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第三章(8/11)

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 施政者である貴族の数は少ない。


 それもそのはずで、この国では貴族には魔術師しかなれないのだ。もとより精霊を視ることのできる魔術師というのは希少な存在であり、この国でも二千人程。それは国の人口から考えると千人に一人ほどの割合でしかない。しかも、国の人口自体は増えてきているのに対し、魔術師の数は減り続けている。建国前には四千人超とされていた魔術師も、今では半分以下になっているのだ。そもそも出生数が減っていると言うこともあるし、レイナのように魔術を使えず追放される人もいる。


 今でさえ、人手は足りていない。


 建国時から半分にまで貴族が減ったところで、国を治めるための仕事が減るわけもない。それでいて、有事の際には自身たちが魔術師として兵力となることを想定しているため、全員が職業軍人のような役割も負っている。国の内乱程度なら、国民から徴兵した兵を使わず、貴族たちで編成している隊で制圧しにいくのだ。そのため貴族の人口減少と言うのは、単純に軍力の弱体化、と捉えることもできる。


 もちろん、ステフェンのような若輩が考えるようなことを、上の人間が考えていないはずがない。だが、それならばなぜ、わざわざ王都で育ててきた貴重な人材を減らすようなことをするのだ、と思うのだ。


 王都に貴族以外の人間が存在しない、と言うわけではもちろんない。使用人を含めて身の回りの世話をする人々は魔術など使えないし、一般の商人なども出入りする。わざわざ魔術が使えないというだけで、王都の外に放り出す必要などどこにもないのだ。レイナは魔術を使えはしなかったが、それ以外は人並み以上に有能だった。多少の魔術を使えたところで、彼女に敵わない貴族など掃いて捨てるほどいるはずだ。王都に留めておけば、必ず力になる。


 そうでなくとも、魔術師以外を信用していない貴族たちと、自分たちの存在とは明らかに異なる種の施政者に怯える国民たちとの間には、大きな溝がある。主管や町長、村長といった間に立つ役職を設定したところで、容易に埋まるものではないのだ。ならば、主管に彼女のような王都で育った人材を当てる、と言う手もあるのではないか、と思うのだ。


 それなのに、どうしてわざわざそれらを手放すのか。

 

 リュートとも何度も話してみたが、どう考えても(じつ)がある制度とは思えない。《《見せしめ》》としての意味しか考えられないのだ。貴族が貴族であるためには、魔術が使えなければならない。それを内外に知らしめるためにだけ、存在する制度なのではないだろうか。


「フェリクス、俺の謹慎はいつまでだ?」


 ステフェンが目を上げると、困ったような顔をした彼と目が合う。


「人聞きの悪いことをいいますね」

「陛下からしばらくは俺を外に出すなと言われてるんだろう。謹慎のようなものだ」

「陛下からは、視察の疲れもあるだろうからしばらく屋敷で休むようにと言われているだけですよ」

「疲れてなどいない。それなら領地の視察に出てもいいのか?」


 彼はじっとこちらを見下ろす。薄い茶色の目は、優しい兄のように見えることもあれば、厳しい父のような時もあった。


 ステフェンには母がいるが、ほとんど一緒に暮らしたことはなく、年に数度顔を合わせる程度である。どちらかと言えば、毎日顔を合わせるフェリクスの方を、本当の家族のように錯覚することがある。——だが、真に彼が使えているのは陛下であり、ステフェンではないのだ。


「通常通り視察の計画書を作成して、陛下が承認すれば問題ないと思いますよ」


 静かに言ったその言葉は、言外に陛下が承認しないだろうと言っているようにも聞こえた。ステフェンは、分かった、とだけ言って息を吐く。この状況でじっと王都にいるのは苦痛だ。だがどうせ外に出たところでフェリクスは同行するだろうし、密かにレイナを探すことなど出来やしないのだ。


「謹慎と言えば」


 彼の言葉にステフェンは視線を向ける。


「——太陽の涙が一つ消えたことについて、保管管理者が謹慎させられていましたよ」


 あまりに真正面から言われて、思わず笑いそうになった。


 彼はもちろん、レイナに与えるためにステフェンが盗んだ太陽の涙のことを言っているのだろう。当然ながらフェリクスには内緒にしている事項だったが、どこから情報を手に入れたのだろう。数が足らないのは遅かれ早かれ誰かが気づいて問題になるとは思ってはいたが、自分が盗ったという証拠は残していないはずだった。


 とはいえ万が一、バレたところでその時はその時だと思っている。王都を出たレイナから取り上げることなど出来やしないし、ステフェンに罰を受けろというなら受けるつもりだ。


「紛失か? 盗難か?」

「最終的には紛失ということになるでしょうね」


 微妙な言い回しである。どこからかフェリクスにまで話が来ているともとれるし、積極的に彼が何かしらの手を回そうとしているともとれる。ステフェンが彼を窺うと、その顔に浮かんでいる表情は呆れとも諦めともつかないものだった。


「そうか」


 短く言うと、ステフェンは再度、資料に目を落とす。


 フェリクスの方に追及する気がないのなら、認めても仕方がない。謹慎した人間には申し訳ないとは思うが、どうせ自分が犯人だと名乗り出たところで保管管理者としての責任は変わらないだろう。別に自宅謹慎したところで死ぬわけでもないし、王都を追放されるわけでもない。今のステフェンにとって、その程度のことなら瑣末ごとだ。


 そうは思いながらも、思わず呟いていた。


「……フェリクスも大変だな」


 どういうつもりか、ふ、という彼の吐息が聞こえた。

 若くして陛下の信も厚い有能な彼が、ステフェンのような若輩のお守りをさせられるのは大変だろう。


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