パーティ
「なんだ、これ?」
翌朝目覚めた俺は、仕事をもらおうとギルドに向かう途中の屋台で買った一番安いサンドイッチを、知らない家の壁に寄りかかり齧っていた。
何気なく開いたステイタスウィンドウの下に、新しい項目があるのを見つけた。
ギフト 付喪神の愛し子
なんじゃこりゃ。
……あ、あれか! 昨日の夢は夢じゃなかったって事か??
だが、ドラグーンブレイブに付喪神の愛し子なんてギフトなかったぞ。てか、そもそも称号はあっても、ギフトなんて項目なかったはずだが?
ドラグーンブレイブでは、初めて出会ったモンスターを倒したり、選んだ職業で一定のレベルに達すると称号がつく。
レベルやHP・MPは、個人情報として自分が見せたい相手にだけ範囲を決めて開示できる。他人の個人情報を強制的に見ることができるのは、ギルドの鑑定板と特殊な鑑定スキルを待つ奴だけだ。
だか称号は唯一、他人からも閲覧可能。だからみんな持っている称号の中で、自慢できる称号だけを表示するんだ。バトル勢は一番強かったモンスター討伐の称号を。ハウジング勢やドレア勢は、そのレア度にあった称号をつける。
「紅い蛇王を討ちし者」とか「無機質の変化者」「千の色彩を纏いし者」ってやつだ。
ドラグーンブレイブの称号は、全部でいくつあるかわからない。公式には約1,000程確認されているが、新モンスターが出るたびに作られるからだ。
今のとこ、レベル1の俺には関係ない話だけどな。
サンドイッチを食べ終わると、俺はギルドに向かって歩き始めた。
あれから一月、俺は薬草取りと土木工事の依頼を中心にしてレベルあげに勤しんでいた。
正直ゲームでもそうだが、どの職業でもこのレベルで組んでくれるパーティなんかいない。
強いフレがいれば、パーティに混ぜてもらって効率的にレベルを上げていくが、あいにくとこの世界にフレはいない。
危険度が少なく手堅いレベル上げは、地道な依頼をこなす事なのだ。報酬は少ないけどなぁ。
俺はまず、土魔法とマジックボックスに稼いだ経験値を振った。土魔法のスキルをあげれば、土製の小屋がつくれ宿代がかからなくなる。アイテムボックスを増やせばそこにベッドや生活必需品を収納できる。
そうやって一月経つ頃には、レベル12になり土魔法で一人用のテントくらいの小屋が作れるようになっていた。一晩しか持たないけどな。アイテムボックスだけは一番安いスクロールを買って増強し、このレベルにしては多めの60個の物を入れられるようにした。容量も馬車一台程度の大きさだ。
一番安いスクロールでも持ち金の大半は吹っ飛んだ。
それでもスクロールを買ったのは、荷物持ちとしての最低条件がそれだったからだ。
これで荷物持ちとしてパーティに入れてもらい、土木工事や薬草取りより多めのレベルアップができるようになる。一太刀でもモンスターに入れれば、それなりの経験値が自動で入るようになるからだ。
顔なじみになった道具屋から一番安いショートソードを買って、俺はギルドの掲示板の中に荷物持ちを募集しているパーティがないかを探していた。
依頼書と共に、パーティメンバー募集の張り紙はたくさん貼ってある。だが、貼ってあるのは剣士やヒーラーや魔法使い、魔法剣士ばかりだ。
ちぇ、俺のアカウントだったら魔法剣士だったんだがなぁ。今の俺の職業は新人冒険者。
冒険者ギルドに所属した時につけられる称号名だ。
「あら、あんた。仕事探しているの?」
振り向くと、いかにも魔法使いという帽子を被り色っぽい服を着たお姉さんが立っていた。
「あ、はい。荷物持ちの仕事を探しているんです」
「ふーん、荷物持ちねぇ。どのくらい持てるの」
お姉さんは、俺を装備(中古のショートソード)を品定めをするように見て質問をしてきた。
「60個です」
「一応、荷物持ちの条件はクリアしているのね」
「えぇ、まぁ」
「レベルは?」
「12です」
「……ふーん、低いのね」
くっ、痛いとこ聞いてくる。だが、この手の質問はパーティを組む前の定石なんだよな。相手のレベルと装備の確認は必須だ。レベル12って、やっとパーティを組んでモンスター狩りに行けるレベルなのだ。
「あんた、パーティの経験は?」
「無いです」
ゲームの中でなら何度も野良でパーティ組んだ経験はあるが、それは言えない。
「は? その年で家族や知り合いとも組んだことがない?」
「いや、俺遠い国から来たばかりでパーティの経験はないんです」
「一人で来たの?」
「ええ、まぁ…。ちょっといろいろあって…」
苦笑いしながら答えると、お姉さんは「ふーん」と言ってにやりと笑った。
「まぁ、冒険者なんて事情持ちが多いからね。丁度荷物持ちを探していたのよ。うちのパーティに入らない? リーダーに聞いてあげるわ」
「え? 良いんですか?」
「いいわよぉ。あ、あたしは魔法使いのサンディよ。ついてらっしゃい」
近場の酒場に連れて行かれると、かつてイケメンだったと思われるおっさん剣士と、気だるそうにした年若そうな男と女が食事をしていた。
サンディが、おっさんに何か耳打ちするとおっさんは「あぁ」と答えて、俺に話かけてきた。
「パーティ経験なしで、荷物持ち希望なんだって?」
「あ、はい」
げーって顔して、少年少女は俺を見る。
わかるわかるよ。未経験者を連れてくと経験者の負担になるもんな。ゲームでも初心者お断りで募集は中級者からってパーティは多かったしな。
でも、露骨に嫌な顔すんなよな。
おっさんは、にやにやと笑いながら質問を続ける。
「で、レベルはいくつだっけ?」
「……12です」
ぷーくすくすと、少女のほうが吹き出しそうになりながら、飲みかけの木のコップをだん!とテーブルに置いて肩を震わせて笑い出した。
「まじ? アタシですら、22なのに!」
小声のつもりだろうが、しっかり聞こえてるよ!
くそー、こっちに来てからも圧迫面接かよ!
このレベルでは一人討伐なんてできない。
だが、この一月求人を見続けたが、一件も荷物持ちの仕事も新人パーティメンバー募集もなかった。やっと見つけた正社員の口を、おいそれとは諦められなかった。
なんとしてもパーティに入り込んで、一人討伐ができるレベルまで上げてやる! そうしたらこんなパーティ、とっととおさらばだ!
おっさんが顎をしゃくりながら「料理はできんのか?」と聞いてきた。
「一応、料理の経験はあります。土魔法で竈を作れるので、それなりに作れます」
これは嘘じゃない。
土魔法のスキルで、竈を作って雨の日以外は竈で自炊している。これで宿代と食事代を浮かしているんだ。元いた世界でも自炊していたみたいで、簡単な料理は無理なくできていた。
「ぷはっ。冒険者なのに土魔法? それ、飾りなんだ」
男の方も、ニヤニヤと笑いながら、俺のショートソードを見ていた。