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第五章(7/11)


 部屋に戻ると、アレイスは寝台の上に丸まっていた。枕を抱くようにして丸まって眠っているのはいつものことだ。相変わらず随分と可愛らしい寝姿だと思うが、最近では子供みたいだというよりは、腹を守って眠る何かの獣のようにも見える。


 まだ日も落ちていないが、退屈で眠ってしまったのだろうか。顔を覗き込もうとすると、彼はパチリと目を開けた。その瞳はすぐにレイナの顔を見上げる。寝起きの悪い彼にしては寝ぼけたような表情もないため、眠っていたわけではないのだろう。


「戻ったのか」

「おかげさまでね」


 アレイスは壁を背にするように上体を起こすと、あぐらをかいて座った。


「おかげさまで?」

「アレイスが私に手を出すなというならしばらくは大人しくしよう——って言ってたわよ。へイスベルトが」


 ヘイスベルトに言われた言葉をアレイスに伝える。

 彼の反応を注意深く見ていたのだが、アレイスは頭をかいただけだった。あくびまじりに言ってくる。


「まあ、あいつならそう言うだろうな」

「協力はしてもらうけど、とも言っていたけど」

「協力ね」


 そう言って彼は首を回すようにする。何度か首を動かしてから、こちらに視線も向けずに言う。


「で、暇つぶしはできたのか?」

「彼らの言う協力ってなんなの?」

「さあな」


 その返答には、考えるそぶりもない。


「彼らは私が貴重だとも言ってたわよ」

「レイナの何が貴重だって?」

「私も同じことを聞いたら、アレイスに聞けって言われたわ」

「ふうん」


 全く気のない返事に、レイナは苛立つ。そんなレイナを見て、どういうつもりか彼は笑った。


「それで? 教えてもらうために俺のベッドに裸で突撃する気になったのか?」

「……年齢よりはずっと知りたい情報ではあるけどね」


 レイナは彼の座っている寝台に近づくと、ベッドの上に片膝だけ乗せる。そして懐からナイフを取り出した。それを見ても、アレイスの飄とした表情が変わることはない。何をするつもりなのか、と面白そうに眺めている彼に、レイナは眉をしかめる。


「別にアレイスは私のことなんか、なんとも思ってないでしょう」

「男が好きな女しか抱けないと思ってるのか?」

「そうであれば、もっと世界は平和だと思うんだけど」

「そうか? こっち側からすれば、そんな世界は地獄だけどな」


 そんなことを言った男に、レイナは軽くナイフを放った。刃を向けないように慎重に落としたそれは、彼の膝のあたりに転がる。アレイスはそれを拾ってから、首をかしげた。


「なんのつもりだ?」

「とりあえず、あなたから話を聞くにあたって、武器になりそうなものは捨てたわよ。——話の内容によっては、思わず手が出たら困るものね?」


 話をしてもらうことを前提に言った言葉に、彼は理解ができないように眉根を寄せた。そのまま手元のナイフを見下ろす。


「なるほど。これでレイナの服を切り刻めと」

「それがあなたの趣味でも軽蔑はしないけど、今後は私に寝顔を見せないように忠告はするわね」


 まっすぐに彼の目を見下ろして言ったレイナに、アレイスは微妙な顔をした。何を考えているのだろう、と思っていると、やがて彼は堪えきれないように吹き出した。そのまま腹を抱えるようにしてひとしきり笑った後に、彼は手にしたナイフを無造作にベッドの下に放る。

 なぜ笑われているのかわからないレイナは、思いきり顔をしかめた。


「何がおかしいのかしら」

「いいや。たくましいなと思って」


 出会った時にも聞いた言葉に、眉根を寄せる。


「レイナなら、一人でどこででも生きていけそうだな」

「一人で生きていけないから、今こんなところであなたの『秘密』に付き合わされているんでしょう」

「そりゃそうだが、まあ、仕方ない。まだ王都をでて間もない、赤ん坊みたいなもんだろ」


 彼はそう言うと、急にレイナの襟元を乱暴に引いた。

 もともと片足を寝台にあげていたこともあり、レイナは体勢を崩してアレイスの上に倒れる。思わず小さな悲鳴が上がったことに、自分自身で驚いた。彼の胸に顔面をぶつけ、片手で抱きとめられるような形になる。咄嗟に身を硬くしたが、アレイスは自分の上にレイナを引き倒しておきながらそれ以上のことは何もして来ない。

 レイナが伏せていた顔を上げると、間近に面白がるようなアレイスの顔があった。


「どういうつもり?」

「隙あり」

「……何よそれ」

「やろうと思えばいつでも押し倒せるってことの確認かな」

「別にそんな確認をしてもらわなくても、あなたがやろうと思えば、私が寝ている間に襲うことも殺すこともできたってことは知ってるわよ」


 彼がその気だったら、とっくにそうしていただろう。だが、少なくとも彼にそんなつもりはないのだ。彼は軽く肩をすくめる。


「殺すのはもったいないな。殺すくらいなら高値で売り払う。あんたを欲しがる人間は多いからな」

「私は貴重、だから?」

「まあな。そんなに聞きたいなら教えてやってもいいが、レイナにとってはあまり楽しい話ではないと思うぜ」


 彼は未だ片手でレイナの服を掴んで引き寄せたままだった。レイナが頷こうとすると、彼はそれを制しするように、服を掴んでいる手に力を入れる。


「それに、聞いたら今度こそ離してやれなくなる。まあ、どちらにせよ遅かれ早かれ巻き込まれるかもしれないがな」


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