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第四章 剣と魔術はどちらが速いのか(1/9)


 レイナが外出する許可をアレイスに求めると、彼は面白そうにこちらを見上げた。


「ここを出て行くのか?」

「出て行っていいの?」

「いいや」


 アレイスはそう言うと、立ち上がった。

 俺も行く、と言うので、レイナは肩をすくめた。止められるか、ついてくるか、どちらかだろうと予想はしていた。彼は昨日から、ずっと外出していない。普段は昼間は何かしら出かけていることが多いから、こんな風に留まっているのは珍しい。何かを待っているのか、何もすることがないのかはわからない。


「暇なの?」


 建物の外に出ても、彼はレイナの横に並ばない。少し後ろを歩いているアレイスを振り返り、聞くと、彼は「ああ」と頷いた。


「どこに向かってるんだ?」

「別に、行きたいところはないけど」


 レイナは左右を見回しながら、町を歩いて行く。


 王都を出て一人で歩いているときには、常に緊張して周囲に注意を払っていた。町についても、荒野で獣に怯えていた時とさほど変わらない緊張感を常に抱えていたのだ。それを考えると、今は随分と気楽なものだ。後ろに知り合いがいるということもあるが、そうでなくとも体調も悪くない。一人二人が襲ってきたところで余裕で返り討ちにできるだろう。

 

 何より、戻る場所がある、ということが大きい。どうやって食料を手に入れ、どうやって夜を明かせば良いのか、と一日中考え続ける必要がないのだ。どこに向かえば良いのか、と途方にくれる必要もない。


 それを考えるとやはり、レイナには拠点が必要だ、と思う。

 仕事に住む場所。できれば、信頼できる知り合いや仲間。後ろを歩いている男は、とりあえず後ろから斬りつけられることはないだろう——と思う程度には信用しているが、それ以上はよく分からない。


 レイナはしばらく歩いていた。暮らしている建物を中心に、頭の中に地図を描きながら歩いていると、どうやら町の端についたらしい。目の前に建物が見えなくなり、長く伸びる道だけが見える。そこからぐるりと町の周辺を回るように歩いて行く。


「探検でもしてるのか」

「ええ」


 退屈なのか、後ろから声をかけてきた。

 レイナはそれに応えながら、内心で眉を寄せる。改めて町の景色を見ながら、レイナの印象が間違っていなかったことを知る。


「アレイス。ここの町の名前は?」

「ラナンクルス」

「あなたと会った町とは違うわね?」

「ああ。良くわかったな」


 アレイスの言葉に、レイナは振り返った。

 彼の顔には、特にどんな表情も浮かんでいなかった。強い風を受け、鬱陶しそうに髪をかきあげているが、それだけだ。レイナも風と共に顔に打ち付けてくる砂埃に目を細めてから、首を傾げる。


「私がいたのはなんていう町?」

「ネブラ。それが?」

「近くなの?」

「馬車を使えばここから丸一日ってところかな」

「……家が近いって言ってなかった?」


 彼はレイナを助けてくれるときに、家がこの近くだと言っていた。だから、レイナはてっきりこの町で彼と出会ったのだと思っていたのだが、どうも記憶の中にある景色とこの町の景色が重ならない。今日はそれを確認するために、歩いてきたのだ。


「素直にあんたのことつけてたんだ、って言ったら気味悪るがられるだろ」

「なんでつけてたの」

「一目惚れ」

「……あなたの言葉って、ほとんど嘘なの?」


 そう言うと、彼は声を出して笑った。


「そんなに自分に自信がないのか?」

「そういうわけじゃないけど、あなたのそれは嘘でしょう」

「どうしてそう思う」

「勘よ」


 レイナの言葉に、彼は面白そうに笑う。


 そんな彼にくるりと背を向けて、レイナは歩き出した。アレイスは商売をやっているのなら、色々な場所にいてもおかしくない。偶然、ネブラにいてレイナを見かけたのだろうか。偶然、遠くの砂漠で起きた魔術のことも知っており、偶然に貴重な石である太陽の涙の存在も知っていた彼が、偶然、助けた少女が元貴族であった。そして連れて帰った宿舎には、同じように王都にいたラウがいる。


 馬鹿な話だと思う。

 ——そんな偶然、あるわけがない。


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