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第七章(10/11)

**


「最近忙しそうだな。大丈夫か?」


 自分よりもよほど部屋の主に見える友人に声をかけられ、ステフェンは思わず苦笑した。


 いつも勝手に執務室に上がり込んでお茶を飲んでいる友人(リュート)だが、今日はステフェンの部屋でソファに横になってくつろいでいた。サイドテーブルには飲み物や皿が置かれているようだから、誰かに頼んだのだろう。隣が寝室になっているこの部屋は、ほとんど他人を入れることもない完全な私室なのだが、彼は幼い頃に何度か泊まったことがある。客間はいくらでもあるから一緒のベッドに寝る理由などないのだが、子供の頃は友人と枕を並べるだけで楽しいものだ。


「忙しいってほどではないけどね。でもリュートに会うのは久しぶりだな」


 上着をそばの椅子の背にかけてから、自分も腰をかける。

 学校に通っていれば毎日のように顔を合わせるのだが、最近は陛下に付き合って遠出をしたり、家の雑用をこなしたりとほとんど学舎に顔を出していなかった。彼はそれを心配して会いに来たのだろうか。


「相変わらずうちの使用人と仲が良いみたいだな」

「この部屋に勝手に入ってることを言ってるのなら、通してくれたのはフェリクスさんだよ。帰宅が遅くなるから、今日は執務室でなく直接部屋に戻るだろうって」

「ふうん?」


 なんとなく意外な気がして首をかしげる。


 フェリクスがいたのなら、帰りが遅くなるので出直すようにと言いそうな気もするが、リュートの方が何か急用だったのだろうか。だがそうだとしたら、帰宅時に誰もステフェンに来客の存在を告げなかったのがおかしいし、そうでなければリュートの方が遠慮して出直すと言いそうな気がする。


「何か用があったのか?」

「いいや、別に。たまにはステフェン様の顔でも拝んでおこうと思って来ただけだよ。それなら夕食でも一緒に食べていけば良いと言われたから、図々しく居座ってる」


 ソファから起き上がって言った彼に、ステフェンは眉を下げる。夕方から始まった会議に参加して帰宅したから、もうすっかり日が暮れてしまっていた。夕飯というには少し遅い時間だろう。


「それは待たせてしまってすまなかったな」

「お気遣いなく。お腹が空いたって呟いたら、豪華な前菜と食前酒が出て来たからな。ご馳走様です」


 両手を合わせて軽く笑ったリュートに、ステフェンも笑う。


 ステフェンであれば『お気になさらず』と言って遠慮してしまうところを、彼の場合は全く遠慮を見せずに『何か食べ物をいただけますか』とにっこり笑って頼む。逆に相手に気を使わせないためであるのと、相手に感謝を伝えて懐に飛びこむためにやっているようだが、それを半分は計算で、もう半分は素でやっているところが彼の尊敬すべきところだ。だからこそ彼は皆に愛されている。


 タイミングよくドアを叩く音がして、食事が運ばれて来た。四人がかりで手際よく食事の準備が整えられるのを見ながら、ステフェンはリュートに問いかける。


「食事はここで?」

「いつもここでステフェンが食べてるなら、ここでいいですよって言ったぜ」

「なら好意に甘えよう。食堂を使うのは面倒だ」


 一人で食事を取るときにはこの部屋に食事を運んでもらうし、来客があるときは広い食堂を使うのだが、如何せん広い立派なテーブルは会話をするにも距離が遠すぎる。それに食堂であれば隣接する厨房から前菜からデザートまで一品ずつ運ばれてくるのだが、部屋で食べる時には面倒なので全て一緒に並べてもらうようにしている。


 シェフが料理の説明をするのを真剣な顔で聞いたリュートが、前菜がとても美味しかったという賛辞や、急な来客で仕事を増やしてすみませんという謝辞を丁寧に述べると、シェフや料理の配膳をしていた使用人達は満面の笑みで部屋を後にしていった。ステフェンがそれを眺めていると、リュートは用意された席に座る。


「ステフェンも悪かったな。約束もなく勝手に押しかけて、勝手に夕飯まで一緒になってる」


 彼はそう言ったが、表情に悪びれた様子はなかったし、すでにグラスを掲げている。ステフェンも笑ってグラスを掲げ、乾杯に応じた。


「どうせ一人で寂しく食べる予定だったんだ。いつでも歓迎だよ」

「一人が寂しいなら結婚相手でも探したらどうだ?」

「まだ早いだろう」

「そうか? あと一年もすれば縁談が山のように降ってくる。——と言っても、選び放題ってわけにはいかないけどな」


 軽く言われ、ステフェンは苦笑する。


 成人を待たずとも水面下で色々な縁談めいた話はあったりするのだが、それはリュートも同じことだろう。他国では、他国の姫や要人の息女をもらうということもあるようだが、この国ではそうはいかない。相手は魔術師であることが大前提であるし、強い魔術師を産むためにも強い魔術師である女性が望ましい。それでいて、それなりに身分や家柄が釣り合う相手——となると、婚姻関係を結ぶ相手は自ずと限られる。

 

 もしも、とステフェンは考える。

 魔術を使えないレイナが王都にとどまることを許されたとしても、そういう意味でも一緒になることは不可能な相手だったのだ。ベラルト家を正しく存続させるためには、ステフェンは誰か強い魔術師を選ぶしかない。


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