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砦へ向かう

俺たちは半日をかけて盗賊団がアジトとして使っている砦の近くに到着した。

そして砦の手前、森の木陰に身を潜めて、俺たちはしばらくのあいだ様子をうかがっていた。


 距離はあるが、門の前には松明を掲げた男が立ち、その奥にも人影がちらついている。門の上に設置された見張り台には、武器を持った男たちが交代で立っていた。


「……見張りは昼夜で交代してるっぽいな。さっきのやつが下がって、今のに入れ替わった」


俺が囁くと、隣のハカセが静かにうなずく。


「つまり、夜もずっと警戒してるってことか。思ったよりも統率が取れてるな」


「こりゃ正面突破はきついな。数も多いし、奇襲でもしなきゃ全滅コースだ」


視線の先で、門番が周囲を見回している。ゆだんなどもなさそうだ。


 ――となれば、別のルートを探るしかない


「で、例の抜け道。ほんとにあんのか?」


俺が問いかけると、ハカセは腰のポーチから折りたたまれた紙を取り出した。


「この山、昔は鉱山だったらしいんだ」

ハカセが地図の一点を指差す。


「その名残で、今もトンネルの入り口が残ってる。“旧鉱道”って呼ばれてるみたいだけど、今は誰も使ってない。昔は、このトンネルから砦の地下倉庫へ物資を運んでいたらしい」


「つまりそこを使えばバレずに砦の中へ入れる……ってことか?」


「崩れてる場所もあるらしいけど、うまく通れれば内部に忍び込めるかもしれないよ」


「へぇ、うまくいけば不意打ちができるってわけね。面白いじゃない」


「とりあえず行ってみるしかねえか」


 俺たちは砦の東側へ足を向けた。




 ♢♢♢



 そして──


「……これか?」


 うっそうと茂った草の奥。小高い岩場の陰に、それはぽっかりと口を開けていた。

 崩れかけた木の支柱。錆びた鉄柵。中からは生ぬるい風と、湿った土の匂いが漂ってくる。


「……うっわ、ホントに入るわけ?」


 エイルが嫌そうに顔をしかめた。


「他に道がねえなら行くしかねえだろ。ここが繋がってりゃ、奇襲できるかもしれねえ」


「アンタさあ、あんま深く考えてないでしょ。こういうの、絶対途中で崩れるパターンじゃないの?」


「その時はエイル、頼んだぞ」


「はあ!? アタシ便利道具じゃないんだけど」


 エイルは文句を言いながらも、しっかり俺の後ろをついてくるあたり、優しいのか、根が真面目なのか分かんねえやつだ。


「さあ、慎重に行こう。本当でどこが崩れるか分からない」


 俺たちは、光の届かない坑道の奥へと足を踏み入れた。

坑道の入口をくぐった瞬間、冷たい空気が肌を撫でた。月の光があった外とは打って変わって、闇が奥へ奥へと続いている。


「……見えねえな。火でもつけるか?」


 剣の柄に手をかけながら、俺が呟いたそのとき。


「ちょっと待って。アタシに任せて」


 エイルが前に出ると、指先を軽く弾いた。


 パチン――その音と同時に、ふわりと宙に浮かぶ光の玉が生まれた。青白い雷の粒子が凝縮されたような、淡く揺らめく灯り。


「《ライト・スパーク》。雷の魔力を安定させて照明にしたの。どう? 便利でしょ?」


「おお……。手ぇ塞がらねえし、エイルすげえな!」


「ふふん、もっと褒めていいのよ。守護獣の中でもアタシは特別なの。ちゃんと感謝してね」


「ははっ、ありがとな。……よし、進もうぜ」


俺たちは浮かぶ雷光に照らされながら、静かに奥へと足を踏み入れた。

濡れた石床を踏むたび、ぬち、ぬちと湿った音がする。


しばらく進んだそのとき――


 ドゴォォン……!


鈍い崩落音が、坑道の奥からではなく背後――入口の方から響いた。


「今の音、何よ……?」


エイルが震えた声をだす。


全員が思わず立ち止まる。振り返っても、そこには闇があるだけ。

 

数秒後、風の流れが変わった。


さっきまで感じていた外の風が、ぴたりと止んでいた。


「……まさか、塞がったんじゃないよな?」


「……あり得るね。ごめん。僕がここを使おうなんて言ったから」


ハカセが表情を曇らせ、謝ってくる。


「ハカセのせいじゃねえよ。俺らだって賛成したんだから」


「アタシ、最初は反対だったんだけど!?はぁ……もう、行くしかないのね」


背筋に冷たいものが這い上がる。

水滴のぴちょんぴちょんという音が坑道に響く。

緊張が、空気を濃くしたように感じた。



✦✦✦



湿った空気をかき分けて、長い坑道をようやく抜けた。

目の前に広がったのは、古びた石造りの空間――砦の地下倉庫だった。


「……ここが、裏口ってわけか」


俺は息をひそめて、薄暗い天井を見上げる。


天井は低く、所々にカビが生えている。壁には鉄の棚が打ちつけられ、木箱や布袋が雑多に積まれていた。中身は干し肉、古びたランタン、錆びた矢束。どれも盗品だろう。


「物資の保管庫、ってところかな。最近も使ってるっぽいね。その割に警備がいない。僕たちには好都合だったけどね」


ハカセが囁くように言いながら、床に残された足跡や埃の跡を指さす。


「しっ、……上に誰かいる」俺は2人に声を出さないように言う。


微かに、上の階から声が降ってきた。


「おい、急げ。はじまっちまうぞ」


「捕まえた女ども、次は見世物にでもしてやるか。脱がせて泣かせりゃ、いい“見せ物”になるだろうよ」


「商品に余計なことはするな」


 拳がぎゅっと握り締められる。手に血がにじむ。


「ヒイロ、気持ちは分かるけど、今は突っ込んじゃだめだ。ここで騒いだら、全部終わる」


ハカセが静かに前に出て、制止する。表情は冷静だが、俺と同じく目には怒りが灯っている。


「チャンスは必ずある。まずは牢屋の場所を探ろう」


「……ああ」

俺はハカセの言葉にうなずいた。握った拳をゆっくりと開く。


俺たちは身を低くして、物音を立てぬように倉庫の奥へと進み始めた。



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