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第八章(2/10)

**


 最初の矢で負傷したという護衛や、騒ぎで馬を失った側近については、別の馬に相乗りさせてなんとかアルベル領主の屋敷に着いた。陛下の急な訪問に目を丸くしていたアルベル家の当主だったが、襲撃の話を聞いてさらに目を見開いた。


「陛下がご無事なのは何よりでしたが……まさかここでそんなことが……」

「私は問題ないが、代わりにシーウェルトが怪我をした。毒矢かもしれない。早急に医師を呼んでもらいたい」


 陛下の近くにいた護衛(シーウェルト)が、陛下を狙った矢を咄嗟に自身の体で受けたらしい。彼は最初、腕に刺さったそれを自身で引き抜いたほどに元気だったが、道中で徐々に力を無くしていき、ここにつく頃にはかろうじて意識はあるもののぐったりと体を横たえてしまっていた。もちろん最初から毒が塗られているかもしれないという前提で応急処置はしているのだが、なんの毒かも分からない状況では、とにかく医師を呼ばないことにはどうしようもない。


 配下に頼んで医師を向かわせたアルベル家の当主に、陛下の側近はその他の細々としたものの手配も頼む。そして、陛下に向き直った。


「王都に伝令を飛ばして、すぐに調査させましょう。敵の正体や狙いを突き止めねば」

「狙いは、私の命に間違いないだろうがな」


 陛下はそう言うと、土埃にまみれた外套を脱ぎ捨てた。先程までは泰然とした様子だったのだが、今はわずかに苛立ちが見える。もしかしたら、護衛の負傷の程度が思いがけず重かったことが影響しているのかもしれない。


 王家の装飾の施された外套を脱いだ陛下は、一見すると軍人や護衛のようにすら見えた。知らない人間が入ってきたら、この部屋に国王がいることに気が付かないだろう。短めに揃えられた金髪と、軍服のような身軽な衣服で包んだ筋肉質な身体。他国の国王は豪華絢爛な衣装を身にまとうことが多いようだが、ここでは国王自ら一人の戦士として力を示すこともある。煌びやかな服装よりも、動きやすさや機能性を重視しているのだろう。


 足元に落とされた外套をステフェンが何気なく拾うと、陛下の側近が慌てた様子で手を差し出してきた。申し訳ありません、とだいぶ年長の側近に頭を下げられたことに釈然としないものを感じながらも、黙って外套を手渡す。


「調査はさせろ。敵も慌てて散ったようだから、何らか痕跡は残しているかもしれん。国王の暗殺未遂だ。何かしらの証拠が掴めれば、相手を弾圧する口実にもなるだろう」

 

 よどみのない陛下の言葉。だが、またしても引っかかるものを感じて、ステフェンは密かに眉を寄せる。


 今度はすぐに、その答えが見つかった。


 陛下は敵の正体を知っている、もしくは少なくともなんらかの心当たりがあるのだ。陛下にとっては、自分の命がその何者かによって狙われることは想定の範囲内であった——。


 何がと言うわけではないが、陛下の口ぶりや、襲撃された直後の落ち着きようからしても、ふいに浮かんだその考えが正しいような気がした。


 そう考えると、そもそも全く魔術の使えないという異常な状況に対して冷静であったところも、そこにたまたま魔術を使えるステフェンを帯同していたところにも、なんらかの意味があるように思える。


 最近では、陛下が王都を出る時には必ずと言っていいほどに一緒に来るようにと言われていた。陛下の遠征には、陛下の最側近や精鋭ぞろいの護衛だけが帯同する。まだ成人すらしていないステフェンの姿は、その中では明らかに浮いた存在なのだ。周りはそれを見て、陛下が後継にステフェンを置こうとしているのではないかと噂をした。が、陛下はそれを否定しているし、ステフェン自身もそんなことを考えたこともなかった。


 もしかしたら。

 

 王都の外で陛下がステフェンをそばに置いていたのは、今回のような状況を予め想定できていたからではないだろうか。


 襲撃されたあの場所のように、精霊の気がない土地では、魔術師は魔術を使うことはできない。あの時はステフェン以外にも土の民(グノーム)を使った者がいたが、あれは太陽の涙に閉じ込めていた精霊を放出しただけだと陛下は語っていた。


 太陽の涙でも使わなければ、精霊を自由に持ち運ぶことなど普通はできないのだ。魔術を使いたい時には、その地にいる精霊に力を借りるしかない。——なぜか昔から精霊たちが寄ってくる自分(ステフェン)を除いては。


「奥の部屋を借りる。周囲からは人を払え」


 陛下がアルベル家の当主に声をかける。内密な話がしたいのだろう。それから、周りにいる人々を見回した。


「テオ、クンラート、コウス、それからローデヴェイクはここに残れ。他はこの部屋を出て入り口で護衛でもするか、シーウェルトのそばにでもついていろ」


 陛下の側近である三人の名と、それから陛下の専属護衛の筆頭である一名の名が呼ばれる。部屋を移動しようとする人々とともに部屋を出ようとしたステフェンだったが、名前を呼ばれて足を止めた。


「それから、ステフェン。お前も残れ。ついてこい」


 奥の部屋にはいろうとする陛下に呼ばれ、その場にいる全員の視線がステフェンに刺さった。


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