2章 プロローグ
バロックとの戦いから、そろそろ二十日。
あの時〈魔力レンタル〉で借りた分――六千。
ギルドからモンスターの魔力量が載った本を借りて、毎晩宿でページめくっては、ない頭になんとか叩きこむ。
ギルドで魔力値を測ったら前回よりも300増えて1170になっていた。
そいつをもとにまあ、明らかに無理そうなのを除いてだけど、魔力の高そうなモンスターを狙って倒して、倒して、また倒して。
エイルは相変わらず文句ばっかだったが、なんやかんや協力はしてくれた。
で、ついに――
〈魔力返却、完了いたしました〉
あの声がようやく頭の中に響いた。
返すスピードは前よりずっと早かったし、自分でも強くなってきたってのは分かる。
だけどさ――
「こんなんじゃ、まだ全然足りねえ。もっともっと強くなんねえと、王国最強なんて笑い話だ」
笑われるのは、もうたくさんだ。
孤児だからって、どうせ底辺だって、最初から決めつけられて。
「俺は証明してやる。誰にだってできるってことを――」
そして今日も俺は戦いを続ける。
♦♦♦
ギルドに入った瞬間、いつもの喧騒が耳に飛び込んでくる。
でも最近は、ちょっと様子が変わってきた。
「エイルちゃん今日も頑張ってね!ついでにヒイロも」
「ヒイロ、お前ばっかりずるいって! エイルちゃんと二人きりとか、代われよ!」
「エイルちゃーん! 今日もその冷たい目で俺を見下してくれー!」
「……なによアンタたち、マジで気持ち悪いわね」
当の本人は、男たちに悪態をついてのし歩く。まるでこの空間が自分のステージとでも言わんばかりだ。
なんつーか……堂々としすぎてて、逆に尊敬するわ。
「お前……なんか人気出てきてね?」
「まあ、アタシの魅力に気づくのが遅すぎるくらいね」
むしろ今まで気づかれなかったのが不思議、みたいな顔で言いやがる。ほんとこの自信、どっから湧いてんだよ。
俺たちは視線のシャワーを浴びながら、受付カウンターへと向かっていく
「ヒイロくん、いらっしゃい。今日も来て偉いわね」
出迎えてくれたのは、ギルドの受付嬢――ミレアさん。優しくて、明るくて、いつも俺らみたいな冒険者にも分け隔てなく接してくれる、まさに“癒し”だ。
「どもっす。ちょっと依頼を見に来ました」
「ふふ、そう言うと思ってた。ちょうどよさそうなの、あるわよ」
差し出された依頼書に目を通すと、そこには《ミルダ村・水源付近に魔獣出現》の文字。
「水源ってことは……スライムとか、魚でけえやつか?」
「種類はまだ分からないの。襲われた人はいるらしいんだけど、姿は見てないんだって。しかもその付近の魔物もいなくなったらしいの」
ミレアさんは少しいぶかしげな表情を見せる。
「へえー、話聞いてるとなんか気味悪いな」
「報酬も悪くないし、今のヒイロくんの実力なら任せて大丈夫だと思うの。引き受けてくれる?」
「分かった。依頼のほうは任せてくれ」
言いながら自然と胸を張る。こういうときに、ミレアさんみたいな美人から信頼されてると、頑張る意味ってのも増してくるもんだ。
「そういえば、最近ヒイロくんたち、ちょっと有名なってきたね」
「やっぱりバロックの件か?」
「そう。ベテラン冒険者達も手を出せなかったあのバロックを倒した事はとっても話題になってるわよ。
私はヒイロくん達が相談せずに行ったことをまだ怒ってるけどね。でも、“雷女王と付き人”って有名になることは、素直に嬉しいよ」
「ちょっと待て! なんで俺が“付き人”なんだよ!? 召喚者だっつーの!」
「雷女王……ふふ、なかなか気に入ったわ。その呼び方、定着してもいいわよ?」
「……なんで嬉しそうなんだよ、お前」