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第九章(6/11)

++


「どうするつもりだ?」


 ソルの言葉に彼は短く、何が、と言った。


「レイナのことに決まっている。助けるつもりはあるんだろう?」


 ソルがそう言うと、アレイスはやはりおもしろそうな顔をする。


 彼はどんな場合でも大抵、笑っている。一人でだまっている時などは不機嫌そうに見えることもあるのだが、誰かと話している時は相手の反応を面白そうに見ていることが多い。

 今回もそうした場合でもないと思うのだが、はたからみれば余裕そうな素ぶりを崩さない。レイナを心配しているのかいないのか、助けるつもりがあるのかないのか、全く分からないことに、ソルは苛立つ。


「簡単に言いやがる」


 それは否定できない、とソルは苦く思う。

 レイナを助ける、と口で言うのは容易いが、実際にどうすればそれが可能なのかソルには見当もつかなかった。



 ルドの組織は大きい。国を獲ろうと片足を王都にかけているくらいだから、当然だ。正面からぶつかっても勝てるはずはない。


 そしてルドがレイナを手に入れたのは、国王の暗殺が失敗した直後である。

 彼は入念に計画を立て、国王たちの動きや数を調べ上げ、魔術師たちの力を封じるような場をつくった。他勢で不意打ちをかけるということもあり、国王の首をとる事は、ほぼ確実視していたようなものだったのだ。ルドはそれを反逆の狼煙として、戦を始めるつもりだった。


 だが、実際は相手の魔術を封じることができず、敗走した。


 相手が太陽の涙を持っていたのだろう。自分たちの絶対的な力を信じているはずの貴族たちが、太陽の涙を携帯していたというのは、正直に言って予想外だった。貴族たちが戦場で太陽の涙を使ったなどという記録は一度もない。王の護衛をするほどの魔術師であれば、大抵の精霊は使役できるし、どこにいても魔術は使えるのだ。他でもないソルだって、自分の魔術が使えないなんて考えたことはないし、太陽の涙を持ち歩こうと思ったこともない。


 だが、そんな彼らでも万が一の状況を想定して、太陽の涙を持ち歩いていたのか——もしくは、こちらの作戦をあらかじめ予想できていた誰かがいたのか。


 加えて、王の連れていた最年少の供——国王の甥であり、有力なベラルト家の当主でもあるステフェンだけが魔術を連発していたという目撃情報もあった。しかも、中には精霊(シルヴェストル)の名を呼ばなかった、という信じがたい証言もある。


 ステフェンというのはまだ十七歳の少年であり、成人もしておらず、国から役割を与えられてもいない。にも関わらず、最近、急に注目されるようになった。陛下が頻繁にそばに置いているということもあり、次期の国王にと考えられているという噂もある。実際、王の子である王太子より遥かに優秀だという人間も多いのだ。


 もともと国王の亡き後、魔術の才が乏しい王太子と勝ち気で才のある王女の間で王位をめぐってのごたごたがあるだろう、と見られていた。それに乗じて一気に王都に攻勢をかける、というのが当初の計画であったのだ。だが、そこにステフェンが加わればどうなるか——さらに国が混乱するのか、彼を中心にまとまるのか、それは予測もつかない。


 加えて、なぜステフェンだけがあの場で精霊を使えたのか。なんにせよ、彼がルドたちにとって、一気に最重要な人間に上りつめた、というのは疑いようもない。


 もとより陛下に近しいステフェンと親交があったということで、レイナはルドたちから狙われる存在ではあった。それをこれまで強行な手段に出なかったというのは、アレイスがうまく立ち回っていたからに他ならない。


 だが、それを破ってレイナを力ずくで拐ったとなれば、それほどまでにレイナを手に入れたかったのか、それともアレイスとの関係に何か変化があったのか。どちらにせよ、レイナが貴重な人物である以上、レイナの生命が脅かされることはないだろう。だが、命があるということと、無事であるということは話が別だ。


「お前は?」


 思考を引き戻されるように声がして、ソルは顔を上げる。


「あ?」

「お前はレイナを助けるつもりはあるのか」


 彼の明るい紅茶(あかちゃ)色の瞳が、ソルを見る。母もソルも彼も、全員が違う瞳の色をしていた。青色とグレーという寒色であるソルたちに対し、彼の瞳の色は柔らかい。その色に、母もソルも随分と甘えてしまっていたのではないか、と思うことがある。


 何を考えているのか分からない彼の目に向けて、ソルは呟いた。


「……俺の力で助けられるなら、とっくに向かってる」


 長老から話を聞いた時、やつに命令されるまでもなくアレイスのところに駆けつけるつもりだった。彼がどうするつもりなのか、レイナを助けられるのか——と、詰め寄りたかったのだ。


 それにはやはり母の影響があるのか、それともレイナに会って話したことで彼女に好感や共感を持っているのかは、自分でもよく分からない。何にせよ彼女がもしも苦しんでいるかもしれないと考えると、いてもたってもいられない気持ちになる。もしもレイナがソルの手の届くところにいるのなら、本当にすぐにでも向かっただろう。だが、ルドが捕らえているのだとすれば、レイナがいる場所の探索も含めて、ソルには手も足も出ない。


 そんなソルを見て、何故かアレイスは席を立った。


「どうした」

「眠い」


 は、とまの抜けた声が出る。そんなソルを見下ろして、彼は笑った。


「少し寝る。——日が暮れる前に動くから、お前もついてこい」


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