女いない暦=年齢の俺。

 今までそのご利益にあやかった事など一度もないのだが、本当に大丈夫なのだろうか……。

 まあ、くれるものは素直にもらうけど……。

「あ、ありがとうございます。あの、それで……例えばどんなのが出てくるんですか?」

「さあ~?」

 わかねんぇのかよ!!!

「そのバングルは使用者と近しいものとリンクするの~。だから、幸太君が使用すると、幸太君にしかリンクできない存在とつながるはずよ~。だから私には何が出てくるかは分からないわ~」

「そう……ですか」

 不安しか残らない説明だな!

 まあ、リーザ達のところに戻った後、どこかで試すしかないのだろう。


「それじゃあ~、あんまり引き止めるのも悪いからそろそろ送り帰すわね~。お願いのこと、くれぐれもよろしくね~」

 女神様がそう告げると俺達をまた光の渦が包み始める。


「あ、そうそう~」

 ん、なんだろう? 女神様が言い忘れていたとばかりに声をかけてくる。


「そういえば言い忘れてたけど~、妹は戦の女神なの~」

 ほうほう、そうなのか。なんとなく凛々しそうなイメージがするな。

 そんなことを考えている間も俺達を包む光がどんどん強くなっていく。


「でも、ちょっと脳筋なところがあって~」

 ん? なんか雲行きが……。


「きっと会ったら『ふん、怪しいやつめ! 私を倒せたら、お前達の言うことを信用してやろう』とか言って襲ってくると思うから気をつけてね~」

「おぃぃぃぃぃぃ、ふざけんな超危険人物じゃねぇかぁぁぁっ!!!」

 そんな俺の魂の叫びは眩い光にかき消された……。

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