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VS 盗賊団首領バロック

「クク……祭りの始まりだ。おい、全員だ。一人残らず消せ」


 砦に響くバロックの命令と同時に、盗賊たちが一斉に抜刀し、こちらに殺到してくる。


 「……来やがったな!」


 俺は剣を抜き、真っ先に駆けてくる男の剣を受け止める。火花が散る。


 「まとめて来やがれ、ぶっ倒してやるよ!」


 刃を弾いて踏み込む。剛力スキルで加速した剣が、盗賊の胴を一閃に断つ。


 「がっ……ぎゃあああっ!!」


 返す刃で背中を叩きつけるように打ち込む。男は血を吐いて地に崩れ落ちた。


 男の体から立ち上った光が、俺の胸にすっと吸い込まれる。

今は――考えてる暇なんかねえ。


 すかさず背後から飛びかかってきた敵の腕をつかみ、力任せに地面に叩きつける。


 「うらああ!」


 血が跳ねあがる。悲鳴があがる。けど、止まらない。止まってなんかやれるか!


 「エイル、右だ!」


 「分かってるわよッ!」


 雷がほとばしる。エイルの魔力が炸裂し、突進してきた盗賊の群れが一気に吹き飛ぶ。


 「ヒイロ、後ろから二人来てる!」


 ハカセの声に反応し、すぐに身を引く。ハカセの風の刃が敵の足元を払うと、俺は飛び込みざまに二人をまとめて切り伏せた。


 「こっちは終わった。次は──!」


 俺は息もつかず、次の敵へ。次の敵へ。


 何人倒したかなんて、もう分からない。


 ただ、斬って、斬って、斬って。それだけだ。


 そして…


 〈魔力返却、完了しました〉

 ふいに、頭の奥であの声が響いた。


 「……え?」

 戦いの手を止めることなく、俺は戸惑う。


 完了……って、まさか。


刹那、体の奥から重しが取れたような感覚が走る。

今の一撃で、確かに何かが“終わった”。


 (これで、借りた分……返したってのか?)


ハカセから「こっちは終わったよ」と話しかけられたことで、ハッと意識を戻す。


地面には倒れた盗賊たちの死体。鉄と血の匂いが入り混じった、静かな戦場。


 その中で――ただ一人、コツコツと音を立てて歩いてくる男がいた。


 「……見事なもんだ」


 ゆっくりとした足取りで、バロックが前へ出る。カラカラと大剣を引きずり、圧倒的な威圧感を放ちながら。


 「仲間を殺されて……どうしてそんなに冷静でいられるんだ!」


 俺の問いに、バロックは鼻で笑った。


 「俺は力だけを信じている。情も仲間意識もいらん。使えない奴が死ぬのは当然だ」


 「……最低だな」


 「だが、お前も分かってるだろ? 信頼も友情も、勝てなきゃ何の意味もない。信じられるのは己だけなんだよ」


 「そんなことはない! この世の中に心の底から一人になりたいやつなんていない! 強がってんじゃねえ! 俺がお前を倒して、それを証明してやる」


 「……そうかよ」


 バロックが大剣を構える。その姿は、まるで巨大な狼。足を引きずるようにしていたのに、次の瞬間には目の前にいた。


 「……速っ!」


 剣が振り下ろされる。俺はとっさに剣で受け止めたが、重い。一撃で膝が沈みそうになる。


 「チッ、こいつ……!」


 エイルが横から雷撃を飛ばす。しかし――


 「通じねえよ」


 バロックの左手に雷光が当たった瞬間、バチバチと火花を散らして弾かれた。金属のような鈍い音とともに、無傷のまま立っている。


 《風よ、刃と成りて奔れ――風刃ふうじん


 ハカセの剣から風の斬撃が飛びだし、バロックの足を狙い、動きを牽制する。


2人の攻撃をもろともせず


バロックの大剣が火花を散らして俺に振り下ろされた。


 「ぐっ……!」


 俺は剛力スキルで受け止めるも、地面に膝をつく。


 バロックの圧が強すぎる。


「いいなあ、お前の目。恐怖と怒りがごちゃまぜだ……それでいてまだ立とうとする」


 「ヒイロ、下がって!


 《風よ、刃と成りて舞え――風刃・双》」


 ハカセの斬撃が、バロックの側面に迫る。鋭い風の軌跡が、大剣を逸らした。


 「チッ、じゃまするなああああ……!」


 バロックがハカセの方を向いたその瞬間、頭上から雷光が落ちた。


 「《ライトニング・バースト》ッ!

  左手じゃなかったら効くでしょ?」


エイルはにやりとしながら言った。


 エイルの雷が正確に、耐魔防具の無い部分を狙って、バロックの身体を撃ち抜く。


爆ぜる火花、爆音、揺れる砦の空気。


「ぐ……ぐおおおお……!」


喉の奥から噴き出すような呻き声が、砦全体に響きわたった。

バロックが片膝をつき、身体を大剣で支える。


 「今よ、ヒイロ!!」


 「……ああ、分かってる!」


 バロックが怯んでいる。これを逃せば、もう二度とチャンスは来ない――!


「うおおおおっ!」


 スキル【剛力】を発動。腕に力が集まり、全身が一気に熱くなる。


 剣が激突し、砦を震わせる轟音が響いた。火花が閃き、空気ごと引き裂かれる。


 「スキル〈魔力レンタル〉だ!1000貸してくれ!」


 〈魔力1000を貸与しました〉


剛力を使い、剣に力を込める。

剣と剣がぶつかる。


「くっ!?急に力が強く? それにその胸の輝きは…」


バロックが何か呟くが、俺は無我夢中で剣に力をこめる。

 

「食らえぇぇッ!」


刃と刃が擦れ合い、金属が悲鳴を上げた。

耳をつんざくような音が響き、互いの腕に伝わる振動が骨を叩く。


 バロックの足が一歩後ろへ下がった。


「馬鹿な……俺が押し負けるだと!こんな小僧に!仕方ない。使いたくはなかったが、見せてやるよ。ありがたく思うがいい」


 叫びとともに、バロックの身体から黒い蒸気が立ちのぼった。


 「……なんだよ、これ……?」


 その場の空気が一変する。異様な圧力が、空間そのものを押しつぶすように重くなる。


 「スキル〈鬼化〉、発動」


 バロックの体が膨張し、皮膚の下で血管が蛇のようにうごめいた。目が血走り、笑いが低く漏れはじめる。


 「これが……俺の真の姿だ。守護団の奴らは“危険”だと封印した。けどな、あいつらじゃ、この力を“制御”できなかっただけだ。俺は違う……これは、俺が選び取った強さだ!」


黒い蒸気をまといながら、バロックは仲間の死体を無造作に踏み越えてくる。


 血の海を平然と歩き、ぐちゃり、と骨を砕く音にさえ、笑みを浮かべていた。


 「クク、やっぱりいい音がするな。こうやって、何もかも潰して歩くのが――最高に楽しいんだよ」


 「くっ……!」


 再びバロックの剣とぶつかる。さっきまで押していたのに、今は逆に剣がきしむほどの圧力で押されている!


 「ヒイロ、引け!今のバロックは――もう人じゃない!」


 ハカセの声が飛ぶ。けど、ここで下がったら、エイルもハカセも――俺の仲間が危ない。


 「甘いな。誰かを守りながら勝つことなど出来ない。お前は、俺の“力”に潰されるんだ」


 バロックの大剣が唸る。一振りで、地面が裂ける。


 「ヒイロ!」 エイルが叫んだ


 「……ああ、分かってる!」


 (ここでやらなきゃ……リナ姉たちも!)


 「――2000、貸してくれ!!!」


 〈魔力2000を貸与しました〉


剛力による身体強化を強める。体が熱い。口の中に鉄の味がしてくる。大丈夫、まだ耐えられる。


「はあああああっ!!」


 俺の攻撃でバロックは押し込まれ、地面を滑る。


 「さ……さっきより重くなっただと…!?」


 バロックの額に汗がにじむ。


 (まだだ……まだ足りねえ)


 力の利用で心臓がバクバク言ってる。視界が火花を散らしてる


でも、ここでやらなきゃ意味がねぇ!!


「頼む……3000ッ!!」


 〈魔力3000、貸与しました〉


剛力を使う。体の奥で、骨が悲鳴を上げる。

心臓が暴れ、視界の端が白くにじむ。

だけど――ここで倒れたら、全部無駄になる。


(……この一撃で決める。俺は俺を超えるんだ!)


歯を食いしばり、剣を振りかぶった。


 「これが最後だ」


 剣に爆発的な魔力が宿る。光が俺の全身を包みこむ。

 その光と、バロックの黒い障気がぶつかりあった瞬間――世界が軋んだ。


 砦がうめくように振動し、石壁は悲鳴をあげながら崩れはじめる。


 天井から石埃が雨のように降り、ひび割れた大地が不規則に脈打つ。


「ぐああ……俺が押し負けるだと! こんな小僧に!」


 バロックは血走った目で俺を睨む。


「力こそが俺のすべてだ……俺が勝つ!貴様なんぞに負けるわけがない!!」


 その声は、もはや呪いのようだった。狂気と恐怖、すべてを塗りこめた咆哮。


 だけど――


「――砕けろおおおおおおッ!!」


 光と闇の衝撃波がぶつかり合い、砦がうめくような音を立てて揺れた。


 「ぐあああああああああっ!!」


 俺の一撃が、バロックの大剣を砕く。

 その巨体は後方へ弾き飛び、壁をぶち抜きながら沈んだ。


 黒い蒸気が四散し、〈鬼化〉の力は音もなく消えていく。


 音も、空気も、すべてが止まる。


 静寂の中、砦の瓦礫がわずかに崩れる音がした。


 「――バロック……俺たちの勝ちだ」


 俺は剣でなんとかボロボロの身体を支え、肩で息をする。


 命を削って勝ち取った一撃――


でも、不思議と、悔いはなかった。


 ――と、その背後からエイルがズカズカと歩いてきて、ゲンコツを食らわせてきた。


 「バカバカ!また無茶して!ほんとに…もう…死んだら絶対許さないんだから!」


エイルは少し目を赤くはらしていた。


 「痛ててっ、しゃーないだろ。やるしかなかったんだよ」


「ほんと、ヒイロは無理しすぎだよ。さっ、リナさんたちを解放しにいこう」



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