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第三章(11/11)


「密売買を、クルーやリュカにまでやらしてるの?」


 レイナの言葉に、やはり彼は軽く肩をすくめただけだった。


「子供は町中をちょろちょろしてても目立たないからな。使いようによっては役に立つ」

「子供でも、見つかったら死刑になるかもしれないんでしょう? そうでなくても、この間だって、お金を持ち歩いていたから変な男たちに目をつけられたんじゃないの?」

「そうだろうな」


 彼は短くそう肯定した。それ以上の言葉を続けない彼に、レイナは眉を寄せる。


「そうだろうな、って、彼らが死んでも仕方がないってこと?」

「子供だろうが大人だろうが変わらないと思うがな。働かなければ飢えて死ぬし、法に触れることをして捕まれば処罰される」

「子供と大人は違うわよ。子供は自分たちだけで生きてはいけないし、選択肢もない。守られるべきじゃないの」


 レイナの言葉を、アレイスは軽く笑い飛ばした。


「俺から見たらあんたも十分に子供だがな。誰か優しく守ってくれたか?」


 皮肉気な口調で言われ、レイナは口をつぐむ。

 自分の十六という年齢を子供とは思っていないが、確かに自分は成人前に王都を放り出された。そして王都を出てからも、守ってくれた人も助けてくれた人もいない——目の前の彼を除けば。だが、彼の口調はレイナを突き放すもので、彼もレイナを守るつもりなどない、と言っているようにも聞こえる。


 レイナは胸に刺さったような痛みを無視するように、口を開く。


「……私は自分の身を守れるもの」

「奇遇だな、俺もだ」


 アレイスはそう言って笑った。


 だが、レイナは自分の身を守る事すら出来なかったから、ここにいる。レイナにもその自覚はあったから、それを見透かされ、笑われているのかもしれない。彼はこちらを見ながら、茶色の瞳を光らせた。


「だが、子供(ガキ)はそうはいかないだろうからな。奴らも長いものに巻かれて生きるしかないのさ」

「私にも、あなたに巻かれて生きろって言ってるの?」

「そんな回りくどいことを言ってるつもりはねえよ。奴らの話だ」


 面倒そうな口調で言った彼に、レイナは密かに嘆息する。


 アレイスはいったい、レイナをどうしたいのだろう。彼はレイナを助けてここに連れてきて、治療をしてくれ、食事をくれている。部屋も提供してくれているし、レイナの持ち物も返してくれた上に、服や剣も買ってくれた。何か狙いがあるのかとも思うが、ここから逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せたのだ。今のところ特に見返りは求められていない——と思う。


「それなら、私をどうするつもり? いずれ仕事の手伝いでもさせようと思ってるの?」


 眉を寄せて言ったレイナに、彼は首を傾げる。


「レイナみたいに腕も立って頭も回れば、仕事のパートナーにはもってこいだけどな。なにせあんたは目立ちすぎる。俺らの仕事には致命的だな」

「それなら、どういうつもりなの?」

「俺の女にでもならないか、ってずっと言ってるつもりなんだが」

「ならないわよ、ってずっと言ってるつもりだけど」


 レイナの言葉に、やはり彼は笑った。どう見ても面白がっているようにしか見えなかったし、彼の言葉が本気のもののようには聞こえない。


「平行線だな」

「子供でも、働かなければ生きていけないんでしょう? あなたの役に立たないのなら、私なんか放り出したらいいんじゃないの」

「俺らの仕事を知っているやつを、その辺に放り出せると思うか?」


 軽い口調で言われた言葉に、レイナは眉を寄せる。

 レイナがここを出て彼らのことを吹聴して回るのは、アレイスたちにとって脅威だろう。聞いたらただで逃がしてやらない、と言った彼の危惧はもっともだ。だが、それなら最初からレイナに話す必要などないのだ。口を封じる、というのならともかく、監視して閉じ込める必要が生じれば手間がかかる。

 だが少なくとも目の前の彼に、そうした雰囲気は見られない。


「あなたが何を考えているのかわからないわ」


 アレイスは口の端を上げる。


「褒め言葉だな。あったばかりの人間なんかに考えを悟られてたまるかよ」


 彼の言葉に、レイナは深いため息をついた。


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