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第六章(11/11)


「ソル。レイナに何か精霊はついてるか?」


 アレイスの言葉に、レイナは視線を上げる。聞いたのはソルだった。


「何かって?」

「ラウと一緒にいるときにお前が言っていただろう。やつに妙な水の民(ウンディーネ)が付き纏ってるって」


 アレイスの言葉に、ソルは眉根を寄せた。

 彼はレイナの姿を視界に入れたが、レイナを見ているようには見えなかった。彼はレイナではなく、彼にしか見えない世界を見ている。


水の民(ウンディーネ)ならすぐ近くにいるぞ。たしかにラウのときにもいたな、同じようなやつが」

水の民(ウンディーネ)?」


 レイナの言葉に答えたのは、アレイスだった。


「あんたのそばに精霊がついてる。心当たりはあるか?」

「どういうこと?」

「誰かにそんなものをつけられた記憶はあるかってことだ」


 彼の言葉に、レイナは目を瞬かせる。少しだけ考えを巡らせてから、首をかしげる。


「……そもそも、精霊を人につけるなんてことができるの?」

「そんなの俺がレイナに聞きたいくらいだが」


 アレイスはそう言ってから、彼もレイナと同じように首をかしげた。


「レイナも知らないくらいなら、普通はできないんだろうな。ラウも知らないと言っていたし、俺もそんな話は聞いたこともない。ソルもできないだろう。が、あんたやラウの近くに常に水の民(ウンディーネ)がいることは確からしい」


 彼の言葉を聞きながら、レイナにはステフェンの顔が浮かんでいた。


 もしもそれが水の民(ウンディーネ)ではなく、風の民(シルヴェストル)であったのなら、心当たりはあった、かもしれない。


 ステフェンはレイナやソルと同じでまだ十六歳。だが、国でも有数の魔術師だった。魔術師としての力は友人であるリュートの方が随分と上だとステフェンは言ったが、リュートの方は実際に戦えばステフェンが勝つだろう、と言った。ステフェンは風の民(シルヴェストル)に愛されているから——らしい。


 普通の魔術師でも、相性の良い精霊と悪い精霊があるようで、力の弱い魔術師などでは特定の精霊——例えば土の民(グノーム)——だけしか使役できない、といった者もいるらしいが、ステフェンはそうした次元ではない。彼はどの種の精霊でも支配下に置けるが、風の民(シルヴェストル)に関しては、自然と彼の元に精霊たちの方から集まってくるのだ、とリュートは語った。


 さらにステフェンの周りには名前までつけた風の民(シルヴェストル)が何体もいる。使役したら勝手についてくるようになった、とステフェンは事もなげに語っていたが、偉大な魔術師であるリュートにとっても、常識から外れたありえないことらしい。


 だからこそ、ステフェンは国でも指折りの魔術師であるのだ。魔術を使おうと思った場合、周りに使役できる精霊がいるかどうか、というのが一番の問題になる。だが、ステフェンは常に力のある精霊が近くにいて使役できる状況にある。それがすごいアドバンテージである、というのは魔術を使えないレイナにだってわかることだ。だが公には彼の力は隠されており、レイナ達のような古くからの友人と、彼の魔術を指導する教員たち、国王陛下や国の中枢にいる貴族達しか知らないことらしい。


 だからもしも、レイナに風の民(シルヴェストル)が付いていると言われたのなら、もしかしたらステフェンが何かをしたのかもしれないと思っただろう。が、そうでなければ全く心当たりなどない。


 考え込んでしまったレイナの耳に、ソルやアレイスたちの声が届く。


「どうする。ラウの時と同じように散らすか?」

「散らしてもいいが……ラウだけでなくレイナにもいるとなると、いよいよ何のために付けられてるのか気になるな。王都から出した貴族の居所を誰かに伝えるようなやつならまずいかもしれない」

「そんな高度な精霊(やつ)には見えないけどな。小さくて弱くて、せいぜい彼女について回るくらいが関の山だろう」

「その水の民(ウンディーネ)が他の立派な水の民(ウンディーネ)に情報を渡すなんてことは?」

「さあな。だがその情報を最終的に誰かが受け取ったところで、精霊の言葉なんて分かるはずがないだろう」


 ソルの言葉に、アレイスは肩をすくめた。


「そりゃそうだが、そもそも自分の元を離れた精霊を使役し続けることが出来るということ自体があり得ないんだ。が、現にレイナのそばには水の民(ウンディーネ)が付いてきてるからな。可能性は考えておいた方がいいかもしれない」


 それはそうだ、とレイナも思う。

 精霊の方から魔術師に寄ってくるなんてことはあり得ないことだし、特定の個体が魔術師について来るなんてこともあり得ないこととされている。が、実際には、それが出来ているステフェンという存在を知っている。


 それならば、水の民(ウンディーネ)を他人に付けることが出来る誰かがいてもおかしくはない。そもそも水の民(ウンディーネ)は怪我の治癒を促したりも出来るほど、人との親和性が高いのだ。もしかしたら人を監視させるようなことが出来るのかもしれない。


 だが、アレイスの言葉にソルは疑わしげに首を捻った。


「ラウの時もそうだったが、本当に雑魚みたいな精霊なんだ。対象が死ねば帰って来るようにして生存確認をしてるとか、一目で元貴族だということを確認するためのマーキングにしてるとか、せいぜいそんなところだと思うけどな」

「まあ、お前がそういうならそうなんだろうな。俺には全く見えないから、そんなことを言われてもピンともこないが」

「気になるならしばらく見張ってもいい。他の水の民(ウンディーネ)が近づいてこないか、その水の民(ウンディーネ)がレイナの元を離れていかないかをな」

「四六時中監視するのは難しいだろうが、まあ、お前が見てる間は頼む」


 アレイスの言葉に、ソルはやはりレイナを見ないまま頷いた。


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