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第五章 王都に手を伸ばすもの(1/11)

**


「見たことのない顔がいるな」


 リュートの視線を追っていくと、そこにはアレックスともう一人。王都には珍しく、黒にも近い暗い茶色の頭をした少年の顔を見たのは、ステフェンも初めてだった。アレックスと一緒に食事を取っているということは、彼と同じ学年なのだろう。小柄で細い手足。未だ幼さの残る体つきをしているが、利発そうな黒い瞳と表情はどこか大人びて見える。


「ユリウスだろうな」

「あの外から来たっていう?」

「ああ。王都の外から魔術師が入ってくるのは随分と久しぶりだ」


 魔術を使えない貴族は王都を追放されるが、魔術を使える市民は貴族に取り立てられる。それは権利ではなく、国民の義務である。魔術を使えることがわかった段階で領主に申し出て、王都に向かう必要があるのだ。だが、義務とはいえ本人は特権階級としての身分が保証されるということもあるし、残された家族にも多くの報酬が渡されることになっている。これまで、この義務に違反したとして処罰されたものなどいない。


「それにしても、十三か? 随分と遅いな」

「そうだな。初めて魔術が使えるようになったのがつい最近とは、とても思えない」


 ステフェンの言葉に、リュートは少し首をかしげる。


 ユリウスの前に貴族に取り上げられた市民が王都に来たのは、五年前。五歳の少女だった。普通の人には見えない精霊を物心ついた頃から見ていた少女は、周囲からずっと気味悪がられていたそうで、その評判を聞いた領主が王都に連れて来たのだ。

 

 ステフェンもそうだったが、魔術を使える人間の半数は、物心ついた頃から精霊の姿を見ることができる。成長とともに認識しだす人間もいるそうだし、かつては十五になってようやく魔術を使えた貴族もいたらしいが、それはやはり珍しいのだ。


「何か引っかかってるのか?」

「……いいや」


 ステフェンは首を横に振った。だが、引っかかるか、といわれると、確かに引っかかるものはある。


 ステフェンは魔術師の人口の推移についてしばらく調べていた。王都で暮らす貴族の数は年々減っている。戦の前線に立つこともあるため、老衰や病気以外で死ぬ貴族も少なからずいるし、それに対しての出生率は上がらない。魔術師が国を治めるようになってから、婚姻相手を魔術師に限定しているから当然なのだ。もともと頭数の決まった中で婚姻を結び、子供を産むしかない。そして産んだ子供も必ずしも魔術を得るとは限らない。それで魔術が使えなければ外に放り出すのだから、数は減る一方である。


 増える要因があるとしたら、ユリウスのように王都の外から入ってくる魔術師がいることだが、その外部からの流入の数も年々減っていた。かつては一年に一、二件の子供の受け入れをしていた記録があるのだが、最近ではほとんどないのだ。この王都にある唯一の学舎には、五歳から十七歳までの子供が四百名強在籍しているのだが、その中で外部からの受け入れはユリウスを除くと二名だけだ。


 ステフェンはリュートを伴って、アレックス達のところへ向かった。


 レイナの弟である彼とは、何度も彼女の家で顔を合わせたことがある。彼女が王都を去ってからも一度、ステフェンの屋敷に食事に呼んでいた。単にステフェンが彼の味方である、ということを周囲に示すためのパフォーマンスだったが、アレックスもそれはわかっているだろう。


「ステフェンさん、リュートさん」


 ステフェン達の姿を見つけて、アレックスは慌てた様子で席を立った。レイナと同じ、黄金色の髪がさらりと揺れる。ステフェンは気にしなくて良いということを示すように手を振ったが、彼は座ろうとはしない。机の上には、もうほとんど空になった皿が乗っていた。アレックスと向かいに座っていたユリウスは、アレックスの顔を見上げ、それからこちらの顔を見上げてからすっと席を立った。座っているのは失礼だと感じたのだろうか。


「食事の邪魔をしてすまない。——彼は?」


 アレックスは、ユリウスです、と言った。

 金髪で碧眼、白い肌をもつアレックスは王都の魔術師たちに多い特徴であり、ユリウスの暗い髪色と黒い瞳は王都の外に住む人々に多い特徴である。もともと精霊使いと呼ばれていた魔術師達は全員が金髪碧眼だったという記録があるから、ユリウスのような見た目は混血が進んだ結果なのかも知れない。王都に全くいないわけではないが、この食堂の中にいてもユリウスの姿が目立つことは確かだ。


「つい先日、僕と同じクラスに編入して来ました」


 編入、というのは王都の外から来た、ということだろう。ステフェンは真正面からユリウスを見ながら、頭一つ背の低い彼に手のひらを向ける。


「初めまして。ステフェン=ベラルトです」

「ユリウス、ボルケステインです。……アレックスのご友人ですか?」


 彼は緊張した面持ちで、ステフェンの手を取った。


 ボルケステイン、という姓は王都に来てから授けられたのだろう。聞き覚えはなかったが、きっとボルケステイン家の養子として迎えられたのだ。王都の外から迎えられた魔術師は、子が無いなどの理由で後継のいない家の養子となることが多いと聞いている。


「ああ。こちらはリュート=サフィラス」


 ステフェンがそう言うと、リュートは親しげにユリウスの手を取った。見習いたくなるような満点の笑顔に、ユリウスもほっとしたのか微かにはにかむような笑顔が見える。


「初めまして。馴染むまでは時間がかかると思うけど、困ったことがあったらなんでも言ってくれ。俺はともかく、こっちのステフェン様が力になってくれる」

「リュートもちゃんと力になってくれるよ。アレックスもだろうけどね」


 ステフェンがそう言うと、ユリウスは真剣な顔をして頷いた。


「ありがとうございます。知り合いがほとんどいないので、そう言っていただけると本当に心強いです」


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