その日は雨が降っていた
「雨だる…帰りたくない…」
中里高校1年3組の1番後ろ窓際の席で、エリート帰宅部であるはずの私は、机に突っ伏してそこら辺にあった紙に片手に持ったペンで無意味な線を生み出している。
いつもならチャイムと同時に学校を飛び出し、自宅の2階、ブルーライトに包まれながら自由な時間が始まる。今日は少し特別で、花屋に行くつもりだった。
それなのにこの雨…濡れるのは極力嫌だ。そして鞄の中にはたくさんの教科書。濡れるのはどうにかしてでも避けないと。
足音…廊下から誰か近ずいてくる。
まぁ放課後だ、人はまだ残っている。
顔をゆっくりと起こすと彼女がこちらにむかってくる。
私の横にちょこんと腰掛け、問いかける。
「珍しいねー傘忘れちゃったの?」
「忘れた」
嘘。置き傘ある。
「まだ痛む?」
「まあまあかな、大丈夫だよ」
これはほんとうのこと。
私の右肩には縫い目がある。去年の春に手術を受けた。彼女にアイスピックで刺されたから。
「髪伸びた?前髪で目が見えないね」
「だからモテないんだよー彼氏欲しいとか言ってー」
よく喋る人だ、私はうーんと声を上げて黒板をみている。
私は彼女が好きだ。自由で明るい。根暗な私を本当は光なんじゃないかと思わせてくれる。
彼女の周りには人が集まる。私と違って。
去年の春、彼女は私に好意を示した。好きだと言って一緒にカラオケに行った。
私を連れ回した。ゲームセンター、ショッピング、居酒屋、時にはライブハウスまで。
そこのステージで楽しそうな彼女はキラキラして眩しかった。
でも、彼女はフラフラと動く、私のところには居てくれない。私はあなたしかいないのに。
人見知りなで臆病な私は正直、どこも苦手だ、友達を増やしたり馴染みたい訳じゃない。
だから、くり抜いた、彼女の目玉を。
思ったより難しかった。苦しませたい訳じゃなかったから麻酔をかけてあげれば良かった。
私のモノになると思った。いないと生きていけないと考えていたから。
でも彼女は抵抗して私の使ったアイスピックで首を狙ってきた気がした。
彼女とはそれから会えなくて、今もひとりぼっち。
分かってるけど寂しい。今でも会いたくて好きで心が重い。苦しい。でも好き。大好き。
目の前の彼女が尋ねる。
「下校時間まで、あと10分!どうせ傘ないでしょ?一緒に入れてあげるよ!私は優しいからねー!」
冗談ぽく笑う彼女につられて私は席を立つ。
大雨の中、私は花束を抱えて帰り道を歩いた。




