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月夜の霞に梟鳴きて  作者: 藤橋峰妙
序:【The Blue Flame, or The Nightmares】
3/20

【あるふたつのはじまり】

【あるふたつのはじまり】



 

夜の闇を覆い隠すように、雪が降っている。世界中の音と動きを封じ込めてしまうように。


ひとひら、またひとひら。


空から大粒の白い結晶が落ちてきて、時間の流れさえ絡め取ってしまいそうなほど重く、深く、静かに世界を埋めていく。


 

肌を刺す凍てついた空気。凛とした香り。

冷たさと共に漂う白い無音のベールは、その公園を包んでいる。そこはまるで、誰にも触れられていない純白のキャンバスだった。



その隅に女が立ち尽くしていた。

時間に取り残され、まるで幽鬼のようにひたすら俯いたまま、そこから動かずにいる。



疲れきった体が、ひどく重かった。

冷たさが骨にまで染み渡り、心さえ凍りついている。

どこにも行けず、自分には何もできない。

女の思考の中にはそれだけしかなかった。



いつの間にか、雪の上の足跡は消えていた。

そこだけが世界から切り離されたように、どれだけそこに立っていたか、女は数えていなかった。



――ざくり。


しばらくすると、雪を踏みしめる小さな音が、その静寂を割った。



視界の端に、小さな青い靴が映り込む。

ゆっくり顔を上げると、目の前に幼い女の子が立っていた。まだ、小学校にも通っていない年齢の子どもだった。



女は視線だけを動かして、辺りを見渡す。深夜の公園に人気はない。

深夜を回った公園に、小さな女の子が一人でいることを不自然に感じる余裕すら、今の女は持ち合わせていなかった。



その少女は、まっすぐに女を見上げていた。黒髪に雪を乗せ、頬を赤く染めながら、不思議なほど柔らかな表情だ。


 

「傘、さしてあげる」



小さな声が女の耳にそっと届いた。

少女はぐっと手を伸ばして、さしていた青い傘を傾けた。背の高い女の頭上には到底届かない。押しつけられた傘が、女の胸元にぶつかる。



「かがんでくれないと、とどかないよ」



女はしばらくの間、その小さな声を無視していた。


 

どのくらい無視していただろうか。

一向に胸元から離れる様子のない青い傘に、なぜか、女は渋々その場にしゃがみ込んでいた。


 

少女が隣に座ると、冷たい雪が遠ざかる。

女は、少女の行動に戸惑いながらも、その傘を受け入れるように身を寄せた。



んふふ、と。隣から、笑みがこぼれる気配がする。

 


少女は片方の手袋を外すと、女の凍えた手にそっと当てた。

暖かい。信じられないほどその手は優しく、差し出されるままに、女はその手袋を受け取っていた。



ほの暗い胸の内に、一筋の光が差し込んだ気がした。

お互いの片方の肩が触れあって、そしてもう片方の肩が濡れていた。冷たさが半分になり、じんわりと温もりが広がっていく。



——氷が解けて水になり、再び流れ出すような感覚。



すると少女はポケットを探り、くしゃくしゃのチョコバーを取り出すと、女に手渡した。



雪の中に現れた一輪の花のような凛とした可愛らしさ。




「これもあげる」



小さな笑顔に心は落とされ、彼女の声に込められた静かさが、凍りついていた心に、柔らかな波を起こした。


女は、小さなチョコバーを受け取った。

突然現れた名も知らぬ少女に、この瞬間、何もかも救われたような気がした。



「……ありがとう」



振り絞った言葉は、冷たい夜の雪に解けていった。




 

 ✧• ─────────── •✧


 

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