憑かれている霊媒者
「……嘘だ、こんなのっ、嘘に決まってる……」
持っていた懐中電灯をとりこぼして、唇をわなめかせる。
視界に写っている少女の姿を認めなくない。
さっきまで楽しく会話していた人間が――死体になってしまったなんてことを。
「優……っ、なあ、優っ!! 嘘だろ。いつもみたいに、笑って冗談だって言ってくれよ。……なあ!」
倒れ伏している優を抱きすくめる。
その体は氷のように固まっていて、死後硬直とやらが始っている。脱力してしまっているため、少年の腕には少女の全体重がかかる。それは、本当の意味で、もう二度と動かないってことを証明してしまっていた。
「なんで、なんで、優が死なないといけないんだよっ……。ただ、優は誰かの役に立ちたいと思って、その信念に従って行動しただけだろ。なのに、なんでっ……。どう……してぇ……」
ポタポタと、優の頬に決して流れるはずのない涙が零れる。その透明な滴は、少女のものではなく、嗚咽する少年の瞳から溢れだしたものだった。
感情の高ぶりとともに、少年の全身は熱くなりながら、
「俺、お前に言わなくちゃいけないことがいっぱいあったんだ……」
胸にしまって見て見ぬふりをしていた思いを吐露し始める。
それは、こんな自分なんてどうなっても構わないと、そうやって見切りをつけていた少年を手に取ってくれた優に送る、もう手遅れな最期の言葉。
「……入学式をいきなり乗っ取って、し切り始めたお前を見て、俺はお前と絶対に関わり合いたくないって思ったんだ。お前にいきなり背中にドロップキックをかけられた時、初めてお前と会話して、喧嘩して……。学校の七不思議探索の時は、教頭先生に目をつけられながらも、二人協力して頑張ったよな……」
少年の言葉は尻すぼみになっていき、喉が嗄れ始める。苦しそうに顔を歪めながら、滂沱の涙をとめどなく流している。
俯いて、死んでしまった優の顔と体を見やる。
眠っているようで、体から溢れだす血液はすでに固まっていて。救急車なんて呼んでも、もうほんとうにだめだってことを再認識しなければなかった。
少年は視界全てがあやふやになりながら、しゃくりをあげながら、
「なあ、優。俺……ずっと前から――俺は――
『――えー、なにー?』
「――えっ?」
聞き覚えのある声の方に、少年がギギギ、と首を回すと、そこに平然とした顔のしている優がいた。
(……………は? ―――え――?)
しかも、ふわふわと宙に浮いているように見える彼女は、うーん、と大きく伸びまでして健康そのものそうだ。バッと、少年の傍らにいる少女に目を向けてみるが、どこからどうみても宙に浮いている優と同一人物だった。
「おまえ……誰だ?」
ゆっくりと恐怖に支配された心で中空にいる少女を見上げると、
『優だよ、優! 見てわかるでしょ?』
ぷんすかと、怒るさまは優そのもので。仕草や癖なんかも似ている、というよりは同一人物としか思えないぐらい似通っている。
「……なんで、」
『さあ、なんででしょう?』
人差し指を顎に当てながら、優は小首をかしげる。少女は半透明で後ろに移る石垣が視認できてしまっていて、まるで――
『――私、幽霊になったみたいね』
他人事のように呟く優は、星のでそうなウインクをしながら、けらけらと笑った。