第五章(11/11)
可哀想だから助けたなんて、そんなことがあるのだろうか。
目の前で倒れていたのならともかく、彼はたぶん、わざわざ手間をかけてレイナを探しているのだ。前にアレイスは、貴族に襲われている人々を見ても、積極的に助けようとはしなかった。単に困っている人を放っておけない、なんて性格には見えなかった。きっとレイナが彼らを助けたから、アレイスは仕方なく出てきたのだ。
だが、それを探るためには何を尋ねたら良いのかわからない。なぜ助けるのか——可哀想だから、と。そう言われてしまえば、それ以上に何が聞けると言うのだろう。レイナはしばらく悩んでから、彼の顔を見た。
「アレイスは随分と大物なのね?」
「はん?」
「アレイスが手を出すなと言っただけで、彼らは躊躇するのでしょう?」
「そうだな。俺は顔が広いと言っただろう」
それは顔が広いというレベルだろうか。
言葉を聞くだけでも、ヘイスベルトのいる組織は大きそうな印象を受けるし、魔術師を何人も擁しているという組織も得体が知れない。アレイスはそれぞれを牽制するだけの力を持っているのだろうか。
そう考えて、先ほどの彼の言葉を思い出した。
「アレイスが知っているという元貴族の三人……彼らはどちらかの組織にいるの?」
彼はレイナを見て、可笑しそうに笑った。
「そんな機密事項をあんたなんかに漏らせるわけはないな」
「今までさんざんしゃべってた気がするけど」
そういうとアレイスは少し考えているようだったが、まあいいか、とあっさり頷いた。
「一人は俺も会ったことはない。一人は各地をふらふらしてるから何処にいるか分からねえし、もう一人はとっくに墓の中だな」
「そう。会えないのね」
残念そうに言ったレイナを、アレイスはしばらく見ているようだった。レイナは口を開いて何か質問を探そうとしたが、言葉は頭の中で霧散して言葉にならない。考えることもわからないことも多すぎる。
黙ったレイナに対して、アレイスは唐突に言った。
「ところでレイナ。俺はあんたを信用できない」
「……どういう意味で?」
「レイナがヘイスベルトのところに行こうが、魔術師のところに行こうが、俺は構わない。が、今、この情報を持って王都に向かわれるのは困るな」
レイナは彼の顔を見ながら、慎重に尋ねる。
「アレイスも貴族を打倒しようとしている人間の一人だから?」
そんなレイナの言葉に、彼は軽く笑った。
話を聞く限り、彼自身もどちらの組織にも属していないのだろう。だが、どちらとも友好的である、もしくはどちらに対しても発言権があるのだとしたら、彼が王権打倒を目論む人々と志を異にしているとは思えない。
そう考えると、レイナがそれに賛同できない以上、アレイスからは距離をとったほうが良い。が、彼の言葉を信じるなら、彼の元を離れればレイナはどちらの組織からも狙われることになる。
「そんなところだ。——が、それだけじゃない。あんたに情報を渡して逃したとなれば、俺がヘイスベルト達に殺されかねないからな」
「じゃあ、どうするつもり?」
「とりあえず俺と同じベッドで寝るのが嫌なら、その辺の床で寝てろよ。しばらくは俺と同じ部屋から出す気は無いからな」
彼の話が全て本当だとして、レイナを監視したいというのは当然ではある。が、レイナは眉を寄せた。
「いつまで? あなたが私を信用できるまで側にいろって?」
そんな日が来るとは思えない、と言外に滲ませる。レイナでさえ、自分がどんな行動を取るのか決めきれていないのだ。彼はレイナの問いには答えなかった。ベッドの下に落としていたナイフを拾うと、無造作にこちらの足元に滑らせた。
「言っとくが、俺が死ねばヘイスベルト達も気兼ねなくレイナを狙えるからな。俺のことは大事にした方が身のためだぞ」
彼はごろりと横になってから、不敵に笑った。




