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もやもや

いつもどこでも、女子高生って楽しそうだけど、なやみごと、たくさんあるよね

「絶対根本のやつ、茜を贔屓にしてるよ」

「わかる。紀元さんは、根本先生のお気に入りだよね」

「オヤジキラーだよね茜って」

 私,紀元茜は今までもおじさん先生から人気はあると自負してる。でも、こんなときは、

「そんなことないよー…」

と、困ったように笑うことにしている。これで大抵の修羅場を潜り抜けてきた。

 

 根本のオヤジこと根本先生は、体育会系の生活指導兼日本史の先生だ。いきなり名指しで質問してくるから授業中は生徒の間に緊張が走る。油断できないから、私は特にこの科目の予習と復習を徹底しているし、元々時代劇が好きなのも相まって日本史には詳しく、まぁ教えやすい生徒なのだろうと自覚している。

 

 話の矛先を変えるためにわかりやすい餌をちらつかせる。

 

「まーや、こないだの、毎日電車で一緒になる男の子とはなにか進展あったの?」

 

 女子の大好きな恋愛話。1番盛り上がるのは、片想いの悩み事や恋人とのトラブルだ。まーやは揺れるポニーテールが可愛いクラスのムードメーカーだ。私の期待通り,話を振ると笑顔で嬉々として話し出してくれた。他のメンバーたちの注意もまーやに集まる。興味津々だ。


 「実は、今日、わざと生徒手帳落としたらひろってくれてー!」

 

 きゃー!と盛り上がる女子たち。「それでそれで?」と興味津々だ。

 

「制服がね、東高等学校のやつで……」

 

 まーやがうっとりとしながら報告している横で私はほっと内心息をついた。私は「ちょっとトーイレ!」と告げてその輪から抜け出してお手洗いへ向かった。1人になりたい気分だった。ありがたいことにみんなは、まーやの話に釘付けで気にするそぶりもなかった。


 放課後はバイト先のハンバーガー屋へ直行。スタッフ室の鏡の横には“笑顔大事に!“とでかでかとした注意書きが貼られている。長い髪を結って帽子を被り口角を上げる練習をする。スマイル0円!というどこかのCMを思い出す。でも毎度毎度接客するたびに体力が削られていく感覚がする。時給上げてくれないとやってられないと思いつつ、顔に笑顔を貼り付けて売り場に立つ。入れ替わりの人に小さく声をかけて交代する。「いらっしゃいませ!ご注文はいかがですか?」


「あーー!つっかれた!!」

 

貼り付けたような笑顔も、愛想笑いも全部忘れて、休憩室兼更衣室の椅子に腰掛け伸びをする。ずっと立ちっぱなしの仕事は足が棒になる。意外と、ポテトやサイドメニューを取りに行ったり、ドリンク入れたり補充したり、ぱたぱた動くことも多いからだ。


「紀元、今日も頑張ってたなー」

 

声をかけてくれたのは同じくバイトの、大学生活を謳歌している奥田くん。おっとあぶないあぶない。いつもの笑顔にしなくては。


「お金もらえますからねー!」

 

ぱっと振り返って、へへっと笑いながら言いつつ、でも奥田くんに褒めてもらえて嬉しい私がいる。


「えー。俺と一緒だから頑張ってくれてたんじゃないのー?」


「なんですかそれ。ナルシストですか」


「紀元のくせに、ノリ悪いなぁ」


「うそうそ。奥田くんと一緒だから頑張っちゃいました!」

 

冗談みたいに言ってみたけど、割と本音に近い。奥田くんがいると、快適に仕事できるし楽になれるから、接客に集中しやすい。そして、最近のちょっと気になる相手でもある。今日はシフトが一緒だからと割と楽しみにして出勤していた。


「おつかれさまです」

 

冷ややかな声で割って入ってきたのは同い年の別の高校に通う西条さん。噂では、彼女も奥田くんを狙っているとか。なにかと目の敵にしてくるから、この対応にも慣れてしまった。いつものへらっとした笑顔をつくって


「おつかれさまですー。じゃ、そろそろ帰りまーす!」


と挨拶をした。それに対して西条さんは何も反応しないけど、よくあることよくあること。考えない考えない。と、自分に言い聞かせる。


「途中まで一緒に行こうよ」


 奥田くんが思いがけないお誘いをしてくれた。「はい!」とびっくりして返事をしてしまう。


「はい!ってなにそれ。研修生じゃないんだから」笑いながら歩き出した奥田くんの反応に恥ずかしくなるけど、より冷たさを増した西条さんの視線を感じて自分も慌ててついて歩いた。


18時。夏が近づいて日が延びてきている。まだ明るい道を歩きながら、奥田くんと他愛ない話をしていた。駅に近づいた時、急に奥田くんの足が止まった。


「どうしたの?」


「あのさ、紀元」

 

仕事の時しか見たことの無い真剣な顔に思わず姿勢を正した。なんだなんだ?今日は特にミスは無かったと思うけど……と、今日の仕事風景を思い出す。

 

一方の奥田くんは、真面目な顔のまま、


「俺と付き合わないか?」

 

と、問うてきた。あまりにも急な申し出に戸惑う。う、嬉しい、けど、本気にしちゃいけないような。なんか、こわい気がする。でも、奥田くんの顔は真剣だ。


「え……と、あの」

 

と、言葉を選んでいると、その間が待てないのか奥田くんは「急にごめん!でも、ずっと言いたくて。タイミングなくてさ。ちょっと、前向きに検討してみて!じゃ!」と言って走って行ってしまった。


 学校では先生に贔屓されているとヤキモチを妬かれ、バイト先でも気を使う毎日で、なんだか疲れてたけどそんなもの全部吹っ飛んでしまった。


 

外から見たら恵まれている人でも、中身はなやみごとでいっぱいかもしれない。順風満帆なんて、当事者にはわからないよね。

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