第五章(10/11)
黙ってしまったレイナに何を思ったのか、アレイスは肩をすくめながら言った。
「レイナにとって楽しくない話だと言っただろ。もう一つ、あんたを狙っていたところがあるんだが、言わないほうがいいか?」
あっさりと言われた言葉に、レイナはうんざりとした気分にすらなった。聞きたくない、と言いたいところではあるが、そういうわけにもいかない。
「……聞くわよ」
「王都を出てすぐに襲撃されたろ。あれはどっかの領主かどっかの主管が絡んでる。領主であれば王都の情報も手に入るからな。そっから情報を仕入れたどっかの主管が、手駒を使ってレイナを手に入れようとしたのか、そっから漏れた情報を聞きつけた人間がいたのか。どちらにせよ、貴族は高く売れる。その見た目が良いのか、元貴族だったというステータスが良いのか、普段ペコペコせざるを得ない領主に対する鬱憤でも晴らしたいのかは知らないがな」
レイナが王都から出るという情報は、確かに領主であればいくらでも入手することはできるだろう。そうでなくとも王都に出入りしている使用人たちも知ろうと思えば知ることができる。別に貴族たちにとっては知られて困る情報でも無いのだ——困るのはレイナただ一人。
レイナは重い息を吐き出す。
考えなければならない情報が多すぎて、どれから整理していったら良いのか分からない。だが、まず考えるにあたって一番に確認しなければならないことがある。
「私やラウを手に入れたいと思ってるのは、それで全部?」
「さあな。だが、少なくとも俺が知ってるのはその三つだな」
「それならアレイスは?」
レイナの言葉に、彼は目を光らせる。
ヘイスベルトはアレイスがレイナを独占したいのだと言っていた。アレイスが手を出すなというなら手を出さない、と言っていたということは、彼らは仲間ではないのだ。だが、協力はしてもらう、ということは少なくとも敵対はしていない。
「結局、他の誰でもなく、あなたが私とラウを手に入れてるわけでしょう。あなたは何を企んでるの?」
彼はレイナの視線を受けて、何とも言えない顔をした。神妙な顔を作っているようにも、笑いを堪えているようにも見える表情に、レイナはさらに視線を鋭くする。
「俺は——そうだな。可哀想だなと思って」
「は?」
彼の口から出たとは思えない言葉に、レイナは思わず声をあげた。彼の表情は変わらない。
「どういう意味?」
「可哀想にどういう意味もこういう意味もあるか? 俺は単純にあんたらを憐んでる。どこにとっ捕まっても良いことはないだろうからな。情報を吐くまで拷問されるのも、魔術師の子供を産む道具にされるのも、どこかの変態の慰みものになるのも、どれも可哀想だろう」
それが可哀想な話であることは間違いない。
が、だからと言ってそれを全く関係のないアレイスがわざわざ助けようと思うものだろうか。それに善意で誰かを助けようと考えている人間が、可哀想というのはともかく、憐れむなんて言葉を使うだろうか。
「それなら私たちを憐れんだ優しいアレイスが、私たちを助けてくれたの?」
「言葉に棘があるな。俺は優しいだろう。少なくとも今のところは、手は出しちゃいない」
「それは、いずれは私たちを利用しようとしてるってこと?」
レイナの言葉に、アレイスは軽く笑った。
「仮にそうだとしても、そうだという馬鹿はいないだろうな。——が、レイナが信じるか信じないかは別として、俺自身はあんたらに利用価値があるとは思ってない」
「でも高く売れるんでしょう? ヘイスベルトのところなり、どこかの変態のところになり持ち込めば」
「そりゃ高く買う人間はいるだろうが、別に俺は金には困ってないからな」
「それなら、私たちや私たちから出た情報を利用すれば、あなた自身を高く売りつけられるんじゃないの?」
お金でないのなら恩を売るなり名前を売るなりするのに使えるのではないか、と思ったのだが、彼は鼻で笑っただけだった。
「人の善意を素直に受けられないってのは可哀想だな」
「おかげさまでね」
「まあいい。俺が手を出すなと言えば、ヘイスベルトたちのところも、魔術師のところも一旦は躊躇するだろう。が、それ以上は知らないな。相手が本気で仕掛けてくるようなら、俺も自分の身を危険にしてまであんたらを守る義理はないからな」
それはそうだと思う。アレイスが自分の身を犠牲にしてまで、レイナを守ってくれるなんて思ってはいない。そもそも彼が、なんの見返りもなくレイナを守ってくれているところが、一番理解できないのだ。




