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ミルダ村

ギルドで依頼を受けた俺とエイルは、ポツポツと山道を歩いてた。目的地は山の中腹にあるミルダ村。

あらためて依頼を確認する。村の水源に謎の魔物が出たらしくそれを見つけ退治するというものだ。


「ほんとにいるの? そんなモンスター」


エイルが眉をひそめる。けど、心配ってよりは退屈そうな顔だ。


「実際に被害が出てるしな。何かいるのは間違いないだろ。まあ何が来ても、ぶっ飛ばしてやればいいだろ」


「バカっぽい考えね」


「でも水系の魔物なら、エイルの雷の一撃で終わるかもな」


「そう? ふふん。分かってるじゃない」


単純なやつめ


エイルは気分がよさそうに髪をかき上げる。しかし足元がおろそかになっていたのか、道端の木の根っこに軽くつまずいてバランスを崩した。


「……み、見てないわよね?」


「おぉっと。上位守護獣様でも、足元は弱いらしいな」


「うっさい!」


バチンと小さな雷が飛んできて、俺の前髪がジリッと焦げる。

「うわっ、やりやがったな!髪が燃える!」


次の瞬間、エイルはふわりと空へ舞い上がった。


「はあ? お前飛ぶなよ! ずりーだろ、俺ひとり歩くのかよ!」


「やかましい男は歩いてなさい!」


空からいたずらな表情を浮かべながら舌をべーっと出し、エイルは先へふわふわと一人で飛んでいってしまった。


「あちい…、あとどんくらいだよ」


ぶつぶつと文句を言いながら、俺は汗だくで坂道を登っていった。





ミルダ村に、どうにか到着する。山の斜面に広がる素朴な村で、木造の家が並んでる。


だが、村に入るなり視線が集まってくるのを感じた


「……なんか、見られてね?」

俺が周囲をキョロキョロすると、エイルがふっと笑った。


「アンタが何かしたんじゃないの?バカだから覚えてないとか」


「いや、そんなわけねえだろ」


その瞬間だった。


「見て、あれ! あの飛んでるお姿……間違いない!」「雷の守護獣だ!本物だ!!」


「バロックを倒したっていう“雷の女王”……!」


うおおおおおおおっ!!


あっという間に人だかりができた。村の大人も子どもも大騒ぎで、興奮気味に押し寄せてくる。


「まさかうちの村に来てくださるとは!」

「これでもう村の泉は大丈夫だ」


「ちょ、ちょっと近いわよ! ほらほらやめなさいっての!」


エイルは戸惑いながら、村人たちを剥がしていく。

それを見て俺は、くやしさを噛みしめながら叫んだ。


「おい! なんでお前が倒したことになってんだよ! バロックを倒したのは俺だぞ!? 命がけで!」


エイルがクスッと笑って肩をすくめる。


「やっぱり、どこにいってもビジュアルって大事なのよね」


「ぐぬぬ……!」


村の少年が俺を指差しながら、エイルにたずねた。


「ねえ、この人って……あなたの召喚者さんなんですか?」


「ええ、まあ一応そういうことにはなってるわね」


「“なってる”って何だよ!!」


エイルは俺を見下ろして、ニヤリと笑った。


「でもこの人。筋肉と脳みそでできてるような顔してるでしょ? かわいそうだからいつも助けてあげてるの」


「だあああっ!! やっぱぶっ飛ばす!」


「ほーら、ご主人様ったらすぐムキになるんだから」

エイルの指がビリビリと光る。


「やめろ! 電撃出したら村の人達に当たるかもしれないだろ」


俺はなんとかエイルが電撃を出すのを止める。


俺は気を取り直して言った。


「おい、あんたら。村長のとこに案内してくれ。ギルドから任務を引き受けた冒険者が来てるって」


エイルが横目で俺を見る。


「……あら、急に真面目な顔」


「ふざけてる場合じゃねえだろ。任務もきちんとこなすのが冒険者ってもんだ」


言いながら、背筋が自然と伸びてくる。


エイルは少しだけ目を細めてから、ぽつりとつぶやいた。


「ほんと、そういうとこはまともなのよね」


「おう、それ褒めてんのか?」


「さぁね。さ、行くわよ。雷女王と付き人じゃなくて、ヒイロとエイルの出番なんでしょ?」


「おう!」




俺たちは村の一番奥にある村長の家へ向かった。

見た目は質素な木造家屋だけど、村の中では一番立派な建物っぽい。中に通されると、古びた絨毯じゅうたんと、ほこりのにおいが鼻をかすめた。


「ようこそお越しくださいました。ミルダ村の村長をつとめております、コーエンと申します」


出迎えてくれたのは、白髪まじりの落ち着いたじいさんだった。背筋はシャキッとしてて、たくわえられたヒゲからも威厳を感じた。


「俺がヒイロ。こっちは守護獣のエイル。今回の依頼、引き受けに来た」


「あなた方のことは、すでに耳にしております。町に出た若い者が、ギルドで聞いてきたようで。“雷の女王とその召喚者が、バロック盗賊団の砦を落とした”と」


なるほど、だからあんな村人たちは騒いでたのか。

エイルは腕を組んで、どこか誇らしげに笑った。


「ふふん、ようやくアタシの凄さが世に知られてきたみたいね」


俺は横目でそれを見ながら、少しだけ肩をすくめた。


「……名前が広まるのはどうでもいい。大事なのは、村の水とあんたらの暮らしだ」


その言葉に、村長の目がわずかに細まり、ゆっくりとうなずいた。


「今回の魔獣の件、どうかよろしくお願いいたします」


「ああ、分かってる。詳しい事を聞かせてくれ」


「この村の北東にある泉に、数日前から“何か”が住みつきました。水が濁っており、村人が近づくと襲われるとの報告もあります」


「いま水はどうしてるんだ?」


「今は少し離れた村から水を分けてもらったり、魔獣に汚染されていない裏山の湧き水を汲んで、なんとか暮らしております。……ですが、それもそう長くはもちません」


「分かった。一度、泉に行って魔獣の痕跡を調べてみるよ」


「本当に…感謝いたします。どうか、どうかよろしくお願いいたします」







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