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Kindle出版舐めてたら全部でつまずいた専業主婦の記録 ――パソコン苦手な私が地獄を見た話  作者: ちよ


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第五話:私の記憶はすでに改ざんされている

第3話で「住所を英語で書く地獄」について、堂々と書き連ねた。


……すみません。白状します。

あの時点の私はまだ、日本語で住所を打ち込む段階でした。


英語の迷宮に迷い込むのは、もっと後の話。

なのに、一か月前の記憶ですら、今の私の中では「とにかく大変だった」という一点に集約され、勝手にハードモードな記憶へと上書きされていた。


これ、KDP(Kindle出版)を経験したことがある人が読んだら、「いや、そこはまだ日本語だろ!」とツッコミを入れていたに違いない。

ああ、恥ずかしい。顔から火が出るとは、まさにこのこと。

本当に一人でやってて良かった。


KDPのサイト内には親切な解説があった。文字での説明もあれば、動画だって用意されている。


でも、……よく分からなかった。

文字が多くて頭に入ってこない。小学生の娘には見せられない姿だった。


そこで、私はふと思った。

「……もしかして、他の人も苦労してた?」


恐る恐るインターネットの検索窓に打ち込んでみる。

『Kindle出版 登録方法 簡単』


……あった。

それも、山のように。


……検索ボタンを押した瞬間、私は自分の無知を呪った。

そこには、溢れんばかりの「救いの手」が差し伸べられていたのだ。


個人で解説動画を上げている人、WEB記事やブログで一歩ずつ丁寧にガイドしてくれている先人たち。

その中の一つの記事をクリックした私は、目を見開いた。


「なにこれ……分かりやすい!!」


たくさんの画像付き、説明文は最低限、そして何より文章が丁寧で、慈愛に満ちている。

「ここ、迷いますよね」「大丈夫、こうすれば通りますよ」という、迷える子羊を導くような温かさ。

Amazon公式のヘルプセンターに、今すぐ「これこそが公式ガイドです」とリンクを貼ってやりたいくらいの完成度。


「なんで……なんで私は、やる前にこれを検索しなかった」


自分の要領の悪さに、しばし呆然とした。


最初からこれを読んでいれば、8回も銀行口座ではじかれることも、ブラジルの小切手に怯えることもなかったはずだ。

あまりの情報の充実ぶりに、私は自分の無策さを呪い、後悔した。


……はずだったのだが。


「いや、待てよ?」


冷静になって、その慈愛に満ちた解説をもう一度見つめる。


……。


……やっぱり、今の私だから「わかる」のだ。


あのパニックの渦中にいた私が、この丁寧な解説を読んだとして、果たして大人しく従っただろうか。

おそらく「画像と私の画面が1ミリ違う!」と騒ぎ、結局はAIの胸ぐらを掴んで「ねえ、これどういうこと!?」と叫んでいたに違いない。


最短ルートを通れなかったんじゃない。

私は、この「ぶち当たり、悶絶し、AIと二人三脚で泥沼を泳ぐ」という、世界に一つだけの体験を選んだのだ。


そう、私の選択は間違っていなかった。

(と、必死に脳みそを騙して自分を納得させる)


記憶は怪しい。やり方も、正解だったかはわからない。

でも、あの時の「なんでこんなに難しいの!?」という絶望感と、それを乗り越えた時の小さなガッツポーズだけは、本物だ。


つまづいて、転びまくっても最後は出版できたし結果オーライ!


恥をしのばず、そのまま書いてしまえ。

これが、Kindle出版に夢を見た専業主婦の、リアルな脳内(全力自己肯定モード)だ。




実は、このKindle出版の格闘劇には、もう一つの舞台裏がある。

私は、1月に手術を終えたばかりだった。


以前の、自己肯定感が低くて「私なんて」と俯いていた私なら、きっと最初のサインアップで立ち止まっていただろう。「やっぱり私には無理なんだ」と、静かにパソコンを閉じていたはずだ。


けれど、今の私にはそんな猶予はなかった。

手術の後、右上肢と胸の一部に残った麻痺。

思うように動かない体を見つめながら、私の心に灯ったのは、執念だった。


「この在宅ワークに、私のこれからの人生がかかってるんだ」


動かしにくい腕をなだめすかし、音声入力を駆使しキーボードを左手と残る動く右手で叩く。

エラーが出るたびにAIに泣きつく。

もはやこれは趣味の出版ではない。子育てと不自由な体を両立しながら家で働く、私の働き方改革。


そして、もう一つ。

私を無敵にした「ショック療法」がある。


手術室で、先生や看護師さんたちの前で、私は文字通り「物理的にすべてをさらけ出した」。

かつては支える側にいた私が、される側になり、隠すものなど何一つない状態を経験した。


あの瞬間に比べれば。

ネットの海で、自分の不器用さをさらけ出すことなんて、一体何だというのか。

銀行コードを間違えて8回も弾かれる恥?

ブラジルの小切手に怯える滑稽さ?


「……失ったものばかりかと思ったけど、もらえたものもあるもんだなぁ」


今、誰にどう思われようと、私の価値は1ミリも揺らがない。

そんな「開き直り」にも似た清々しさが、私の背中を押してくれた。


術後の半年間は、一種の「ブースト状態」だと聞く。

麻痺と戦いながら、恥を捨て、執念だけで漕ぎ出したこの船。

今、この勢いに乗って、私は自分のすべてを出し切ってしまおうと思う。


カッコ悪い私。

記憶が怪しい私。

でも、命をかけて「今、ここに生きている」私。


昔より、今の自分の方が好きになれてる。

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