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伝言


…え…ますか?

聞こえ…ま…すか

わた…しは、今…直接…に……話しかけて…

起きてぇ……


あぁん?


寝入ってすぐだった俺は、不機嫌に目を覚ました。


白いなにもない所で、ふわふわと浮いている俺に誰かが話しかけてきた。


「私は、あなたに助けられたVRゴーグルです」

「は?」

見ると、確かにVRゴーグルが目の前に浮いていた。俺が買ったやつだ。


「こちらの世界はどうですか?」

「あ、え、いや、どうって」

もう何がなんだかわからない俺は、喋るVRゴーグルの話を、ぽかんと口を開けて聞いた。


こいつの説明によれば、自分を守ろうとした俺に感動し、自分らの神に祈ったそうだ。そうしたら、俺のパソコンが反応して、離席のままにしておいたドラグーンブレイブの世界に死にかけていた俺の魂を引き込んで、今の俺がここにいるらしい。


「え? 機械に神っているの?」って聞くと、「付喪神つくもがみ様です」と、VRゴーグルは自慢げに答えた。

古い器物が100年経つと精霊となり、それがさらに1000年経ったのが付喪神になるらしい。最近は文明の発達で、電気機器も器物の仲間になるらしい。


「体ごとお助けできず、申し訳ありません」

「いやいや、えっと、どういたしまして。って…、こんな事、普通ないだろ?」

「はい、私も奇跡だと思います! きっとそれは、拓哉様が愛し子ご夫妻のお子様。愛し子の中の愛し子だからだと思います!」


「は? 落とし子?」

「いえ! あいされた子で、いとし子です!」


興奮気味にVRゴーグルは、ぴょんぴょんと跳ね回る。


確かに、親父は古い家電の修理屋をやってる。親父の腕は良く、全国から古い何かわからない物が送られてきて、それを修理していたな。


「親父はわかるけど、母さんは? 普通の主婦だぞ?」

「お母様は、私達に大いなる愛情をもって大切にする方です! 祈りの力で私達の最後の力を引き出し、私達は役目を全うしてから、誇りをもって昇天できます」


祈りの力? …………あぁ、あれか。

母さんは「物」をとても大切にする。特に電気機器を愛していて、使っていた電気機器が修理不能と聞くと号泣できる変わった人だ。


そう言えばガキの頃、母さんがケーキを焼いていてオーブンが途中で止まった時、「お願い! もう少しだけ頑張って、ケーキがだめになっちゃう〜」ってオーブン撫でてたら復活したな…。俺んち、確かに物が壊れにくかった。


「でも、俺はなんにもできないぜ」

「いえいえ、拓哉様もお母様と同じで私達を大事にしてくれているのでしょう? 一時的な動作不良になっても暴言を吐かれませんし、修理したり大切に扱われていると聞きました」


それは、小さい頃から両親に教えられてたからな。『物にだって命がある。大事に扱って修理して大切に扱うように』って。


まぁ…中学生の頃はバカバカしいって思っていたが、身についた躾はとれなくて、自然と俺も大事には扱っていたと思う。



電気機器達はそれまでの器物と違い、意思の疎通ができ、情報共有ができるとVRゴーグルは言った。


家電は家電族。マウスやキーボードなんかは、パソコン族と言われていてVRゴーグルもそれに属するらしい。

で、そいつらに回る情報では、家電族は大切にされるけど、ゲームに使われるやつらは虐げられているんだと。バトルに負けた八つ当たりで、ぶん投げられて壊されるコントローラーやマウス達はごまんといるらしい。


あー。たまに配信とかで、そういうとこ流してるバカがいるよな。


高価なVRゴーグルはそうでもないらしいが、単価が安くなれば明日は我が身と思われているんだと。


「買い替えの利く私を、拓哉様は御身おんみを挺して、暴漢から守ってくださいました。私は祈りました。動作チェックの時に残っていた電力すべてを使って…」

感動したようにVRゴーグルが、ぷるぷると震える。


「奇跡がおこり、拓哉様のパソコンさんと意思疎通ができました。パソコンさんは『ワシの全ての力を使ってでも、お助けする!』と言って、拓哉様をこちらの世界に転移させたのです」


ワシの? 確かに、かなり古いパソコンだったからな。でもパソコンって、男なのか?


「そうして、パソコンさんは拓哉様の魂を、この世界に転移させ機能停止しました」

「あ、うん。あ…ありがとう」


「私は今、拓哉様のご実家のサンクチュアリに祀られ、拓哉様とお話ができる力が溜まったので、パソコンさんからの伝言をお伝えに参りました」


……サンクチュアリ?? サンクチュアリって聖域だよな…もしかして、仏壇?



「伝言って?」

「はい。『C直下のあのフォルダは、復元できないように完全消去しました。ご安心くだされ』です」

「……Cの直下だぁ?」


Cの直下の、フォルダ?

…しーの…?…ちょっかぁ…!!

だぁあああァァァ!!



「おいおいおい!! その後どうなった!」

VRゴーグルを掴んで揺さぶると、VRゴーグルは「ぽっ」とほんのり赤く光って、言葉を続けた。


「さすがに愛し子様方でした。お母様は回収されたパソコンさんに『お願い、最後に一度だけでいいの。起動して』と祈られ、起動したパソコンさんから、お父様が素早くデータをサルベージされました」

「そ…それで?? C直下のフォルダは???」


「安心してください。完全消去され、拓哉様の尊厳は守られました」


よ…良かった…。

俺は、力が抜けてヘナヘナと座り込んでホッとした。

あんなの死後に見つかるなんて、死んでも死にきれねぇ。


「あぁ、そろそろ…力が……。拓哉…様、お元気…で」

「あぁ、ありがとう。俺はなんとかやってくよ」

「最後に…お父様からの伝…言です。『母さんに見つかる前に、キャッシュは…クリアした』そう…です」


!!

VRゴーグルは、最後の伝言を伝えると、スーッと消えていった。


そして俺は、そのまままた眠りに落ちていった。


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