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蝉のように儚く  作者: 櫻井賢志郎
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定期考査の最終日という事もあって今日はいつもより早く学校が終わった。

たまたま部活の休みだった和馬も来れる事になり3人で先日のカフェに行き定期考査の出来をそれぞれが話ながら何気なく過ごす。

「そういえば和馬大会いつ?」

「7月には始まるよ!」

僕が聞いて和馬が答える。

「じゃあ応援行こうよ!!」

当然の如く張り切って優香が答える。

僕の高校は県大会でベスト8に入るくらいのそれなりの強豪校で部員数も多く、その中でレギュラーだというから和馬はすごいなと思う。


その後も3人で学校での話などをテストからの解放もあってのびのびと話す。

「三年生になってから久しぶりに友達と仲良く過ごせてて楽しい!」急に優香が言い出す。

「そういえば何で喧嘩しちゃったの?」

「いや毎日私コンビニ弁当食べてるじゃん?それとか服装見て貧乏なんじゃないかとか、虐待受けてるんじゃないかって言ってきたの!悪気なくふざけて言ってただけだと思うけど、怒っちゃってさー」

「それは怒っても仕方ないね俺なら怒る」と和馬が言う。

「ほら私、勝手にあれこれ言われて楽しい事とか幸せな事を壊されたり、傷を抉られたりそういうのが許せないんだって言ったじゃん。それが悪い形で出ちゃってさー。でも今が楽しいからいいんだけどね!」

そして、夕方になり今日もそれぞれが帰路に着く。


明日からまた和馬は部活が忙しくなるらしくしばらくは、2人でお昼を食べることが増えるらしい。

だからどうって事もなくいつもと何も変わらない日々がそれからも過ぎていった。


一度だけ優香に誘われて一緒に映画を見に行った。

その時流行っていた恋愛映画で普段は見ないジャンルの映画だったから新鮮にかんじた。

周りにいるのはカップルや女子ばかりで少し僕は場違いなんじゃないかとも思ったけど断る理由もなかったから気にせずに一緒にみた。


映画の内容は正直難しかった。恋愛と言われるものに疎い。

社会人の男女の恋愛なんてもっとよくわからなかったしそもそも人と付き合うのがどんなことなのか僕にはさっぱりわからなかった。

関心がないわけじゃなくてたまたまそう言ったものに出会う機会がなかっただけだと思う。

きっと経験すれば良いものだなと思うのかもしれないし、誰かを愛すことに幸せだって感じたかもしれない。

そんなことを感じながら僕は映画館を後にした。


見終わってからはいつものカフェに行って映画の感想を言ったりして純粋に楽しかった。

やっぱり優香は友達として好きだし一緒にいて楽しいと思えた。

きっとこれからも同じように3人で一緒に楽しく過ごすんだろうなそんな事を思いながら1日を終える。


7月になって一緒に和馬の試合を見にいった。

グラウンドでの和馬はいつも見せる優しく逞しい表情とは違い力強く、その中に優しさもある例えるなら戦士の様なそんな姿だった。

僕の高校は順調に勝ち進んでいき、27年ぶりの準決勝進出を果たした。

もちろん僕と優香は準決勝も一緒に応援に行く。


結果は3-4の惜負。

その日の和馬は大活躍だった。それでも誰よりも涙を流す和馬の姿がグラウンドにはあった。

そして横にいた優香も涙を流していた。

確かに感動した。何かに打ち込む事の美しさがそこにはあったと思う。

僕にはない魅力だし、心からカッコいいなと思うことができた。

きっと優香も同じなんだと思った。打ち込む事のできる強さや勇気、何かに打ち込むことへの憧れなのかなと感じた。


「カッコよかったね。」

「うん。」


試合が終わると次の試合がある事もあり余韻に浸る間もなく球場を後にする事になった。

「お店、寄ってく?」

「いいね、そうしよう」

優香に誘われていつものカフェに行き少しだけ時間を潰す。


「和馬見てたらカウンセラーやっぱり目指したいなって思えたんだよね」

「良いと思うよ、優香は頭悪くないんだし奨学金も借りればいけると思う」

「うん、でも働けってうるさいんだよね。私の人生なのに。早く家出て行きたいな。」

「バイトもしてるんだしきっと大丈夫だよ!」

「うん、、そうだよね!ありがとう!」

優香は他にも何か言いかけて辞めた気がしたけど気にせずに会話を切り上げた。

「しずくはやりたい事ないの?」

「僕は今の所はないかな。だから和馬の頑張ってる姿とか、やりたい事のある優香とかがすごいなって思うし羨ましく思うよ」

「私なんて羨ましくなんかないよ。」

「そんなことないよ。」

「あるの!思うことできてもその通りにならない事もあるの!」

急に大きな声を出した優香に思わず「ごめん」と返していた。

「あ、ごめんつい。気にしないで。」

「大丈夫だよ」

少し気まずい空気が流れたがすぐに今日の和馬の活躍の話になりいつも通りの2人に気付けば戻っていた。


帰り道、今年初めてのセミを見つけた。

まだ夏は始まったばかりだというのにそのセミは道端で裏返っている。何かで聞いた事があったけどセミは成虫になるまでの期間の方が長いらしく、そのほとんどを土の中で誰にも気付かれる事なく過ごすらしい。

このセミも必死に生きてきたのに少し早く地上に出て仲間よりも早く死んでいくんだなと思った。

なんて儚い生き物なんだろうそう思いながら横を通り過ぎる。


家に着くと20歳になったばかりの姉ちゃんがお酒を飲んでいる。

「姉ちゃんって将来やりたいことあるの?」

「ない!!!」

「なんで大学行ってんの?」

「やりたいこと見つけるため!」

当然の如く答えが返ってきた。

確かに世の大学生はそれが普通なのかもしれない。

医学部なんかに行く人は違うのかもしれないけれど大半の人はやりたいことが明確なわけではないのかもと思った。




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