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蝉のように儚く  作者: 櫻井賢志郎
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夏休みに入っていよいよ受験勉強も追い込み期間に変わっていく。

この夏の勉強できっと僕の人生は決まる。そう思いながら必死に勉強をした。家で取り組む事がほとんどだったけど、高校生最後の夏休みという事もあって何度か3人で集まっては息抜きをしていた。



和馬が引退した事もあり3人で過ごすことが増えていた。毎日が楽しく何気ない日々を過ごしていた。


3人で出かける事も多くなってカラオケや水族館なんかにも行った。

相変わらず優香はバイトが忙しそうだったけどそれでも休みの日には嬉しそうに来ていてなんだか僕も嬉しくなった。


当然のことのように暑い毎日でクーラーの効いた店内で飲むメロンソーダはいつも以上に美味しくてまるで僕たちのこれからを応援してくれているようだった。

「2人は夏休みどこか行くの?」

「僕はおばあちゃんの家に行くよ。毎年行って花火大会をみて過ごすんだ。」

和馬に聞かれてそう答える。

「私はとくにそういうのはないかな。いつも通りバイトって感じ!」

優香は高校最後の夏休みだというのに相変わらずバイトが忙しいらしい。

「大変だね。そうだ、僕たちで花火しようよ」

僕はその場の思いつきで口にする。

「ほんと!?やりたい!!」

そう言って優香はすごく喜びながらもどこか切ない顔をしていた気がする。

和馬もいいよと言ってくれて僕たち3人は一緒に花火をすることになった。


約束をしていた日になって僕たちはそれぞれが持ってきた花火を見る。

和馬が持ってきたのが打ち上げ花火ばかりで僕と優香は思わず笑みをこぼす。

「なんでだよ!絶対こっちの方がいいだろ!」

そう和馬は自慢げに口にする。


火が落ちたのをみて花火に火をつける。

手持ち花火ではしゃいだり和馬が持ってきた打ち上げ花火に圧倒されたり、とにかく楽しい時間が過ぎて行った。

線香花火に火をつけて誰が最後まで残るかを競ったら優香が最後まで残ってその日1番の笑顔を見せる。

負けた事が少し悔しかったけど、はしゃぐ優香を見ていたら何だかそれすらも楽しかった。


最後は1番大きな箱に入った打ち上げ花火に火をつけて、3人はどんな大きな花火なんだろうと楽しみに待った。

点火してからすぐに打ち上げられた花火はたった一発の花火で何だか拍子抜けをしたけれど、そのたった一発がすごく綺麗だった。

「みじか!」

優香と和馬が同時に口に出す。

3人は顔を見合わせて大きく笑った。こんなに楽しい夏休みは初めてなんじゃないかと思うほどにその日は楽しくて、毎日の勉強の息抜きには充分なものになった。

確かに短い最後の花火だったけれどまるで僕たちの今までのように期間は短くてもギュッと詰まった日々のようで、いつまでも忘れる事がない一発になるんだろうなと思った。


「来年は特大の花火を買おう!」

そう言った和馬がいて僕たち2人もそうだねと口にする。

来年も2人と一緒に花火がしたいそう思いながら片付けをした。



学校も始まり、もうすぐ高校最後の文化祭がある。

クラスメイトと準備をする中で、今までで一番楽しいと感じることができていた。

それはきっと2人と仲良くなれたこと、2人を通してクラスの他の子とも仲良くなることができた事が大きな理由になっていると思う。


今では、あの時僕たちをからかってきた男子たちを交えて会話する事もあるくらいに色々な人と話すことができている。それはきっと僕だけじゃできなくて、2人がいてくれたから話すことができるようになったんだと思う。


準備をしているとからかってきた男子が僕のところに来て

「鮎坂ってかわいいよな」

と言う。てっきりまたからかってるのかと思ったけれどすぐに

「からかってるわけじゃなくて本当にそう思うんだけど、鮎坂って普段はどんな感じなの?」

真剣に聞いている事が伝わってきたけれど、どんな感じかと聞かれると難しい。

「どうって、、多分見ての通りだよ」

「お前らといる時もあんな感じではしゃいでるんだ」

そう言って文化祭で使う風船で他の女子と一緒にバレーボールをしている優香を見る。

「うん、あんな感じだと思う」

男子はそうなんだと言って何だか嬉しそうにしながら跨いだ場所へと戻っていった。


やっぱり優香って可愛いんだなと改めて思う。

何気なく、優香って彼氏とかいた事あるのかなと考える。高校3年生だし、可愛いしきっといたことくらいあるだろうなと思って何だか悔しくなる。

優香に対して今までそんなふうに思ったことはなかったけれど、もしかしたら優香のことが好きな男子はたくさんいるのかもななんて勝手な想像をしていた。


文化祭の準備も順調に進んでいって当日を迎える。

当日も3人で色々な出し物を見て回る。今までと大して変わらない内容なのに今までで一番楽しむことができている実感がある。

それはやっぱり2人が一緒だからなんだと心から思う。


僕たちのクラスは縁日をやる事になっていて、たかが縁日のはずなのに最後という事もあってやけに気合が入っているけど実際楽しめてたから別にいいかと思いながらシフトの順番で優香と一緒に縁日の受付をしていると優香が

「高校卒業したくないなー」

「わかるよ。特に最近は楽しいから尚更だよね。」

「うん。それにみんなと離れてまた1人になるのもやなんだよね。」

「大丈夫だよ、卒業しても会えるから!」

実際に僕は卒業してからも会いたいと思っていたし、実際に会い続けられるだろうなと思っていた。だから何の疑いもなくすぐに口に出していた。


「まあね!後私ね大学行く事にしたんだ!やっぱりカウンセラーになろうと思って!行くなら国立がいいんだけど!なお」

「いいと思う!優香ならなれるよ!」

「ありがとう!でもまだ親には言えてないから説得できればいいんだけど!」

「応援してるね!」


優香ならカウンセラーに本当になれると思っていたし、何より僕が相談するなら優香みたいな人に相談したいと思った。

たまに抜けてるのかななんて思う事もあるけど意外としっかりしてるしなにより話したいと思える雰囲気を彼女は持っていた。

でも、優香はたまにはしゃぎすぎるところがあるから相談を受けてそのくらい大丈夫だよとか言っちゃわないか心配になったけれど。


優香が何でカウンセラーになりたいのかは聞いた事がなかったけれどきっと何か理由があるんだろうなとは思っていた。

それにカウンセラーがどんな仕事をするのかもあまり僕にはわからなくて思い浮かぶのが学校に来るスクールカウンセラーだった。

優香は向いてるとは思うけれど、扉を開けたら優香がスクールカウンセラーとして椅子に座っていたら僕なら少し笑っちゃうかもそんなことを考えながら家へと帰る。


「国立って入るの難しいの?」

家に帰って僕は姉ちゃんに聞いた。こう見えて姉ちゃんは頭が良い。大学も国立に行っているし高校だって僕より少し偏差値の高い高校を出ていた。

「難しいよ。予備校がなかったら私も正直厳しかったかも。」

姉ちゃんの言葉を聞いて、優香がいかに難しい事にチャレンジしようとしてるのかを知った。

それでも僕は応援しようと思ったし、国立の中でもきっと差はあるはず。少し遠い場所になってでも優香なら合格を勝ち取れると思った。


それからしばらくして、優香は突然学校に来なくなった。

僕は特に大した理由ではなく、コロナにかかったか何かだと思っていた。

それにしても、LINEをしても返信がないのはどうかと思うが。

「優香大丈夫かな心配だね」

和馬がいう

「大丈夫だと思うよコロナか何かじゃないかな」

「そうだといいけど、何かあったんじゃないかな」

「いやいや考えすぎだと思うよ」

「いやでも、優香って、」

そこまで言いかけたところで担任が教室へと入ってくる。


いつもよりも表情が暗くどこか深刻な様子の担任の表情を不思議に思いながら担任が口を開くのを待っていると、やっと重たい口を開ける。

「鮎坂さんが先日自宅で亡くなりました。」

クラス内のあちこちでザワザワと色々な人が何かを言っている。

音としては聞こえてくるが声としてみんなが何を言っているのかは聞こえて来ない。それくらい僕は、僕たちは動揺していた。


ついこないだまで一緒にいたしいつもと変わらず笑顔で明るい優香だった。何か病気があるなんて聞いた事はなかったし、そんな様子も一切なかった。

交通事故も頭をよぎるがこの近辺で事故があれば多少の情報は噂話程度に知れるはずだと思い余計に優香が死んだ理由がわからなくなる。


「病気かなにかですか」クラスの1人がそう言ったのがやっと声として認識できる。

「詳しい事は言えない」とだけ担任はいって今日は1日自習となった。

自習とは言ってもそんな簡単に受け入れられるはずもなく教室の中はいつもとは明らかに違う異様な雰囲気で溢れていた。

ある場所ではさっきまで僕が考えていたように病気だったのかとか事故にあったのかなんて憶測が聞こえてくる。


またあるとこでは咽び泣く様な声が聞こえてくる。

少し前に文化祭があった事もあって特に女子が泣いているのがわかる。

きっと何かの間違いだそう思いながらいつもよりも長く感じる授業時間が少しずつ進んでいく。


昼休みになると、優香がこの世にいない事が現実としてどっと押し寄せてくる。

いつもいるはずの席にいない、いつも聞こえてくるはずのあの明るい声が聞こえない。その事に耐えられなくなり今にも泣き出しそうになっていると、教室のドアが開き担任が入ってくる。

「海瀬、進藤ちょっといいか」そう言われ僕たちは職員室へと向かう。

そこには2人の刑事さんと担任がいる。

「海瀬くんと進藤くんですね」そう聞かれて「そうです」と答える。

なぜ刑事が学校にいるのかさっぱりわからずにいた。まさか誰かに殺されたのかそんな非現実的な事も頭によぎるが、それはすぐに刑事さんの言葉で否定された。


「鮎坂さんからお二人に向けた遺書があったため、中身を確認していただきたいです」そう言われ、より一層頭の中が混乱する。

「遺書、ですか?」和馬が聞いたのを見て僕も視線を刑事さんへと向ける。

遺書があるという事は、きっとそういうことだとわかっていても、普段の優香の様子からは想像が付かず混乱していた。

「ご察しの通り鮎坂さんは自ら命を絶たれました。ご家庭での事など今現在調査しているためお二人にもいくつか聞きたいことがあります」

涙と一緒に頭の中で否定し続けた、そんなわけがない。優香は先日まで元気に過ごしていたし文化祭だって一緒に回った。

大学に行きたい事も親に伝えると言っていたのに優香が自分から死ぬなんてありえない。


「まずは遺書の中身を確認していただいても良いでしょうか」そう言われ遺書を渡される。


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