第一階層
『…………』
『………………』
『……なん……だ…………』
『ここは……?』
『……』
しばらく時間だけが流れる。
俺もこの状況に慣れてきた。
部屋の中に居る様で、端と端から通路が二本伸びている部屋。
そのうち一本へ進むとしよう。ああ、動けた。
『あーだるいな』
意識はあるがまだ思考は重い気がする。
『だいたいここどこだよ』
通路を進みながら考える。
進行方向から何かの影が見えて来た。
通路は所々に火が灯されているだけで薄暗い。
手に何かを持った奴が大きく欠伸をしながら歩いている。
なんだこいつ。
部屋、通路、部屋、闇、部屋。
適当に動き回っているうちに色々と分かってきた。
ここではよく見かけるこいつらが魔物。
で、今魔物と戦ってるあいつらが人間。
『おー! いけいけ! 休ませるなよおまえらー!』
俺は戦わない。離れたところで観戦中。
「くっ! 力だけは強い様だな……!」
「ウグォォオオオ!!」
でかい魔物と戦ってる人間は押されているみたいだ。
周りの小さい魔物はまた違う人間が相手している。
「っぐはぁっ!?」
でかい魔物が空いている手で横から人間を圧し殴る。
人間が一人戦闘不能。そこからは順調に魔物が蹂躙していく。
『お疲れさん』
この大きな魔物はオーガ。これはさっきの移動中に聞いた情報。
それからも他の場所で観戦したり、魔物達の会話を聞いていたり。
色々と分かる事が増えている。
そういえば俺も魔物になれるんだろうな。
感覚的に分かる。
そんな俺は今も禍々しく漂っていますよ。
『なれる』と言うより『なりたい』って気持ちがあるけど、もう少しこのままで居ようと思う。
だってあれだぞ、何も無いところから魔物になる訳で、俺も何回かその瞬間を見てるのだが……
ここに蔓延る心地良い禍々しい空気がいきなり濃くなって、黒い影の中から魔物が出てくる。
空気が濃くなって魔物になる瞬間は俺も感じ取れるけど、どうしてこうも馬鹿が多いのか。
と言うのもさっきは人間が目の前に三人も居るって言うのにいきなり湧き始めちゃった奴が瞬殺。
あいつは短い命だったな。
せめて時と場所を選んで魔物になれと言ってやりたい、俺と関係ない奴だしどうでもいいけど。
そんな訳で俺の場合、今はまだならない。
なりたい気持ちもあるけど、我慢しない馬鹿は長生き出来ないんだ。
魔物にはいつでもなれると感覚的に分かるが何になるかは分からない。
俺が見た限り、初めに瞬殺されたあいつはコボルト、他にも色々居たけどやっぱりなるなら強い方が良い。
ダンジョンと呼ばれるここは階層に分かれていて、奥に行けば魔物の強さが変わっていく。
階層を繋いでいるのは闇。
扉のような枠の中に闇があって、そこに入ると次の階層か前の階層に行く事が出来る。
ここのダンジョン構造はかなり把握した俺だ。もはやダンジョンマスターと呼ばれてもおかしくはないな。
まず俺の存在を知っている奴がいないのだが……
「おいおいこんな所にスライムが居るぜ?」
「さっきバットに囲まれてムカついてんだよ、俺にやらせろ」
ぷよんぷよん
「おいスライム! 運が悪かったな早速死ねや!」
人間の男が剣を振り下ろす。
『残念だったなーあのスライム』
ここは第二階層、たしかにスライムが居るのは珍しい。
第一階層や外に居るはずの魔物だ。
そういえば俺は外に出たことが無かったな。
「フー! スッキリしたぜ!」
「そろそろ街に戻るか」
「ん? ああ、そうだな」
『あーあ殺された。いや人間、酷いだろ!』
スライムは剣で一振り、消え去った。
残ったのはそこだけ湿った地面。
あのスライム迷子にでもなっていたのかね。
それにしてもストレス解消で殺されるスライム。
人間ってのは極悪非道だな。