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第四章(9/9)


「どういうつもり?」 


 レイナの言葉に、アレイスは首を傾げた。彼は自身の持ち物である小さな袋を床に放ると、部屋の大部分を占める寝台に腰をかける。


 先ほどまで一階の食堂のような場所で、ラウと三人で軽く食事をとっていた。他の人は部屋にこもっているのか、気配はあるが食堂に降りて来た人間はいない。ヘイスベルトもすでに食事は取っていたらしく、またねと言って席を外した。そして食事の後は、アレイスに案内されて部屋にやって来たのだが。


「どうってなにが」

「なんで私があなたと同じ部屋にいなきゃいけないのよ」

「だってレイナは俺の女ってことになってるだろう」


 彼はそう言うと、そのまま上体をベッドに倒した。天井を見上げながら、両手を伸ばすようにして体を伸ばす。しばらく伸びをしているようだったが、彼はごろりと横を向くと、ぽんぽんとシーツを叩いた。

 

「ほら。狭いが、二人で寝られないことはない」

「……嫌に決まってるでしょ」

「そんなこと言ったって、他に部屋は空いてねえもんよ」

「あなたの横で休むくらいなら、ラウの部屋で床に寝た方がマシよ」

「わかってないな。あいつも男だぞ」


 楽しそうに言われて、レイナは眉根を寄せる。それは十分にわかってはいるが、それでもアレイスよりは何倍も安全な気がするのは気のせいだろうか。


「じゃあ、あなたがラウと一緒の部屋で寝たらいいじゃない」

「俺が襲われたらどうする」

「私が助けに行ってあげるわよ」


 レイナの言葉に彼は笑った。

 彼は腹筋を使って上体を起こすと、そのまま立ち上がる。入り口のところに立っていたレイナに近づいてきたので、レイナは腰にかけた剣に手をかけて見せる。アレイスはそれを見下ろして、やはり笑った。


「頼むから、部屋の中でそんなものを振り回して壁に傷をつけてくれるなよ」

「あなたが私に近づかなければね」

「はいはい」


 アレイスはそう言うとレイナを両肩を持って押し出すようにした。ドアの前からどかされるように移動させられ、レイナは目を瞬かせる。


「どこに行くの?」

「ラウのところで寝ろって言ったのはあんただろ」


 彼は自分の荷物も持たずに出て行こうとする。


「荷物は?」

「だって俺の部屋はここだし」


 そう言うと、彼は手ぶらのままドアに手をかけた。出て行けと言ったのは確かだが、こんなにあっさり出て行くとは思っていなかった。それにレイナが密かに驚いていると、いつの間にか彼の顔が間近にあった。咄嗟に距離を取ろうとした動きを、頭の後ろに回された掌で止められる。


 なに——と聞く間もなく、レイナの頰に口付けられた。おやすみ、と言って離れた彼を、レイナは呆気に取られて見ていたが、すぐに彼を睨み上げる。


「……なにするのよ」

「おやすみのキス。頬にキスしても怒られるなら、最初から口にしておけば良かったな」

「今度やったら叩き斬るわよ」

「ふん。やれるもんならやってみな」


 アレイスはそう言うとレイナの顔に手を伸ばしてくる。鼻をつまもうとでも思ったのか、レイナの鼻先に彼の指が触れ、その手を思い切り払った。と同時に、腰に下げていた剣を一気に引き抜いた。彼の体をかすめるような一閃に、アレイスは全く動かなかった。動けなかったのか——動かなかったのか。咄嗟の反応が見たかったのだが、見事になんの反応も見せなかった。


 瞬きを一つだけした彼は、鼻先に向けられた刃を無造作に指で摘んだ。


「この至近距離で随分と器用な真似をするな。さすが」


 感心したような口調に、レイナは顔を顰める。


「私がやれないと思ってるの?」

「やれないかどうかは知らないが、やらないとは思ってるぜ」

「どうかしら。壁に傷はつけない自信はあるわよ」

「できれば俺にも傷はつけないで欲しいな。この顔は結構気に入ってるんだ」


 彼はそう言って笑う。指で持った刃を避けるように降ろさせると、ドアを開けた。


「部屋には鍵をかけて外に出るなよ。まあ別に俺のことも信用はしてないと思うが、俺とラウ以外のやつは余計に信用するな」


 前の町にいた時に、彼はそんなことは言わなかった。新しい街に来たから注意しろと言っているのか、それとも誰か注意すべき人がいるのか。


「さっき会った人達のことを言ってるの?」

「それも含めてな」


 後ろ手にドアを閉めながら、彼はおやすみと言った。


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