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土魔法


土魔法使いは、運営が用意した課金のアイテムをスキルでいじれた。好みの色や大きさ、細かいディテールを加えることによって全く雰囲気が別物のアイテムに変化させられる。まぁ、限度があるが。


道路の敷石を少し古びさせて色を変え、轍をつくったりしてリアルな古代都市の道路にしたり、課金の建物や家具庭具の石造りの部分を改変や撤去、そして少しだけだが増築ができるのだ。


同じように草魔法使いも花と木の課金アイテムをいじれる。通常スキルで取得してもいじれるが、固定スキルの土魔法使いはその範囲と幅が通常スキル持ちより多い。


固定スキルの土と草魔法使いはハウジング・ガーデニング勢にとって、神である。


だが、俺にはどうでも良かったスキルだっだ。ま、一応通常スキルでとってはいた。

初期の頃こそ、バトルでは土魔法で壁を作り相手の攻撃を防ぐが、中盤以降盾の性能が良くなり使わなくなる。せいぜい時間稼ぎの足止めに使うくらいだ。それより生活スキルとして野営の時にテント代わりに土製の家やかまどを作るのに使っていた。


ドラグーンブレイブをやりはじめたころ、当時のフレンドから誘われて有名なハウジングイベントに行ったことがある。


ちょうど家を買ってハウジングでもやろうかなって思っていた頃だったし、予定はなかったし、フレンドがまだ少なくハウジング勢には中身同一がたくさんいるとちらっと聞いて、フレンドの一人でもできたら…と、思って行ったのも理由の一つだった。



……すまん、それ目当てだった。


が、度肝を抜かれた。圧倒的な世界観と考え抜かれた緻密なアイテム配置。

どの角度からでも世界観を壊さない完成されたハウジングとガーデニング。


そしてその場で開催される、隙のないコーデイネートに基本カラーにはないオリジナルカラーのドレスアップをした美男美女による撮影会。

かわされる暗号のような褒め言葉。


ガチ勢、こえぇぇ。


適当ドレアの俺は誰にも声をかけず、その場を去った。


なぜなら、俺には『センス』ってものが絶望的になかったからなんだよな。

ハウジングもドレアも。


ベッドは寝れれば一番安い『干し草のベット』いいし、装備は錬金さえちゃんとしていれば多少チグハグでも文句はない。黒一色にすればそれなりに見える。


やなこと思い出しちまった。


クローズ。

ステイタス画面をとじ、路地からでると俺はまっすぐ冒険者ギルドに向かった。

なにはともあれ、冒険者登録をしないと金は稼げない。なんていっても無一文なのだ。

ジャンパーの中のポケットには財布とスマホと、元いた世界のアパートの鍵だけ。しかもスマホはあいつらのせいでバキバキだ。電源すら入りゃしねえ。


まぁ、電源が入ったとしても、ここじゃ役には立たないしなぁ。



ギルドの扉を開けると、中は活気と血の匂いに満ちていた。

いくつかあるカウンターでは、仕留めた依頼の魔物を出しているパーティはいるし、査定が厳しすぎるとごねている奴らもいる。


ぐるりと見渡して、一番端の空いている窓口にいくとカウンターの中に声をかけた。

「はーい、ただいま」とどっかの居酒屋のような返事が聞こえ、しばらくするとまだ若い女のギルド職員がやってきた。


「ここは冒険者登録窓口ですよ。配達受付はあっちです」と、ギルドの奥を指さした。

「あ、いや、冒険者登録したいんですけど」

「……」


まだ若い女のギルド職員は、驚いたように俺を上から下まで二度見ると「冒険者登録です…か?」と確認してきた。


失礼なっ 確かに少しぽっちゃりしているが、本人が望めば登録は拒否れないはずだ。


「冒険者登録です」

少し大きめの声で返事をすると、女職員は納得しないような顔をして「こちらへどうぞ」と奥の個室に案内してくれた。


「なにか身分証明はありますか? 教会の洗礼札せんれいふだとか身元を証明してくれる人とか」

何だよそれ。ゲームの中ではそんなのなかったぞ。

俺は慌てて、財布から免許証をとりだした。


じーーーーっ

女職員の目が免許証に釘付けになった。


「あの、俺の国ではこれが身分証になります。他にもあるけど、今はこれしか持っていなくて。あ、俺の国は、ここからずっと遠い島国です」

あわてて言い訳のように説明すると、女職員は納得したという顔をした。


「外国の方だったんですね。珍しい身分証ですね。こんなに精巧な似顔絵は初めて見ました」

「あ、ありがとうございます」


納得したのか女職員は、免許証を机の端にあった金属の板の上に置いた。

「ちょっと鑑定させてもらいますね」


ヴゥーン

細かい振動音のような音が聞こえ、免許証の上に小さなステータス画面が表示される。


え? 読めるの?

驚いてみていると、ステータス画面には俺の顔と鑑定不能の「???」の表示が出た。


「鑑定できないですね。ギルドの鑑定板で鑑定できないって事は、お客さんものすごく遠いとこから来られたんですね。でも、文字は読み取れなかったにしろ、母国の身分証はお持ちということで、冒険者登録しますので、準備をしますから少しお待ちを」

そう言って女職員は立ち上がった。


俺がそれでいいのか? 緩すぎないか?って顔をしていたのに気がついた女職員は、苦笑いをする。


「冒険者ギルドでは、身分証が無くても登録は出来るんですが、規則で一応お聞きするんですよ。他のギルドじゃダメですけどね」

では…と、女職員が個室を出ていってから俺は、ホーっと大きく息を吐いた。



なんだ、脅かすなよ。登録できないかと思ったぜ。

ホッとした俺は、さっき女職員使っていた鑑定板の上に財布から10円玉を取り出し置いてみた。


ヴゥーン

細かい振動音のような音が聞こえ、さっきと同じように10円玉の上に小さなステータス画面が表示された。



「???」 銅95%・亜鉛4%・スズ1%

結構精密なんだ。素材までわかるのか。でも素材はわかっても「かね」っていう用途はわからないんだ。



財布に入っていた他の物も手当たり次第鑑定してる時に、コツコツと近づいてくる女職員の足音が聞こえて、俺は素早く財布をポケットに仕舞った。


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