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第八章(6/10)


 レイナは食堂の椅子に座り、ぼうっと外を眺めていた。

 昨夜から、なんとなく体が重い。熱っぽさも感じるので、風邪でもひいたのだろうか、と思っていた。とはいえ、横になって休もうと思うほど辛いわけではない。軽く食堂の掃除をしてから、ラウが淹れてくれた紅茶を手に、少しだけ休憩をする。


 プレゼントは何にしようか。


 クルーとリュカと出会った記念日に、何か準備をしたいと思っていた。できれば、あまりお金のかからないプレゼントがいい。レイナは王都から持ち出した宝石やお金など多少の持ち合わせはあるが、きっと高価なプレゼントを贈っても彼らを困らせるだけだろう。

 レイナが一つに結った髪には、クルーたちからもらった髪紐をリボンにして結んでいる。花は少ししおれてしまったから、本に挟んで押し花にした。何かこれに見合うだけのお礼が出来るといいのだが。


 窓の外にクルーの姿が見えて、レイナは首を傾げた。いつもなら彼らは夕方まで宿舎に帰ってこないし、いつもそばにいるリュカの姿も見えない。レイナは出入り口へと向かい、通りにいたクルーに声をかける。


「どうしたの?」

「リュカ、帰ってないよね?」


 レイナは頷いてから、少し眉を寄せる。


「リュカがいないの? 大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。ちょっと行き違いになっちゃっただけだから」


 慌てて手を振った彼の顔には、確かに焦りのようなものはない。まだ日は高いし、彼らは街の隅々まで知り尽くしている。危険な場所なども当然わかっているようだし、心配はないのだろう、とは思うのだが。


「私も探すわ」


 レイナが外に出ようとすると、クルーは首を横に振った。


「いいの、レイナは中にいて。もしリュカが戻ってきたら、ここから動かないように言ってくれない? 僕もしばらくしたら戻ってくるから」


 そう言われて、レイナは足を止められた。にっこり笑って走っていくクルーを見送り、どうしようかと悩む。すると、後ろから声をかけられた。


「リュカがいないのか?」


 振り返ると、昨日からここに泊まっている男性が立っていた。サムと名乗った彼は、レイナはここで初めて見る男性であったが、クルーやリュカとは昔からの顔見知りらしい。朝から親しげに話をしているのが見えた。


「そうみたい。大丈夫かしら」


 レイナがいうと、彼は「俺らも探しに出ようか」という。心配そうな表情を見せる男の顔を見上げて、レイナは少しだけ迷う。


「でも、リュカが帰ってきてらここに残るように伝えなきゃ。クルーとまた入れ違いになっちゃう」

「それを伝えるだけなら、ラウに頼もうか?」


 男はそう言って、奥へと消えた。なるほど、確かにラウならばずっとここにいるだろうし、頼めばちゃんと見ていてくれるだろう。男性がラウの方に向かっているのを見ながら、レイナは裏口に置いていた練習用の剣を取りに行く。剣なんか持って外をうろつくから余計な連中にからまれるんだ、と、アレイスなどは言うが、それでも外を武器も無しに歩くのはやはり不安だ。今回は女性の一人歩きというわけではないし、人通りも多い時間帯であるから気をつける必要はないだろうが。

 

 レイナが玄関に戻るのと、男が戻るのはほとんど同時だった。行こう、と言った彼について、レイナも外に出る。いつも裏庭に出て日光を浴びてはいるのが、通りに出るのはやはり気分が違う。久しぶりだという気がした。


「どこを探せばいいかしら。何か心当たりはある?」


 なんとなくクルーの走って行った方向と違う道を歩きながら、傍を歩く男性を見る。彼も困ったように首を傾げた。


「どうかな、彼らはあちこち動いてるから」


 そう言って、彼は角を曲がる。どこか行く宛でもあるのか、それとも当てずっぽうなのか。なんにせよレイナよりはこの街に詳しいのだろうと、後を追う。


「クルー達と親しいの?」

「どうかな。最初に会ったのは一年くらい前だ。長いといえば長いし、短いといえば短い」

「わたしも彼らと会ってちょうど一年くらいね」


 たしかに長いといえば長いし、短いといえば短い。たまに顔を合わせるくらいであれば、彼らと親しいのか、なんて人に聞かれても困るのかもしれない。


 そんなことを考えていると、背後に気配がしてレイナは立ち止まる。


「どうした?」


 言った男をレイナは見上げる。背後の足音も止まった。レイナは周りを見回してから、人の姿が見えないことに眉根を寄せた。大通りからは一本外れているが、さほど奥まった場所というわけでもない。周囲に建物もある。が、人が消えてしまったかのように気配がない。

 レイナの(かたわら)の男と、立ち止まった背後の人たちの他には。


「リュカの居場所、本当に知らないのよね?」


 レイナの言葉に、男は首を傾げた。表情は分からない。何を言っているのだろうと本気で疑問に思っている顔なのか、それとも何かを企んでいる顔なのか。


 男が動く気配はない。背後の人間は知らないが、レイナと一緒に歩いている彼は少なくとも外から分かる武器は持っていない。だが、念のためレイナは足を早めて男から一気に距離をとり、振り返った。


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