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第五章(2/11)

**


「いい子そうだったな」


 ステフェンがそう言うと、リュートは少しだけ奇妙な顔をした。彼はステフェンの執務机に半分腰を掛けるようにして、立っていた。応接用のソファに深く座っているステフェンを見下ろすようにして、頷く。


「そうだな。いい子そうだった」

「何が引っかかった?」

「んー?」


 彼は息とともに声を吐き出しながら、先ほどの会話を思い出すようにしていた。単なる印象を言葉にはできないのだろうか。そう考えていると、少し悩むようにしてから彼は口にした。


「引っかかったところがあるとすれば、ステフェンの名前に反応してたことかな」

「名前?」


 ステフェンは首を傾げる。

 彼の姓を聞くためにステフェンは姓名を名乗って自己紹介したのだが、そう言われると彼はステフェンの名を注意深く聞いているようにも見えた。


「ベラルト家は一、二を争う名家だ。そりゃ、王都に来て間も無くでも知ってておかしくないかもしれないが、それでアレックスの友人か?って聞くかな」

「どういうことだ?」

「俺ならいくつも年長に見える、身分も随分と格上の相手をつかまえて友人かとは尋ねない。外の習慣は知らないし、王都の外の人たちからすれば貴族はどれも同じなのかもしれないが」

「それだったらベラルトの名前に反応するのはおかしい、って?」

「なんとなく、名前を知ってることを隠そうとして言ったみたいに聞こえたからな」


 ふうん、とステフェンは呟く。


 リュートの感覚が正しいとして、それはいったいどういうことなのだろう。ベラルトは確かに名家である。王都で暮らす貴族であれば知らない人間はいないだろう。だが、王都の外に暮らす国民たちの間で、国王と領主以外の貴族を知っている人はどれほどいるのだろうか。


 だが、だからと言って、知っていたところで隠す必要などない。普通なら。


「ステフェンは何が気になったんだ?」

「ユリウスに別に気になるところなんてなかったよ」


 確かにどんな人間なのか気になって会いに行ったのだが、ステフェンはリュートと違ってなんの引っかかりも覚えなかった。人の印象を見る、というところではステフェンよりもリュートの方が向いていると思っていたから、連れて行って正解だった。


「ただ、十三歳はやっぱり遅いなと思って。見た感じも聡そうな子だったからね。自身に魔術が使えることに気づいていなかった、ってタイプには見えない」

「本当に最近、精霊が見えるようになったのかもしれないが」

「そうだな。……これは口外されると困るんだが」


 ステフェンがそう言って彼を見上げると、リュートは軽く頷いてこちらの話を促してきた。彼がステフェンとの話を口外しないことは知っているが、仕事の話をするときには、何かしらの前置きするようにしている。


「うちの州内にあるサウテンデイク領で魔術の応酬が目撃されているらしい。片方はサウテンデイクの家のものかもしれないが、もう片方は不明だ」

「不明……?」

「サウテンデイクの領主を召喚しているのだが、体調不良だとかで面談が実現してない」


 領主であるエルヴィンに使者をやったのだが、待たされた挙句に返ってきたのが体調不良という返事だった。それなら代わりの者を寄越すようにと言っているが、それはまだ実現していない。


「魔術の応酬、とは穏やかじゃないな」


 顔をしかめるようにして、彼は言う。貴族同士の魔術を使った私闘はかたく禁じられているし、相手が貴族ではないとすれば——。


「まさか、ユリウスを疑ってるのか?」

「それはないだろう、とは思ってるけどね。まだ十三だろう。王都で魔術を本格的に学んだわけでもない子供が、領地を治める貴族たちとやり合えるかな」

「俺らが十三だったら、十分にやれたと思うけどな」


 友人の強気の台詞に、ステフェンは苦笑しながらも頷いた。


 魔術というのはそもそも精霊たちの力を借りるものであり、精霊を使役する術さえ知っていればそれなりに戦える。いかに強い精霊を支配し、なおかつその精霊の力を制御できるか、というのが魔術師の力量なのだが、ステフェンもリュートも先天的な才能に恵まれていた。彼のいう通り、十三の時点でも大人たちと変わらぬ実力を持っていたのだ。


 二人とも名家に生まれている。生まれた家柄に恵まれている、ということは、大抵は魔術師としても恵まれているということだ。かつて一番偉大な魔術師が国王となり、力を持つ魔術師が国王を支える有力な貴族となった。彼らは子を有能な魔術師とするため、妻を迎えるときには魔術の才があるものを選ぶ。貴族としての格は、家柄と同時に魔術師としての格でもある。名家は有能な魔術師を残し続ける事で、永く貴族の中でも地位を保っているのだ。


「確かにやれたかもしれない。が、街で貴族とやりあっておいて、ほいほい王都に出向いてくるかな? 少なくとも俺にそんな度胸はないし、彼もそんな無茶な人間に見えなかったな」

「だがそれなら、街中で目撃されたという魔術師が他にもいたことになる。普通に考えれば、どこかの貴族が訪ねてきた、となるんだろうが」

「普通に考えればそうだろうね」


 王都の外に魔術師がいる、とは考え難い。


 が、外から王都にやって来る魔術師は明らかに減っているのだ。それは、純粋に魔術師が生まれる数が減っているということなのか——それとも。


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