第八話:KDPダッシュボードの空欄を埋める千本ノック
宣伝です:noeブログで真面目に発達特性育児や在宅ワークやその他記事を書いています。ペンネーム:しろい/ちよ。よろしくお願いします。
原稿という武器を手に入れた私は、KDPダッシュボードの門前に戻った。
あとは入力するだけ。事務作業だ。看護師時代、山のような看護記録をこなしてきた私にとって、入力なんてお茶の子さいさい……のはずだった。
まずは基本情報。
「言語:日本語」をクリック。ここまではいい。問題はその次だ。
タイトル・フリガナ・ローマ字の3点セット攻撃。
「……あ、また間違えた」
半角で打ったつもりが全角になっている。F7、F8キーを連打して必死に変換するが、KDPの門番は「やり直し!」と赤字を突きつけてくる。
気づけば5回も弾かれていた。どこが間違っているのかすら分からなくなり、視界がチカチカする。
「なんなの? ここが間違ってるよって目立たせてよ。全文やり直しって姑か!」
キーボードを叩く指が、怒りと疲れで震える。同じ部屋のコタツで平和に昼寝している義父母の寝息が、戦場の私には遠い異国の音のように聞こえた。
あ、姑いた。ノートパソコンのデスプレイから顔だけ動かして確認する。イビキ掻いて寝てる。
……あっぶねえ!
入力欄はまだまだ続く。
「シリーズ情報」……シリーズじゃない。パス。
「版」……初めて出すんだから「1」でいいのか? よくわからん、パス。
「著者」……また漢字・カナ・ローマ字の3点セットか! 平仮名ベースの簡単なやつにする。
続いて「内容紹介」。
ここでも私はAIという命綱をフル活用した。
「AIさん、この原稿に合う、Kindleっぽいあらすじ作って」
投げた瞬間に返ってきた完璧な文章。私はそれを、誇らしげにKDPの枠にコピペした。
……だが、この時の私は知らなかったのだ。
Amazonの商品ページに綺麗に表示させるには「HTMLタグ」という呪文が必要だということを。
後日、出版された自分のページをスマホで確認した時、私は凍りついた。
「……なんか、変。文字の並びがグチャグチャしてる。見づらっ!」
「直し方? 知らん! 次の本で気をつけるから、今はこれでいい!」
開き直りの境地に達した私は、そのまま修正ボタンを閉じた。素人が出す25ページのコンパクト本だ。細かいことは気にするな。
「出版に関して必要な権利」は、もちろん「私は著作権を所有しており……」にチェック。自分の不器用な血と汗の結晶だ、文句はあるまい。
そして現れた謎の項目、「主なマーケットプレイス」。
「Amazon.com」「Amazon.co.jp」「Amazon.uk」……。
「え、ブラジルとかイギリスでも売るの? この、ぐだぐだエッセイを?」
迷ったが、個人出版の定石通り「Amazon.co.jp」を選択。
キーワードもカテゴリーも、AIに「いい感じのやつ選んで」と丸投げして、出てきた候補を機械的に放り込んだ。
「本の発売オプション」? 予約注文とか?分からないからしない。
と、よくわからない項目はすべてすっ飛ばした。
おっと、息子の園のお迎えの時間だ。
パソコンをシャットダウンして押し入れにしまい、私は玄関に向かった。
私の独り言は、心の声と実際に声に出ていた独り言と入り混じっています。あ、とか、姑か!は実際に声に出ていました。




