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好きな仕草

ポエミー

 ハンドルを片手でさばく仕草だったり。

 本を読んでいると何となく前のめりになって、熱心に文字を追う横顔だったり。

 甘えて身をすりよせると、ゆっくりと撫でてくれる大きな手だったり。

 お酒を飲むときに上下する喉仏だったり。


 いいな、好きだなと思うものが沢山ある。

 じっと見つめると、目を細めるのも好きだ。


「ん? 何か面白いか?」


 面白いよ。見飽きない。

 

「変な奴」



 だけど歴代の彼女は最悪。においが嫌い。目つきが嫌い。

 彼の前と私の前で態度が違う。

 上から下までねめつけて品定めされるのはいつになっても慣れない。

 彼女がいても私を構うのは、お気に召さないらしい。

 あっちにいってよ。そんな空気がぴりぴりと肌を刺す。

 彼女が帰って批難を表せば、彼は笑う。


「嫉妬か? 本当にお前は可愛いな」


 そう思うだけなら私だけにして。願いはいつもかなわない。



 でも今度の彼女は違う。香水のにおいはきつくない。

 ふわりと優しく笑う。つられて彼がリラックスしているのが、分かる。

 私にもお土産をくれて、構ってくれる。

 

「似合うと思って」


 綺麗なチョーカーをくれた。

 そっと差し伸べられる手は彼より柔らかくて、指先の感触が優しい。

 彼と私の世界に入ってきても違和感がない。

 すんなりと溶け込んで、そこにいるのが自然な感じ。

 彼女が何か言って、彼が目を丸くした。

 いつもの彼じゃないみたいで、なんだか慌てている。

 ぶつぶつと呟きながらリストアップしているのを、眺める。

 聞きなれない単語も織り交ぜられていて、ちょっと気に障る。


 彼と彼女があんまりにお似合いだから、覚悟を決めなきゃならない。

 彼に守られた世界から自立しないと。

 


「あいつがいなくなった」

「すぐに戻ってくるんじゃない?」



 彼の部屋を出てはみたものの、いくあてがあるわけでなし。

 気がつけば公園のベンチに座っていた。

 ぼんやりと、地面を行進する蟻なんぞを眺めている。

 彼と彼女の新しい生活に水を差すつもりはないから出てきたものの、さて、これからどうしよう。

 今後を考えていると、しゃがみこんで私を見る人がいた。


「どうしたのかな。迷子? 家出?」


 辺りを見回して私以外に誰もいないのを確かめて、その人はもう一度私を見つめた。

 失礼な。迷子じゃない。道も、家も分かっている。

 抗議の意味をこめて見上げると、その人は少しの間迷ったような顔をした。


「自分の意思で出てきたのなら家に来るかい?」


 すぐに誘いに乗るなんて軽いなあと思いつつ、悪い人には見えないからまあいいかと、差し出された手に顔を寄せる。

 そのまま抱き上げられた。

 体臭は悪くない。タバコの匂いはいただけないけど。

 

「美人さんだ。何が好きかな。色々揃えないといけないな」


 抱かれたまま公園から遠ざかる。

 その人の車に乗せられて助手席に座ると、知らない場所に走り出す。

 

「綺麗なチョーカーをしているね、大事にされていたみたいだけど訳ありかな?」


 詮索する男は嫌い。つんとすますと、低い声で笑われた。

 訳なんてたいしたものじゃない。私と一緒だと彼の新しい生活がつまづきそうだから、こっちから捨ててやっただけ。


「家はいつまでいても大丈夫だから」


 でも、私は手がかかるんだ。

 覚悟しておいて。

 変な女を連れ込んだら、承知しない。タバコだって私の前では許さない。

 彼もそうやって禁煙してもらったんだから。私ににおいが移るなんで最悪だもの。

 いい? 私が行ってあげるの。気に入らなければすぐにさよならするの。

 

 決定権は私にある。

 そうは思いながらも信号待ちの間に、くすぐられて喉を鳴らしてしまう。

 この人の手の感触も悪くない。あとはぬくぬくとした寝床があればいい。

 私って気が多い女だったのかな。






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