第七章(5/11)
貴族たちの数に対して、国は広く国民は多い。刑罰にせよ支援にせよ支配にせよ、本来あるべき行政の介入を隅々まで届かせるのは難しいだろう、とは思う。だがそれにしても、王都を出て以来、レイナが王都や領地にいるはずの貴族たちの存在を感じたことはないのだ。代わりに出会ったのは、街で魔術を使った跳ねっ返りの貴族であり、あんなのが野放しにされているということ自体、自分たちの身内すら制御できていないことの表れと言えなくもない。
「それは本当にソルの考えなの? それとも、知らないのは私だけ?」
呆然としているレイナを見て、彼は少し眉根を寄せた。レイナの言葉を不機嫌に感じたのかと思い、不安になったが、それはすぐにレイナを気遣うような表情に変わる。ソルは少し考えるようにしながら、ゆっくりと言った。
「俺は魔術師だからな。仮に魔術師たちが国での居場所を無くせば、俺たちも他人事ではない、と思っている。何かを間違えば、貴族たちと一緒くたに処刑されてもおかしくはないだろうからな。だから、今のうちからそれを考えている。——悪いな。俺は他の人間と立ち位置が違いすぎるから、あまり参考にはならないと思う」
それは、王都に大切な人がいる、と言ったレイナに配慮をした言葉だろうか。先ほどより彼が口調を柔らかくしたことには気づいていたが、それよりもレイナは、ソルが貴族と一緒に処刑されてもおかしくないと言ったところに驚いていた。
「あなたたちは、貴族と戦うためにここに集められているのではないの?」
「そうなんだろうな」
「それなのに、彼らを倒した後に貴族たちと一緒に処刑されてしまうと思ってる?」
レイナの言葉に、彼は困ったような顔をした。
王都の外で生まれた魔術師は王都に行くことを許されず、貴族たちに対抗するための魔術師として強制的に手元で育てられる。アレイスはそう言っていたし、ソルもそれを否定はしていない。それなのに、同じ魔術師だからという理由で、貴族たちを倒した後に一緒に処刑されるのであれば、こんな馬鹿げた話はない。
「そんなことはないだろう、と言いたいところだが。そもそも魔術師自体が力を持っていることを考えると、存在自体が脅威であり続ける。可能性としては排除できないだろうな」
彼はそう言うと、言葉を返そうとしたレイナを制するように首を振った。
「そうなってもおかしくはない、というだけだ。そんなことにはならないかもしれないし、そうなった場合に逃げきるつもりもある。そもそも貴族たちを倒す前に自分たちがやられるかもしれない——我ながら、詮ないことばかり言ってるな」
ソルはそう言って、悪いな、と謝った。
「何を謝るの?」
「どう考えても、ほとんど初対面の——しかも王都からきたレイナと話すような内容じゃなかったな」
彼の言葉に、レイナは慌てて首を横に振った。
「聞いたのは私の方だもの。私は知らないことが多いし、ソルの話にも驚いたけど、いろいろと考えを話してもらえるのは嬉しいわ」
そう言って笑顔を向けると、彼はやはり困った顔をする。
ようやく分かってきたのだが、ソルはレイナが笑顔を向けたり褒めたりお礼を言ったりすると、どんな反応をすれば良いのかわからなくなるらしい。饒舌に語っていた時とはまるで別人のような表情をレイナが眺めていると、彼はますます困った顔をした。
レイナはいたずらっぽく言葉をかける。
「アレイスは『秘密』ばかりで何も教えてくれないものね?」
彼は短く笑った。
「仮に何かを言ったところで、それが本音かどうか怪しいもんな」
「え、ソルでもそう思うの?」
「アレイスを知ってるやつなら、誰でもそう思ってるだろうよ」
彼の秘密主義は、別にレイナに対してだけではなかったらしい。それが知れただけでも、収穫ではある。
「ちなみにアレイスって何歳なの?」
「俺の六つ上だったかな。二十二とか三とかその辺だろ」
拍子抜けするほどにあっさりと年齢が聞けた。想像から大きく外れてはいないが、それならそれでどうして年齢などをわざわざ隠したがるのかわからない。首をひねるレイナに、ソルは肩をすくめた。
「年齢くらいはわかるが、他は俺も知らないことばっかだよ」
「弟なのに?」
「弟なのにな。あいつが何を考えてるのかなんて、俺には全くわかんねえよ」
彼はそういうと、楽しげなのかも寂しげなのかもわからない、複雑な顔で笑った。




