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第1話 落ちこぼれ

「鑑定結果は…え、…コ、コモンスキル「発電」…のみです」

「…へ?」

その日、私は大勇者の後継者から…ただの落ちこぼれになった。





魔王アルケー、突如あらわれた「絶対者」の名。20年前、魔大陸から人類が住む中央大陸に侵攻を開始する。聖魔戦争の勃発である。

魔王は奇妙な鉄でできた化け物と魔物を使い、瞬く間に複数の人類国家を陥落させ、侵攻から一年後には中央大陸の半分を支配するまでになった。

当時、前線になった人類の超大国アイアン帝国はなんとか前線を維持したが、帝都陥落は目前であった。

そんな中、人類に希望の光が現れる。人類を哀れに思った神が力を与えた存在、勇者たちの出現である。

帝国の隣国、シルバー王国に彗星のごとく現れた勇者4人。

大勇者フリッツ

大剣聖クルト

大聖女ソフィア

大賢者ラルフ

後に伝説の勇者パーティーと呼ばれる彼らは前線に現れると、瞬く間に魔王軍を追い返し…そして最後には魔王アルケーを打倒すことに成功する。

魔王を失った魔王軍は魔大陸に撤退し、聖魔戦争はひとまず人類の勝利に終わった。

その後勇者たちは王国に戻り、それぞれ結婚し、子供を授かる。

勇者の子供たちは幼いころからその才覚を発現し、鑑定の儀でも強力なスキル持っていることが確認された。

…一人を除いて…そう、大勇者フリッツの子である私を覗いて。






私の名はリア、大勇者フリッツの娘で…勇者の子孫の中で唯一の…落ちこぼれだ。

他の勇者の子孫の三人はそれぞれユニークスキル「剣聖」、「聖女」、「賢者」を授かる中、私が授かったスキルはコモンスキル「発電」だ。

コモンスキル「発電」は所謂外れスキルと呼ばれていて、一般人が授かっても馬鹿にされるくらいだ、それこそ扱いは無能力者と変わらない。

それを勇者の娘が授かったのだ。周囲がどんな反応をしたか想像に難しくない。

「期待外れ」

「失敗作」

「唯一の出来損ない」

侮蔑の言葉は耳にタコができるほど聞いた。

仕方がなかった、撤退したとはいえ魔王軍の大半は健在、次なる侵攻に備えて勇者の子孫に期待するのは当たり前だから。

そんな私は今は王立勇者学園の3回生、15歳だ。

謎の失踪を遂げた私の父親、大勇者フリッツが設立した学園、王国中からエリートが集まり、日々その才覚を磨く場所。

外れスキルを授かっていようと勇者の子孫である私はそこに入学した。その結果は…周囲からは馬鹿にされるか、腫物扱いで距離を置かれるかのどちらかだった。

努力はした…血がにじむほどに。しかし現実は残酷だ。スキルの恩恵は強大だ。いくら鍛錬しようと周りに突き放されるばかり。

でも諦めない。わずかな確率、即ちスキルが進化する可能性にかけて。

私は学園の鍛錬場で一人今も剣を振り続けている。

「…たあっ!」

本当は分かっている、私は落ちこぼれ、でもそれを認めてしまうと心が折れてしまう。だから私は剣を振り続ける。

そんな時。

「よう、落ちこぼれ、また無駄な努力をしているのか?」

「…」

私にそんな言葉をかけてきた男…ダルク、私と同じ勇者の…子孫、私と違い「剣聖」の才能を授かた男。

「いい加減現実を受け入れろよ…お前は落ちこぼれだ…だが、見てくれはいい」

そう言うダルク。

「だから、諦めてさっさと俺の女になれよ、なぁ?」

…下劣なことを言うこの男…昔はこうではなかった。私のスキルが発覚する前はともに勇者の後継者となることを誓い日々鍛錬する、良きライバルだった。

「…」

私は無視して剣を振り続ける。

「チっ、おい!」

そんな私の肩を掴み強引に振り向かせるダルク。

「…ッ!?」

抵抗は…できない。地力の差が大きすぎるからだ。

「剣聖の正妻になれるんだぜ?落ちこぼれのお前には光栄な事だろ!」

そんな時だった。

「ちょっと、ダルク!」

鍛錬場に別の声が響いた。

「ちっ…ハンナか」

私の肩から手をはなすダルク。

鍛錬場に現れた少女、ハンナ、彼女も勇者の一人、大聖女の娘だ。ユニークスキル「聖女」の持ち主でもある。

「女の子に乱暴して、勇者の子孫としての自覚はないの!」

女の子、か…仮にも勇者の子孫なのに、ただの女の子という扱いだ。

「ハンナ俺はただ」

「ただも何もない!行こ、ニア」

ハンナは私の手を掴むとそのまま鍛錬場から連れ出す。

しばらく歩いて、後者の外のベンチに二人で腰掛ける。

「大丈夫?リア」

「…ええ、いつも助けてくれたありがとうハンナ」

そのまましばらく無言になる私たち。

しばらくするとハンナが口を開く。

「…ねぇ、ニア、ダルクと婚約する気はないの」

「…へ?」

ハン…ナ?

「…ダルク、ああいう態度だけど、リアへの想いは本物だよ…いつも裏でニアへの態度を後悔しているの」

「…」

「多分、ダルクは婚約すればニアを大切に扱うと思う、だから…」

「ごめん、用事が出来た、じゃあね、ハンナ」

私はベンチから立ち上がると寮へ向かう

「リア!あなたは勇者の子孫なんてこと気にすることない!あなたは別の道で幸せになれば…!」

幸せ?なんで他人の幸せをあなたが決めるの?私は、お父様のように…勇者になって、人々を救いたい、それが私の幸せ。それ以外の…幸せなんて…ない!

私はハンナを無視して歩き続け寮の自室に戻ってきた。

そのままベッドに突っ伏す。

助けてくれた友人を無視してしまったことに今更罪悪感を覚え始める。

でも…ダルクの言葉なんかより、ハンナの言葉の方が私の心に刺さったから。

私の努力は無駄なのだろうか…ハンナのいう通りもう全部諦めた方がいいのではないか。

「…落ち着いて私…とりあえずスキルの鍛錬しよう」

ネガティブになりかけた思考をやめる。

スキルの鍛錬、私の持つ外れスキル「発電」の鍛錬。

スキルを鍛え続ければいつか進化する可能性がある、ほんのわずかな確率だけど私にはもうこれにすがるしかない

「…発電」

そう呟くと。


―バチッ


おでこあたりに痺れを感じるとともにわずかに….本当にわずかに体が軽くなったような気がした。

そう、これが私のスキル「発電」、本当にわずかな…下級魔法の身体強化にすら劣るほど、わずかに身体能力を強化する。しかも効果時間はたったの数秒.

「…発電」

また発動、いつもこれを繰り返す、このスキルを発現してからずっと続けているルーティーン。

「…発で…はぁ」

なんか…馬鹿らしくなってきた、先ほどのハンナの言葉が想像以上に私の心に刺さったらしい。

うん、あと一回スキルを発動して…何も起きなかったら、もう何もかもを…諦めよう。

シャワーを浴びて、そのまま寝て、明日には…。

私はどうやらもう限界らしい、心身ともに…もう折れてしまった。

「…発電」

再び感じる痺れ…。

…何も、起きない。

「…まあ、世の中そんなに甘くないってわけね」

もう、吹っ切れた、もういいや。

「ごめんなさい、お父様、私…勇者にはなれなかった」

そう、呟いてすべてを諦めようとしたその時。

―それは起こった。

『スキルの熟練度が一定に達しました』

「…!?」

熟練度が、一定に?

『コモンスキル「発電」の進化を開始』

し、進化?

『進化成功…コモンスキル「発電」は―


ユニークスキル「原子力発電」に進化しました』


原子力…発電???


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