スキル確認
「冒険者ギルドは、この道をまっすぐ行ったところだ。目立つからすぐにわかる」
ダンが大通りの先を指さす。
「いや、本当に助かりました」
「なに、いいってことよ。怪我人を見つけたら、近くの街まで同行するってのがギルドの掟だからよ」
「ああ、あんたは運が良かったぜ。日が沈んだらあの辺りは危険だからな」
ヤーンはそういうと、幸運を祈るというジェスチャーの人差し指と中指をクロスさせてピッと、挨拶をして歩き始めた。
「じゃあね」
カレラとユーマは手を振ってから、2人の後を追いかけ始めた。
ここはあの草原から1番近い辺境の町、ゴーダだ。
ダン達のホームタウンでもあるゴーダは、夕方の買い物客で賑わっていた。狩りから帰ってきた冒険者の姿もちらほら見える。
「とりま、ギルドに向かうか」
俺はダンが指さした方向に歩き始めた。
「ねぇ、何で一緒にギルドまで行かなかったの? いつもなら真っ先にギルドに行くじゃない?」
カレラがダンに追いつくと、不思議に思っていた事を口にした。
「そこまでお人好しにはなれねぇよ。それに冒険者ってのはパーティ優先。俺が守るのはお前たちだ。冒険者の義務は果たしたんだからな。それまでだよ」
ダンは、そう言って一旦家路を目指した。いつもならギルドに寄ってワイルドボアの肉と皮を渡し、魔物の体内から取れる核と一緒に精算してもらう。
今日は家に帰り、当面家で食べる肉を取り分けてからギルドに寄るつもりだ。
ダンとヤーンは兄弟で、カレラとユーマは従兄弟にあたる。自分達の親もカレラ姉弟の親も冒険者だった。今はもういないが。
本来ならヒーラーを入れてダンジョンに潜り、経験値を貯めてレベルをあげていくのだが、まだ幼い従兄弟たちのために比較的狩りやすい森の魔物を狩ってレベルあげと経験を積ませてる。
カレラ達の親がそうやって、自分達を1人前にしてくれたからだ。
「今日は肉をたらふく食うか」
ダンはそう言って、ユーマの頭をなでた。
「あれが、この町の冒険者ギルドか」
盾と剣と槍のお馴染みの看板が下がった建物はすぐに見つかった。
俺はキョロキョロと周りを見回し、横の路地に入る。
俺がやってたドラグーンブレイブってゲームと同じ設定ならできるはずだ。
ステータスオープンと念じると、目の前にぽやんと見慣れたステータス画面が浮かんできた。
「おー! 一緒だぜ」
---------------------------------------------------------------
名 前 : タクヤ エンドウ
年 齢 : ?
職 業 : ーー
所 属 : ーー
レベル : 1
H P : 100
M P : 100
攻撃力 : 58
防御力 : 100
すばやさ: 55
スキル : 鑑定 1
アイテムボックス 1
生活魔法 1
固有スキル: 土魔法
---------------------------------------------------------------
「あ? なんでだ?」
職業と所属はわかる。まだ職を決めてないし、どこにも所属していない。だが、年齢が「?」なのはなんでだ?
……。俺っていくつだった?
前世を必死で思い出そうとするが、思い出せない。
学生…ではなかった。仕事はしていた。
だからこの3連休に合わせてゴーグルを配送してもらったんだ。あれ?何の仕事していたっけ??
しばらく考えたが思い出せなかったので、諦めた。そのうち思い出すだろう。こういうことは諦めが肝心だ。
気を取り直して、ステータス画面を見る。
初期値かぁ。しゃーないな。くそ、転生特典とかないのかよ。このレベルじゃ、スライムとかからでも殺られるわ。
スキルのとこも、初期値。
鑑定ってのは、対象をじっと見るとそれが何かわかるスキルだ。ただレベル1ってのは、レタスをみて新鮮なレタスとか萎びたレタスとかって、目で見てわかるレベルってことだ。誰でも知っている情報しかわからない。
見たことない、知識として知らないものは「???」で表示される。鑑定レベルを上げるとより詳しく分かったり、知らないものでも名前や特徴がわかるようになる。
その為にはバカ高いスクロールを買って身につけるか、特定の魔物が落とすドロップ品のレアスクロールをゲットするかしかない。
アイテムボックスも、ドラグーンブレイブの世界では最初から標準装備だ。だけどレベル1ってのはポケットくらいの大きさになる。入る数も1つ。
数も容量は、レベルとMPによって比例する。レベルとMPをあげると数も容量も増えていくが、限界値になるとやっぱりスクロールを使って拡張するしかなくなる。
アイテムボックスと念じて開くが空っぽだった。
ちっ。なんにも入ってねぇ。
生活魔法は、火、水、風、クリーンの魔法が少しだけ使える。
レベル1だったら小さな火で種火として使ったり、コップ1杯程度の水を出したり、髪や服を乾かせる程度の風を使える。クリーンは、自分の体と服を無毒化する魔法だ。毒のある返り血を浴びたりするとやばいからな。生活魔法もレベルとMPの高さに左右されるからレベル1のクリーンなんてたかが知れている。せいぜいトイレットペーパー代わりだ。
そして最後に書かれている固有スキルを見て俺はため息をついた。
土魔法か…。よりもよって、なんでこれが固有スキルなんだよ。1番興味なかったスキルだぜ。
土魔法はその名のとおり、土を操る魔法が使える。
ドラグーンブレイブはドラゴンがいる世界で、ドラゴンや魔物、時々のイベントボスと戦うことがメインのオンラインゲームだ。バトルコンテンツが人気だが、高解像度のグラフィックスによる精密で再現度の高い家具や庭具で、家や村を作ったりするハウジング勢、幅広いデザインの衣装を楽しむドレスアップ勢と、バトル苦手勢も大勢いた。
その中でハウジング勢に人気があったのが、土魔法使いだった。