表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/356

第六章(8/11)

 

 アレイスに人を紹介すると言われて階段を降りてみると、思ったよりも随分と若い男の人がいた。


 若い、といってもレイナとさほど変わらないだろう。だが、何となくアレイスがわざわざ紹介する、と言うくらいなので勝手に彼と同じくらいか、はたまたずっと年上の人物か、を想像していた。

 

 彼はレイナを見て、なぜだか驚いたような顔をした。少し青みがかかったグレーの瞳が、レイナを捉えて離さない。


「ちなみにこいつが魔術師だ。たぶん、こっち側では一番のな」


 魔術師、と言う単語に率直に驚く。

 アレイスから事前に話は聞いていたとはいえ、王都にいる以外で魔術師がいる、というのは未だに信じられない部分もある。が、彼が見た目通りの年ならば、貴族ではないことは確定的だ。貴族の子息たちは必ず、王都にある学校に通う。十八になるまで、基本的に王都を出ることはないのだ。


 二人の会話を聞いていると、彼は随分とアレイスと親しそうに見えた。アレイスはそもそも誰とでも気軽に打ち解けているような話し方をするが、相手がそれに気兼ねをしていないように見えるのは珍しい。


 だが、俺の弟、と言われてレイナは目を丸くした。


 思わずアレイスとソルと呼ばれた男性を比べて見る。

 言われてみれば、似ているところもある、と思う。髪の色はアレイスの方が明るいが、どちらも茶色をしているし、少しきつめの目元も、すっと通った鼻筋のラインも似ている。アレイスは長身で、ソルは小柄にも見えるが、もしかしたらソルの方はまだ身長が伸びきっていないのかもしれない。口調も似ていたし、何より声がそっくりだ。


 目はアレイスが明るい茶色の瞳、ソルは青みがかかったグレーだから、もしかしたらどちらか父親に似ているのだろうか。


「アレイスの弟……が魔術師なの?」

「なんだその質問。そりゃ、俺は魔術は使えねえよ?」

 

 なんだその質問——と言われても困るが、確かに自分でも何を意図して聞いた質問なのかわからなかった。魔術が使えるかどうかは確かに遺伝によるものが大きいが、レイナのように両親が魔術を使えても魔術を使えない人間もいる。別に弟が魔術を使えるからといって、アレイスも魔術を使えるわけでないことはわかっている。


「だから魔術師や元貴族たちをたくさん知ってるの?」


 弟が魔術を使えるということで、何かしらの繋がりがあるのだろうか。レイナの問いに、アレイスは少しだけ考えるような顔をした。彼はこちらを見て、それからソルの方を見て、そして軽く肩を竦める。


「ソルはまあ関係ないだろうな。俺らは初めからルドのところとも、魔術師たちのところとも関係がある。俺らの母親がどっちにも近かったからな」

「お母様が?」

「まあな。彼女もレイナと一緒で貴重な人間だったからな」


 貴重、とは最近よく聞いた言葉だ。

 王都に貴族として生まれて魔術を使えないレイナは稀少な存在であり、王都以外で貴族として生まれていないのに魔術を使えるソルも稀少な存在である。だが、稀少ではなく貴重、となると何かしら役に立つ、という意味も含まれているのだろう。


 レイナは少しだけ考えてから、首をかしげた。


「……どう言う意味で?」

「あんたと全く同じ意味でだよ。しかもレイナと違って貴族に対して復讐心しかないような女だったから、さぞかし役に立っただろうよ」


 レイナと同じ意味で貴重——と言われると、思い当たるところは一つしかない。アレイスの母親はレイナと同じで王都を追放された貴族だったのだ。それを理解して、レイナは言葉を失う。


 アレイスは王都を追われた貴族について、レイナやラウ以外にも知っている、といっていた。そのうちの一人が、彼の母親だったのだろうか。アレイスはこれまで家族のことなど聞いても何も話さなかったし、そもそも彼に家族がいるという想像すらできなかったのだが、少なくとも彼には弟がいる。そしてその弟は魔術が使えるらしい。——母親は魔術を使えなくとも、王都にいるはずの祖父母は必ず使えたはずだ。その魔術師としての血筋を、アレイスの弟は継いだのだ。


「……今、お母様はどうしているの?」

「とっくに墓の中だよ」 


 深刻な話にするつもりはないのか、彼はいつも通りの軽い口調で言った。アレイスはこちらの顔を見てから、レイナが何も言葉を返せないのを見て、なぜか軽く手を振った。


「俺があんたらを憐れんでる、ってのは正直にいうと彼女の存在がある。誰かを憎まないと生きられないような、そんな可哀想な人だったからな。——まあ、可哀想だからってとりあえず二人とも拾ってみたが、どっちも全く可愛くなかったな」


 二人、と言うのはラウとレイナのことを言っているのだろうか。レイナは驚いて目を瞬かせる。


「だから私を助けてくれたの?」


 レイナの言葉に、彼は肩をすくめた。


「助けたって言われても困る。拾っただけだ。手に負えなくなったら捨てようと思ってるからな」


 わざわざそんなことを言わなければ良いと思うのだが、言わなければ気が済まない性質なのか、本気でそう思っているから釘を刺しているつもりなのか。ただ、可哀想だと思って助けた、というのはまぎれもない彼の本心だったのかもしれない。彼の母親がどのような人かはわからないし、彼が母親のことをどう思っているかは知らないが、何にせよ彼は母親と同じ境遇だったレイナを助けようと思ってくれたのだ。


 レイナは言葉を見つけられず、ただアレイスの顔を見つめた。


 これまで何を聞いても秘密と言って名前しか教えてくれなかったアレイスが、急に踏み込んだ話をしてくれる気になったのは何故だろう。ヘイスベルト達に会って、レイナにある程度は彼の立ち位置が見えてきたからなのか、それとも弟であるソルに会わせる必要があったのか。なんにせよ彼の身内を目の前にして、そして母親のことを教えてくれたことで、急にアレイスが同じ人間に見えてきた——それまでは家族も過去も背景も何も想像すらできなかったのだ。


 これだけ一緒にいてもどこか得体の知れなさが拭えなかったし、レイナに利用価値があるのだと分かると、なおさら彼がレイナを何かに利用しようと考えているのだとしか思えなかったのだが、もしかしたら本当にただ助けてくれたのかもしれない。そう思うと、少しだけ、後悔もした。


 しばらく黙ってから、やがて口を開いた。


「ありがとう」

「あ?」

「助けてくれてありがとう、って言ってなかったと思って」


 彼には何度も助けられているにも関わらず、一度もお礼を言っていなかったのだ。何を企んでいるのか、と彼の考えや思惑を探ってばかりだったような気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ