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第五章(9/11)


「私から王都の情報を聞き出そうって? 王権を打倒するために?」


 レイナは十六になるまでは王都で貴族として生活してきた。もちろん、ここにいる人々よりは内情に詳しいと言えるのかも知れない。が、レイナはまだ子供だったのだ。王宮の内部になど入ったこともなければ、国政の人事も分からなければ、軍事情報などもちろん知り得ない。だからこそ、学校を卒業し国の仕事を与えられる前の十六歳で王都を追われるのだ。


「私なんかが知っている情報が、何かの役に立つとは思えないけど」

「そりゃ、あんたが国王と側近の確執を知ってるなんて期待はしてない。だが、貴族の数は少ないからな。貴族の子息は必ず王都にある一つの学校に通う。そこには陛下の子供もいるはずだし、将軍の息子も領主の娘もいるはずだ。例えば彼らの家族構成なんかが分かるだけでも悪くない」


 アレイスの言葉に眉根を寄せる。

 確かにそうしたレベルの情報なら、レイナでも知っていることは多いだろう。むしろ十八になると国から役割を受けて領地や各所に散らばってしまうため、王都で人々が集約しているのは学生の頃なのかもしれない。ステフェンやリュートのような友人たちも、本来であれば雲の上の存在であり、学校がなければ出会うことのなかった人々だ。


「貴族の人口はおよそ二千人強。そのうち幼い子供と老人を除いて動けるのは七割か。そのうちの半分は王都にいて、残り半分は各地の領地に散っている。各地の領地にいる貴族たちの構成の大半はわかっているし、王都にいるおおよその人数も把握できてる。あとは細かい部分をうめていくだけだから、そういう意味でも王都で暮らしていたという人間の情報は貴重だ」


 淡々と続ける彼に、恐ろしいものを感じて寒くなった。


 貴族の人口なんてレイナも初めて聞いた。二千という数字は最初に聞いた時には想像よりも多く感じたが、彼のいう通りその中には老人やほんの赤ん坊も含まれているだろうし、国の機能を維持したり諸外国に対する守りを残す必要があると考えると、何か事が起こったとしてもそれを平定するために割ける人数は限られている。


 いくら魔術を使えたところで、数では圧倒的に不利なのだ。彼らはそれを冷静に整理することによって、貴族に対抗する手段を考えようとしている。


 言葉の出ないレイナに、彼はさらに絶句させるような言葉を続ける。


「それに、情報を絞るだけでなくあんたを人質にしてもいい。親でも友人でもなんでもいいが、あんたを引き合いにおびき出すなり、命令を聞かなきゃレイナを痛めつけると脅すなり——まあ使い道は色々あるだろうからな。十六年も王都にいたのなら、あんたが死ぬと悲しむ人間の一人や二人くらいはいるだろう」


 思いがけない言葉に、レイナは刺されたような胸の痛みを感じた。


 人質としての価値。

 そんなもの王都を追われた自分には無いと言いたいが、果たして本当にそうだろうか。レイナが王都にいたとして、もしも外の世界にいる家族や友人が助けを求めていると知ったら、助けられるものなら助けたいと思うのではないだろうか。自分の身を危険に晒しても、と思うかもしれないし、魔術を使える自分が人間たちに負けるわけがない、と思うかもしれない。


 ちらりと浮かぶ両親や弟、それからステフェンたちのような大切な友人の顔を振り払いながら、レイナはなんとか言葉を返す。


「ヘイスベルトの言ってる貴重というのはそう言う意味なの? 彼らは貴族に対する情報や手段を集めて、国を倒そうとしてる……?」

「あんたに言うまでもないだろうが、それどっかで公言したらすぐに口を封じられるからな。発言には気をつけろよ」


 言われなくとも、こんな恐ろしいことを口外する気は無い。だが、彼らには簡単にそれが出来ると言わんばかりの言葉には寒気を感じる。


「ヘイスベルトは私を欲しがっている人間は多いって言ってたけど、そんなにたくさん貴族を憎んでいる人がいるの?」

「一番大きな組織は奴らのとこだな。ほかには、魔術師を集めてるとこがある」

「は?」


 理解のできない言葉を投げられ、レイナは目を瞬かせた。


「民間で生まれた魔術師は王都で貴族となることができる——だが、貴族どもをぶっ潰そうと考えてる奴らがそんなこと許すと思うか? 相手に渡せば敵が増えるだけだし、手元で育てれば絶大な戦力になる。奴らは魔術師が生まれたら、王都に届け出る前に協力させようとするか、問答無用でさらってくる」


 レイナの中で、魔術師であるということと貴族であるということはイコールである。王都の外に貴族と敵対しようと思っている魔術師がいるなど考えたこともなかったし、きっと王都の中で生活をしている大部分の人もそうだろう。


「そいつらも、レイナが欲しいだろうな。魔術が使えないにせよ、王都で魔術を本格的に学んでいるのは確かだ。魔術師たちの指南役になるし、なんならその魔術師たちの子供を産ませたい」

「……なによそれ」

「気の長い話だけどな。レイナは魔術師の血を濃く引いてるから魔術師と交わらせれば、子供として魔術師が生まれる可能性も高い。一人でも多い方がこちらの有利になることは間違いないし、ほんの子供でも魔術の才さえあれば使い道はある」


 レイナの人格をあまりに蔑ろにする発言である。


 が、あまりに想像からかけ離れた話に、怒りが湧くとか困惑するとか、そうした感情が働かなかった。彼らは魔術師を擁している。アレイスの言い方からすれば、一人や二人ではないのだろう。とすれば、貴族を倒そうというのは夢物語でも何でもないのだ。本気で彼らは国を打倒しようとして長い時間をかけて動いている。

 

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