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クリスマスの奇跡

その日は雪が降り積もっていた。




「ここは何処じゃろう」


そこには一人の男が立っていた。歳は60ぐらいで身長170cmと歳の割りには高い。全身赤い服で統一していて大きな袋を担いでいる。世に言う[サンタ]という奴だ。


「‥ロドリゲス大丈夫か?」


「ブフゥー」



サンタの問いかけに一頭の立派な雄のトナカイが苦しそうに頭を上げた。



この日本という国はとかく空気が悪い。トナカイが具合が悪くなるのもしょうがない‥ましてやこんな都会の真っ只中‥尚更だ。



「無理をするな‥後の事は儂に任せておけ」



その声を聞いて安心したのかトナカイは静かに目を閉じた。



「さぁ‥どうしたものか困ったな。‥まずはこの近くの家から廻ろうかの」



サンタは袋を担いで歩き出した。サンタの歩いた足跡は降り積もる雪によって直ぐに見えなくなっていた。


各、家々を回り玄関先にプレゼントを置いて来る。本来ならば煙突から入りたい所だが、今のご時世に煙突の付いている家など無い。ましてや玄関はしっかり施錠されているので中に置くことも出来ない。


「‥昔はよかったのう」


家の中から漏れる灯りと笑い声を聞きながらサンタは呟いた。



プレゼントを配りながら、しばらく歩いていると目の前に小さな公園が見えてきた。

公園には外灯が一つしかなく辺りを薄暗く照らし続けている。


「この辺でしばらく休むかの」



サンタは公園の中へと入って行った。



公園の中には一人の少年がベンチに座って寒そうに背中を丸めていた。



サンタは躊躇していた。サンタ仲間の間では人との接触というのは禁止事であった。


だが、サンタは自分でも気付かないうちに少年の方に向かって歩き出していた。それは少年の余りにも寂しそうな表情に心を動かされた為‥自分が後でどんな処罰を受けようが関係なかった。


「こんな夜更けに、どうしたのじゃ‥少年よ」


「‥えっ‥サンタさん?」


「そうじゃよ」



少年は突然のサンタの登場に驚いた。それもそのはず‥サンタという人物は、現代では架空の存在として知られているからだ。


「‥実はね、うちの親‥仲が悪いんだ」


「‥坊やのご両親かい」


「‥うん、それでね突然、今日別れ話しをしてたんだ‥僕嫌になっちゃて家を飛び出して来たんだ」


「‥そうじゃったのか」


「僕‥お父さんもお母さんも大好き‥どっちか何て選べないよ!」



少年は泣き出した。可哀想にこの子に片親を選べというのは酷な話しだ。


「大丈夫じゃよ‥坊や」


そう言ってサンタは少年の頭を撫でた。


「ちょっと待っておれ」



サンタは何やら聞き慣れない言葉を発した。

するとサンタの手は白く輝き一本の温かい飲み物が出てきた。


「寒いじゃろ‥飲みなさい」


「うわ〜ありがとう!」


少年は喜んでその飲み物を受け取った」


「坊やに一つ昔話をしようかのう‥」



そしてサンタはぽつりぽつりと語り始めた。






昔、それは遥か昔の事‥神と魔王は世界を賭けて戦っていた。


神と魔王の互いの力は拮抗していた。故に戦いは1000年もの間続いた。

しかし終わりというものはいつか必ず来る‥この時の戦いは神が勝利した。


戦いに勝った神は魔王に呪いをかけた。


その呪いというのは人々が魔王を忘れた時、魔王はこの世から消滅するというものだった。


魔王は迷った。別に自分が消滅する事についてはどうでもよかった。魔王の目的は完全なる無の世界。自分を含めての完全消滅。


だが魔王は人との共存を選んだ。人々の為に働こうと名前をサタンからサンタに変えた。

魔王自身理由が分からなかった。


それから魔王は自分自身の過去の罪を償う為に、今でも人の為に働いていると言う話しだ。


「‥お爺ちゃんって‥もしかして‥」


「どうじゃろうな‥昔の事じゃ‥忘れたわい」



サンタは悪戯っぽく笑った。




空が急に騒がしくなった。少年とサンタが空を見上げると空一面に沢山のトナカイに乗ったサンタが現れた。


「やれやれ‥迎えが来たようじゃな」



サンタは重い腰をあげた。


「お爺さん‥行っちゃうの?」


「あぁ‥これでも儂を待ってる子供達がおるのでな」


「嫌だよ!行かないで」



少年はサンタにしがみついた。


「そうじゃ‥少年よ儂からのクリスマスプレゼントじゃ!」



サンタは袋の口を開けた。中から金色の光が溢れ少年に降り注いだ。


「中身は後のお楽しみじゃ」


サンタは笑って少年の頭を撫でた。


「プレゼントなんていらないよ!僕はお爺さんと‥もっと」


「さらばじゃ‥少年よメリークリスマス!」



サンタは少年の手から離れて空高く昇って行った。


「待ってよ!僕を一人にしないで」



だが、サンタは仲間の元にたどり着きそのまま空の彼方へ消えていった。


「お爺さーん!」



後には少年の叫び声だけが辺りに静かに響いた。


「‥亮一!」



声のした方に振り返ると、そこには少年の両親が立っていた。


「亮ちゃん御免ね。ママとパパが悪かったわ!」


「亮一すまなかったな心配かけて」


父親は少年をきつく抱き締め、母親はその場に泣き崩れた。


「これからは仲良く三人で暮らそうな」


「うん!」



そして一つの家族は自分達の家へと帰っていった。


「お爺さん絶対忘れ無いよ!僕の子供や孫達にも伝えるよ。いつの日かまた会えるよね」



少年はサンタが消えていった空を見上げて呟いた。


「少年よ幸せになれよ」


その光景を空の上から一人のサンタが見ていた。


「分かっておるよな‥お前は重大な過ちを‥」


「‥あぁ好きにするがいいさ」



サンタに後悔は無い。









その日は雪が降り積もっていた。

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