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第三章(7/11)

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「貴族の人口と国民の人口比の推移ですか」


 資料を整理していたフェリクスがそう呟いた。彼の手元を見ると、ステフェンが以前に取り寄せたデータの資料がある。ステフェンが軽く頷くと、彼はこちらに視線を当てた。


「陛下と話をした時に使った資料だ」


 ステフェンが言うと、彼は少しだけ苦笑した。


 そういう意図があるのかどうかは分からないが、彼の目には力があるように見える。こちらの嘘など全て見透かされる気がするのだ。


 だからステフェンは、日頃から彼には嘘をつかないようにしている。どうしても言えないことは口をつぐむようにして、そうで無いことは言ってしまった方が良い。フェリクスは有能だ。膨大な紙束の中に埋もれていても、彼の把握していない資料を見つければ、こんな風にすぐに質問してくる。


「レイナさんの件で、ですね」

「ああ。陛下には一蹴されたけどね」


 そういうと、フェリクスは何故だか軽く頷いた。彼はステフェンより十以上は年長のはずだが、まだ三十にはなっていないのではなかっただろうか。


 彼はステフェンがこの家を継いだ時に、陛下が寄越した補佐役の一人だった。父が他界したのは、ステフェンが十歳の頃だった。今よりもずっと幼かったうえに、ステフェンが継いだものは大きい。前の国王——ステフェンから見れば祖父にあたる人物——が息子である父に継がせた家を継いだのだから当然といえば当然なのだが、ベラルト家は十家の中でも筆頭の家柄である。支配下にある貴族も土地も、他家に比べても多い。


 年若いステフェンがそれを一人で全て管理できるはずもなく、後見人は陛下その人となってるし、補佐役もフェリクスを筆頭に三名ほど与えられていた。


「貴族の数が減っていることについては、国としても長年の課題となっていますからね。当然、陛下も把握しておられることでしょう」


 資料に目を落としながら言った彼を、ステフェンは眺める。

 

「そうだろうな。だが、積年の課題であると同時に、火急の課題でもあるはずだ」

「そうは言っても、訴える時期が悪い。レイナさんを助けるために言っているだけだろう、と思われるだけですよ」

「それは仕方ない。レイナを助けるために言ったんだからな」

 

 ステフェンの言葉に、彼は今度は明らかに苦い顔をする。


「ステフェン。あなたの持っている力は大きい。陛下に直談判して許される人間など、数えるほどしかいませんよ。だからこそ、力の使いどころを間違えてはいけません」

「一人を助けることもできない力に何の意味がある」

「レイナさんのことは本当に残念だったと思います。ですが、あなたの下には大勢の人がいる」


 諭すように言ったフェリクスに、ステフェンは密かにため息をついた。


 ステフェンの下には多くの人がいる、と彼は言う。

 実際には、ステフェンが当主として立っているベラルト家が、国を十分割したうちの一州を治める家柄であり、その下にいくつもの領主——領地を持つ上級貴族——がいる。その下には領地を分割した地方を治める主管と呼ばれる役職があり、その下に町や村がある。


 主管や町長や村長は魔術を使えない、普通の国民だ。町や村で暮らしている人々まで合わせれば、確かに目が回りそうなほどに多くの人がいる。だが、それらの人々の命や生活をステフェンが負っている、と考えられるほど自分に力はない。領主から上がってくる報告を取りまとめるだけでも精一杯なのだ。


 ——そもそもステフェンには、今ここで彼を部屋から追い出すほどの力もない。フェリクスは仕事上では信用のできる人物であるし、ステフェンにとっては欠かすことのできない人物だ。だが、彼の後ろにはどうしたって陛下の存在がある。


「わかってる」


 ステフェンは短く言って、机の上に乗った資料に視線を落とすふりをする。


 レイナを助けるために、陛下には再三にわたって訴えてきた。

 だが、陛下が考えを改めるはずもなく、最終的には彼女の出立に合わせて、ステフェンが王都から離された。彼女の出立を邪魔するとでも思われたのだろうか。だが、レイナのことがなくとも、人口の減少が最大の課題であると言うことは、火を見るよりも明らかではないだろうか、と思うのだ。


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