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出会いと導火線

「おっ、もうすぐ順番が来るぞ」


 一悶着のあと、再びくじ引きの列に並んだ。俺たちの番まで、あと二組。列はゆっくりと進んでいく。


 やがて、前の組がくじを引き終わった。いよいよ俺たちの番だ。


 店員のおじさんが、くじ引き箱を差し出してきた。


 くじ引き箱の上には、丸い穴がぽっかりと開いていて、そこから手を入れて紙を一枚取り出す仕組みだ。紙を広げれば、そこには数字が書かれている。


2人分のお金を店員に渡す。これでもう引き返せない。


「さあ、引くか。ハカセからでいいぞ」


「そう? じゃあ僕から引くね。……うーん、これにしようかな」


 ハカセはあっさりと紙を引き抜き、丁寧に折り目をほどいて広げた。


「『四』……だね」


ハカセは、 店員に引いた紙を見せた。


「おめでとうございます、四等は《ドラゴン亭・特別食事券》です!」


「ふふ、まあ悪くないね。お腹は満たせそうだ」


 ハカセは俺に紙を見せながら、にこやかに言った。


「はい、次はそっちの君。どうぞ」


 箱に手を入れると、中には折りたたまれた紙がぎっしり詰まっていた。かき混ぜながら、一枚をつまみ取る。なんてことない紙切れ一枚のはずなのに、やけに手汗が滲む。


(……なんだよこれ。なんでこんなに緊張してんだ)


 勢いよく引き抜いたその瞬間、店員がにっこりと微笑んだ。


「さあ、開けてごらん」


 一瞬、別の紙にすり替えたくなる衝動がよぎる。それを押し殺して、紙をゆっくりと開いた――





「おめでとうございまーーーす! 一等、出ましたーーーっ!!」


「……は? マジで?」


 突然の大声に、周囲がざわめき始める。俺は手元の紙を二度見した。


「はい、お兄ちゃん、運がいいねぇ! こちらが一等賞のブランクカードだよ!」


 手渡されたのは、真っ白なカード。見た目には何の変哲もないが、手にした瞬間、不思議な感覚に襲われる。


「ちなみにその一枚、ヒイロの一年分の稼ぎくらいの価値があるよ」


 横からハカセがさらりと言った。


「ま、マジかよ……!」


 思わずカードを落としかけた手が、わずかに震える。



✦✦✦



くじ引き会場を離れ、俺たちは人混みを抜ける。


ハカセからの提案で孤児院に顔を出すことにした。


「うおお、ハカセ! やったぜ! ん〜〜まっ!」


カードを顔の前に持ってきて、ぶちゅーっとキスする俺。


「おめでとう。後で魔力を注げば、守護獣を召喚できるよ」


「魔力って、皆どれくらいあるんだ」


「成人の平均が五百くらい。さっきの守護団の人たちは、正確な数値はわからないけど、桁違いだと思うよ」


「俺の魔力、前に測ったとき三百だったからな……あんま強い守護獣を呼ぶのは無理かも。でも、やってみる価値あるよな」


「おい、待てよ」


 路地を抜けてスラムに戻ろうとしたその時、背後から聞き覚えのある声が飛んできた。


 振り向けば――くじ引き屋で騒いでいた、あの男だ。血走った目でこっちをにらみつけ、腰に吊るしたナイフをカチャカチャと鳴らしている。


 「おまえら、一等当てたんだろ。あの騒ぎじゃ、遠くからでも目立ってたぜ」


 「……当ててたらなんなんだよ」


 「そのブランクカード、俺がもらう」


一瞬、耳を疑った。


 「は? 嫌に決まってんだろ。てめえで引けよ」


 「ブランクカードは市場にゃなかなか出回らねぇ。出ても貴族が持ってっちまうことが多いからな。……だったら、こうすりゃいいって話だ」


 そう言って男は、腰のナイフを一本、軽く持ち上げ――そのままハカセに向かって投げつけてきた。


 「ハカセ、よけろっ!」


 ナイフは一直線に飛び――ギリギリのところで、ハカセが身をひねってかわした。……はずだった。


 「……え?」ハカセが声をあげる


 ナイフが空中で、くるりと“曲がった”。


 刃が、まるで意思を持ったように軌道きどうを変え、ハカセの肩をかすめた。


 「ぐっ……」


 「ハカセっ!」


 ハカセがふらついて、片膝を地面につく。


 「言ってなかったな。俺のスキルは《ナイフ操作ブレード・コントロール》だ。こいつら全部、好きなように動かせるんだよ」


 「……足が、しびれて……」


 「その刃には“しびれ薬”を塗ってる。刺さらなくても、かすっただけで効くんだ。ま、安心しな。数分で戻る」


 そう言って、男はニヤリと笑った。


 「さあ、カードを渡せ」


 「この野郎……!」


 怒りに任せて俺は駆け出す。だが次の瞬間、別のナイフが飛んできた。反射的に避ける。……だが、左腕をかすった。


 「っく……!」


 途端に、左腕から肩にかけて痺れが走る。指先の感覚が遠のいていく。


 「特注だ。皮膚ひふにちょっとでも触れりゃ効くようにしてある。これが俺のやり方さ」


 脚に力が入らない。膝が砕けて、その場に倒れ込んだ。腕も、思うように動かない。


 「動けねぇだろ? さっさと渡せ」


 「……やなこった」


 なんとか顔を上げ、舌をだして挑発する。


 「このクソガキが!」


 ドンッ。男の蹴りが俺の横腹にめり込んだ。


 「ぐっ……!」


 息が漏れる。全身に鈍い痛みが広がる。


 「よこせ、よこせ、よこせ! そのカードさえあれば、俺の人生は変わるんだ……!」


 狂ったように繰り返される蹴り。視界がグラグラする。


 腹を蹴られるたびに、呼吸が止まる。声も出ない。ただ地面の冷たさだけが現実だった。


 (……やべえ。このままじゃ、やられる……!)


 (……守れねぇ……!)


そのときだった。


意識の奥底――頭の中に、女とも男ともつかない、無機質で響くような声が降ってきた。


〈……スキル《魔力レンタル》、発現を確認〉


〈魔力契約回路、接続開始〉


……誰の声だ? いや、声じゃない。言葉が、直接脳に“流れ込んできた”ような感覚。


〈どれくらいの魔力をお貸しいたしますか〉


……え? 何を言ってるんだ


〈どれくらいの魔力をお貸しいたしますか〉


「どれくらい?……全部だ。いまあるだけの力を全部……俺に借してくれ……!」


(こんなとこで、終わってたまるか。俺は――名前をこの国に残すって、決めたんだ)


〈それでは現在の限界値、一万の魔力レンタルを開始します。返却期限は一カ月後です〉


体の奥から、溢れるような魔力が流れ込んできた。圧倒的なエネルギー。全身が熱くなる。


「な、なんだよ。一人でブツブツと……気味悪ぃな、テメェ!」


俺は痛みとしびれにより震える手でポケットからカードを取り出す。


「どうやら渡す気になったようだな。最初からそうすりゃよかったんだよ」


「誰が渡すかよ。クソが」


男に向けてにらみ返す。


続けて、身体の中にあふれる魔力を全てカードに注いだ。


「頼む……出てきてくれっ! 俺の守護獣ーーーーッ!」


カードに魔力を注いだ瞬間、全身の力が吸いこまれる感覚におちいる。これがハカセが言ってた召喚ってやつか…


カードが眩い光を放ち、男が一歩引く。


「な、なんだこのバカでかい光は……おい、おまえ、まさかカードに魔力を入れやがったのか!?」


雷鳴とともに空が裂け、空間が光に飲まれる。


やがて光が晴れ、一人の女性が姿を現した。


黄金に輝く髪。スラッとした手足。肌は血管が見えるほど白い。そしてなにより空気を一変させるような圧倒的雰囲気をまとう少女だった。


少女は俺を一べつした。少女の青い瞳と目があい、そのまま吸い込まれそうになる。


「やりやがったな……こうなったら、こいつは俺のものにする!」


少女は男を軽蔑するような目でにらんだ。


「はあ…なにこれ。久しぶりに呼び出されたと思ったら、こんなゴミ虫とご対面なの?」


「なめたこと言ってんじゃねえぞ、このくそあまあああああああああ」


男が絶叫と共にナイフを使い少女に襲いかかろうとした、その瞬間──


閃光。あまりの眩しさに俺は目をつむった。


「ぎゃあああああああああ……!」


焦げた匂いが鼻をつく。視界が戻ると、少女が男の首を掴んでいた。黒焦げになった男はうめき声を上げながら、ぐったりと膝から崩れ落ちる。


静寂。俺も、ハカセも、しばし言葉を失った。


少女は黙って男の手を放すと、くるりとこちらに向き直った。


痺れの残る体をなんとか起こし、片膝をついて彼女を見上げる。


震える膝で見上げながら、ようやく言葉を吐いた。


「おまえ、名前は?」


金の髪を逆立て、雷の余韻をまとったままの少女が、俺を見下ろしている。



「エイル」



「そうか。……助けてくれて、ありがとう。俺はヒイロ。お前を――」


右手を差し出す。


「召喚した――」


だが、手は空を切る。


エイルはその手を見ようともせず、冷たく言った。


「アタシ、あんたを認めてないから」


冷たいスラムの風が吹き抜ける。


俺とエイル――


この守護獣との関係は、拒絶から始まったんだ。



ここまで読んでいただきありがとうございます。もしよろしければブックマークと感想をお待ちしております。他にも

「魔王軍最強の貴族様、現代で女子高生の家に居候して配信者になります。」と

「異世界帰りの勇者な俺でもデイリーミッションを使えば青春を謳歌できますか?」

を同時に投稿していますので興味がありましたらぜひ

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