第1話「異世界の小屋」
単管パイプの足場が、嫌な音を立てて崩れた。
落ちかけた若い職人を反射的に突き飛ばした瞬間、視界が白く弾けた。
——そこで、私の人生は終わったはずだった。
だが、次に目を開けたとき、天井があった。
木の板が隙間だらけで、青空がのぞいている。
四畳半ほどのボロ小屋。壁は反り返り、床は土。風が吹き抜ける。
「……どこだ、ここは」
扉を押すと、錆びた蝶番が悲鳴を上げた。
外に出た瞬間、息を呑む。
——空が見たこともない青さ、しかし廃村だ。
石畳は割れ、建物は崩れ、農地らしき区画は草に飲まれている。
人の気配はない。
元々、私はただのサラリーマンだった。
趣味で古民家を直していたら評判になり、独立。
不動産事業は当たり、飲食、宿泊、アミューズメント、企業投資へと広がり、会社は上場した。
それでも現場主義は変わらず、今日も職人たちと汗を流していた——その結果がこれだ。
小屋に戻り、周囲を見渡す。
廃材、釘、石。
隅には古い工具箱。錆びてはいるが、ノコギリもハンマーも使えそうだ。
思わず口元が緩む。
「……懐かしいな、ここまでひどい物件は」
まずは壁の隙間を塞ぐ。
廃材を切り、打ち付け、天井を直し、扉の蝶番に油を塗る。
作業に没頭していると、足元で何かが動いた。
「うわっ……!」
虫だ。だが、こんな気持ち悪い虫は見たことがない。
青紫の甲羅、八本の足、異様に長い触角。
よく観察した瞬間、頭の中に情報が流れ込んできた。
名称:アオアシガメムシ
危険度:なし
特性:臆病で人を避ける
「……ん? これ鑑定か?」
私はしばらく虫を見つめ、それから静かに笑った。
「あらー異世界か。なるほどな」
不安よりも、好奇心が勝ち早くリフォームしたい
ちょっと気持ち悪いので、木の板に乗せて虫をそっと外に逃がし、作業を再開する。
どれほど時間が経っただろうか。
ハンマーを振っていると、外に複数の気配を感じ扉を開けた。
村人らしき子供、若い女性、老人。
皆、痩せ細り、服は継ぎ接ぎだらけで、顔色も悪い。
世間的にはハズレの最初の村
個人的には当たりの村
失礼ながらリフォームしがいのあるの“限界状態”であることは、一目で分かった。
そして——一人の老人が前に出た。
背筋が伸び、静かな目をしている。
耳が長い。人間ではない。
おお、エルフだ。
「……あなたが、この小屋を直していた人ですか」
穏やかな声。だが、その奥には警戒と期待が混じっていた。
私はヤバいと思い頭を下げた。
「五十嵐鉄也。元々は商会のような組織を束ねてましたが……今は、ただの大工職人です。勝手に直して、すみません」
老エルフは小屋を見て、私を見て、長い沈黙のあと——小さく息をついた。
老人の背後で
青空にアオアシガメムシが飛んでいく姿が見えた




