表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Kindle出版舐めてたら全部でつまずいた専業主婦の記録 ――パソコン苦手な私が地獄を見た話  作者: ちよ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第九話:kindleクリエイトは密入国

アメリカとの税金交渉を終え、いよいよ私は「本を作る」という本丸に乗り込んだ。


原稿の読み込みなんて分からない。


説明書きには、一か所にやたらと魅惑の言葉が並んでいた。

『KPFファイルを使用すれば、あらゆる端末で美しく表示されます』

『自動処理でタイプセッティングを行います』

『テーマやスタイルを選択してカスタマイズできます』


「……これだ、これこそ私が求めていた魔法の杖!」


Amazon様が用意してくれた、書式設定の救世主。その名も「Kindle Create」。

これさえあれば、私の書き殴った原稿データが、魔法のようにキラキラした電子書籍に変わるはず。鼻歌まじりにKDPのヘルプページからダウンロードボタンを押す。


だが、ここからが「第二の地獄」の幕開けだった。


まず、落ちてこない。


クリックしても、砂時計が回るばかり。私のパソコンが古いのか、それとも三月の吹雪が電波を邪魔しているのか。「おーい、Amazonさーん!」と画面を揺さぶりたい衝動を抑え、再試行、再試行。


気がつけば、ダウンロードフォルダには同じ名前のインストーラーが4つも並んでいた。


「……インストールやダウンロードやるとだいたいこうなるのはなんでかなぁ」


ようやく一つを起動する。すると画面に現れたのは、コーヒーとパソコンとノートの上半分の写真がついた小さめのウインドウだった。


「なんか、オシャレだ。コーヒー飲みたくなってきた」


私もお気に入りのマグカップにコーヒーを淹れ、優雅に一口。この時の私はまだ、このコーヒー・ウインドウが、これから始まる3日間にわたる絶望の「静止画」になるとは露ほども思っていなかった。


インストールが完了し、意気揚々とソフトを開く。


……全部英語。


「ちょっと待って、私の日本語はどこ?」


パニックになりながらスマホのAIに聞いて設定を探す。ようやく日本語に切り替えた瞬間、私はさらなる理不尽に直面した。


日本語設定にした途端、画面から小説(文章)を作るための入り口が消え去り、「漫画」と「絵本」の看板だけが残ったのだ。


「……え、私、漫画家になれってこと? 文章は書いちゃいけないの?」


再びAIに相談した。


「本社がアメリカだから、日本語にはあんまり優しくない仕様なんですよ」


AIのその一言に、私は膝から崩れ落ちそうになった。

天下のAmazon様が、日本にそんな塩対応だったなんて。ダウンロードはできるけれど、基本は英語。日本語に直そうとするとシステムがへそを曲げる。


「あるあるです」じゃあないのよ、AIさん。こっちは人生賭けてるんだから。


「じゃあ、このダウンロードしたやつは使えないの?」

絶望する私に、AIは淡々と、でも力強く裏技を授けてくれた。


「まず、英語設定のまま、無理やりこじ開けてください」

「そこから『小説』という英語の扉を蹴破って進みます」

「Wordのような真っ白な画面に到達したら……そこでようやく、日本語設定を召喚するのです」


……なんだその、密入国みたいな手順は。

真っ当に入り口から入らせてくれないのか。一度アメリカ人になりすまして潜入し、中に入ってから「実は日本人でした!」とカミングアウトするような、この面倒くさい工程。


「わかった、これはこういうモノなんだ」


私は割り切った。これは不具合でもバグでもない。これが仕様なのだ。

一歩進むごとに「なんでやねん!」とツッコミを入れていたら、私の心臓がもたない。心を冷徹なマシーンに切り替えるしかない。


英語のまま開き、目的の場所に辿り着いてから、おもむろに日本語設定を上書きする。

すると、あんなに頑なだった画面に、ようやく見慣れたひらがなと漢字が躍り出た。


「おかえり!日本語」


密入国、成功。

ようやく私は、自分の言葉を流し込むための器を手に入れた。

工程としてはたったの3ステップ。でも、精神的な疲労は計り知れない。


冷めきったコーヒーを一口啜り、私はようやく本来の目的である原稿の流し込みへと視線を移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ