死神
「……ん、坊や。どうしたんだ? さっきから落ち着きがないし、顔を隠すようにしてさ。ほら、料理が冷めるぞ」
「……お父さん。なんか、なんか変だよ……」
「変? 変ってなんだ?」
父親はそう言い、辺りを見回した。なんてことはない。昼時で賑わう、ただの飲食店。いつもの光景だ。
「わからないけど……ぼくらを見てるよ。視線を感じるんだ……」
「ははは、視線? みんな自分の食事に夢中で別に……ああ、それはほら、窓の向こう。何食べてるのかな? あの店、美味しいのかな? って気にしている人たちのさ」
父親はそう言い、笑ったが息子の顔は沈んだまま。それはさらに暗く、暗く……。そして、ボソッと言った。
「……死神」
「ん?」
「死神だよ……ねえ、もう出ようよ」
「ふふふ、なんだぁ? 昨日の夜、怖い夢でも見たかっ。はははは! さ、店を出たいのなら早く食べてしまいなさい。ふふっ、競争するか? ほら、よーいドン!」
そう言い、父親はスプーンを手に取り料理をかき込むそぶりを見せる。しかし、息子の両手はグッと椅子を掴んだまま。まるでどこかに連れ去れないように……。
「お父さん、見えないの……? 死神がいる。ぼく、怖いよ……」
「んー? 通りの向こうか? あれはただの人だよ」
「お父さん、お父さん。あの人たち、何か話しているよ。怖いよ……」
「友達なんだろう。そりゃ話すさ」
「お父さん、ああ、お父さん……死神の目が光ったよ……」
「もういい加減になさい……ん、ああ、太陽の光に反射したんだろう。なんだろうね? たくさん……」
「お父さん、死神が、死神がみんな、こっちを見てるってば」
「だから、ん? ああ、あれはほら、ただのカメ――」
『えー、中東で政府に反発する武装組織による――』
『――ミサイル攻撃の瞬間の映像を取材班が捉えていました』
『民間人に大量の死傷者が出ているようです』
『――取材班及び外国人に被害はないそうです』
『これに対し、政府は軍による報復を――』
『――では現場に繋ぎます』