第八章(9/10)
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「敵が魔術師を擁しているとすれば」
小さな部屋でテーブルを囲むのは、ステフェンを入れて全部で六名。壁側の中央にはもちろん国王陛下が座し、その両脇に最側近が二人、その向かいに側近と筆頭護衛が座る。何故か陛下の目の前に席を準備されたステフェンは、冒頭からずっと陛下の真っ直ぐな視線に晒されていた。
まるで自分に向けて話をしているようだ、と戸惑ったが、実際にステフェンだけに向けて話をしているのだ、と気づくまでに時間はかからなかった。驚くべき陛下の発言に愕然としているのはステフェンだけで、他の四名は苦い顔をして言葉を聞いているだけだ。すでに把握している内容なのだ、と思う。
「——相手はどうやって我々と戦うと思う、ステフェン」
急に名指しで問いかけられて、ステフェンはもともと伸ばしていた背筋をさらに伸ばした。
この国では魔術師であるということと、貴族であるということはイコールであるとされている。大多数はそれを信じているし、ステフェンも当然それを疑ってはいなかったのだが、おかしいと感じて始めてはいた。
ステフェンの管轄の貴族領で魔術の応酬が確認されていたこともあるし、王都の学校に外から編入してくる魔術師の数が明らかに減っていたというデータもある。敢えて王都に来ないという選択をしている魔術師がいるのではないか——それも王都と敵対した形で——というのは、ある意味、自然な発想ではあるだろう。
だが実際に、敵は魔術師を擁しているだろう、と陛下から言われると驚愕を感じざるを得なかった。
そもそも敵という言葉を使った陛下は、その首謀者もある程度は見込んでいるらしい。魔術師である貴族たちを倒し、この国を魔術を使えない人間が玉座に座る、という建国前の姿に戻そうと計画している組織がある、と言われ、さらに息を飲む。
もちろんステフェンも、国家に対して反乱を企てる組織が全くいないなどとは考えていない。十年前にも建国前のかつての王族の子孫を名乗る人間が反乱を起こしたと聞いているし、当然歴史的にもたびたびこうした機運は高まる。
答えを求める陛下の青い瞳と、ステフェンの答えを興味深そうに待つ周囲の視線に晒され、ステフェンはとにかく苦し紛れに口を開く。
「あいての魔術師の数は分かっているのですか?」
ステフェンの問いに、陛下はテーブルを軽く指で叩いた。その仕草にどういう意図があるかは分からないが、ひやりとさせられる。
「一人や二人ではないだろうな。十人や二十人はいてもおかしくないが、百人はいないだろう。それだけの数の魔術師が揃えられれば、とっくの昔に王都は攻め込まれている」
魔術師だけの数で言えば、百人いたとしてもこちらの総数は二千人以上。負けるはずはない——が、国民の総数は二百万を超える。そのうちの何パーセントが敵の手の内にあり、その内の何割かが武器を取るか次第で、多勢に無勢はこちらの方だとしてもおかしくはない。
「十名の魔術師、ですか」
仮に自分が魔術師を十名揃えたとする。
その中の全員が戦えるとは思えない。精霊を僅かに動かすことしか出来ない魔術師もいるだろう。反対に、十名もいれば我々と互角に戦えるだけの才を持った魔術師も一人はいるかもしれない。
「——私なら、口にするのも憚られますが、陛下の命を狙うかもしれません」
十名では、王都に真正面からはぶつかれない。だが、不意打ちで陛下の命を狙うことくらいはできる。国王陛下は頻繁に王都の外に姿を見せる。供も今回のように、せいぜい十数名からなるものだ。
陛下はおもしろそうに口元に笑みを浮かべた。
「ふうん? 成功すると思うのか」
「成功すれば儲けもの、くらいでしょうか。別に成功はしなくても良いのです。派手に魔術でやり合わせておいてから、反乱軍は開戦の狼煙をあげればいい。そうすれば貴族たち以外にも、力を持った魔術師がいるということを国内外に示せます」
圧倒的に数の足りない貴族たちが国民を押さえつけられているのは、魔術という人知を超えた力を有しているというところが大きい。反対にいえば、それが貴族たちだけの力でないと示されると危ういのだ。国内の抑えはもとより、国外に対する抑えもである。
「なるほど、そうすれば反乱軍の士気は上がるし、これを機に王権を打倒する反乱軍に加わりたいというものも出てくるかもしれん」
陛下はそう言って軽く頷いたが、視線はステフェンに向けられたままだった。
「——ならば、先の襲撃では相手は魔術を使うことが最重要だったはずだがな」
「そうでしょうね」
陛下の言葉に、ステフェンは困ったように頷いた。
先程の襲撃の考慮すれば、また全然回答はことなる、とも考えてはいた。ステフェンの考えからすると、もう少し人目のあるところで襲う必要があったのだ。
人目につかない場所で暗殺しても、魔術師の存在をアピールできない。陛下が街に立ち寄った際など、街中に隠れて襲う方が、魔術を見せびらかすという意味においてはるかには良いはずだ。
だが実際には、相手は魔術を使っていない。
——というよりも相手も魔術を使えない状況にあったはずなのだ。




