第六章(6/11)
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目の前に現れた女性を見て、ソルの思考は一瞬、固まった。
この辺りではまずお目にかからないような、ピカピカの金貨のような色をした眩い髪に、透けるような白い肌。長いまつ毛に縁取られた眼には宝石のような碧がはまっている。どれもこれもが記憶の中の彼女に似ていて、ソルはただ息を飲む。
いや、よく見ると全然似てなどいないのだ。
まず幼い。可愛らしいというよりは綺麗というような大人びた顔をしているものの、大人の女性というにはまだ歳が足りない。彼女はいつも髪を短くしていたが、こちらは長いし金髪の色も濃い。顔だって特別に似ている部分などない。
が、それでも何故か似ていると思ってしまうのは、彼女たちの持つ独特の雰囲気によるものか、それとも単にこちらの先入観によるものか。
急に連れてこられたのか、初めてみるソルを前にして少し戸惑っているようだったが、アレイスに促されるとにっこりと花が咲くような笑みを見せた。
「はじめまして」
ぐらりと地面が揺らぐ気がする。これは彼女とはぜんぜん別物だ。だが、彼女が決して見せなかったしなやかな笑顔に、息が苦しくなる。
言葉を返さなかったソルに、少しだけ彼女は首を傾げ、そしてアレイスはそんな彼女に「変わったやつだから気にするな」と言った。初対面の人間にそんなことを言われると黙っていられない。口を開こうと思ったが、アレイスの言葉の方が早かった。
「ちなみにこいつが魔術師だ。たぶん、こっち側では一番のな」
アレイスの言葉に彼女はかすかに目を見張った。
が、そこに怯えなどが見えないところはさすがというところか。こちらでは、ソルのことを魔術師だと分かっている大抵の人間はどこか気味の悪いものを見るような目でこちらをみるか、恐怖を隠しきれないような顔をする。
だが彼女は、そもそも全員が魔術師であるような環境にいたのだ。恐怖など感じなくても当然なのだろうが、ソルにとってはそれを新鮮に感じた。
「まだ若いのね?」
「若いって言ってもレイナと同じ歳だぜ。魔術師に歳は関係ないだろ」
「精度とか練度とかは少しは変わると思うけど、才能という意味ではたしかにそうかもね」
彼女はそう言ってから、改めてソルを見た。真正面から見つめられて、どうしたら良いのか分からなくなる。そもそも、村には女性自体が少ないのだ。どんな反応をとれば良いのかも分からない。
「おい、いつまで黙って見惚れてる。レイナはお前の手に負えるような女じゃねえよ」
アレイスに笑うようにして言われ、ソルは顔を顰める。
「うるさい。あんたは随分と守備範囲が広いんだな。この間まで連れてたのとぜんぜんタイプが違うじゃねえか」
「心当たりがありすぎて、誰と比較されてるのかも分かんねえよ」
そんな台詞を女の前で堂々と言い放った男に、ソルは内心で苦笑する。アレイスの隣にいるレイナは、そんな会話を気にした様子もなかった。前の女のことなど気にならないのか、そもそもアレイスとそうした関係でもないのか。
「随分と仲が良さそうね?」
レイナの言葉にソルは顔を顰めて、アレイスは軽く笑った。
「そうだな。ひとつだけ手の内を明かしておこうか」
「アレイスにしては珍しいわね。何を教えてくれるの?」
「こいつは俺の弟だ」
あっさりとそれを言われたレイナは、明らかに驚いた顔をした。たまに事情を知っている人間などからは似ている兄弟だと言われることもあるのだが、一見してそうと気づかれることは少ない。
「……失礼だけど、血の繋がった?」
「半分な。父親は別だ」
レイナは目を瞬かせた。
そんな可愛らしい仕草も、彼女とは全く似てなどいない。ソルの覚えている彼女は、いつも辛そうな顔をしていた。記憶の中を探せば怒った顔や悲しい顔はいくらでも見つけられるが、笑った顔など全く思い出せないのだ。
だが、それでも初めて会ったレイナに彼女の面影を重ねてしまうのは、どういうわけだろう。単に目の色や髪の色が似ているから、と言うわけではないはずだ。やはり同じように王都で育ってきた、というところが他の人たちと違うのだろうか。それとも貴族として育てられてきたにもかかわらず、同じように用無しとされてゴミ屑のように捨てられた、というところが彼女と似た雰囲気を感じさせるのか。
彼女——ソル達の母親に。




